2014年6月4日、ドイツのホッケンハイム・サーキットで行なわれた自動車部品サプライヤー「TRWオートモーティブ」の先進技術デモンストレーションで、同社の新しいドライバー支援システムが公開され、同社の今後の戦略も発表された。
ヨーロッパでは2014年からユーロNCAP(安全性能評価基準)で自動緊急ブレーキ(AEB)、車線逸脱警報(LDW)を評価基準に加えた。また2016年からは対歩行者用の自動緊急ブレーキも評価項目として採用を予定しており、今後は歩行者だけではなく自転車利用者を含む交通弱者を対象とした試験の追加も検討されている。
一方アメリカではIIHS(米国道路安全保険協会)が、消費者のクルマ選びの基準となる衝突安全性評価「トップセーフティピックプラス」の要件として、前方衝突警報(FCW)または自動緊急ブレーキの搭載を追加している。つまり、運転支援システムの装備が準法規化される潮流にある、ということになる。
TRWのエレクトロニクス部門プロダクトプランニング担当ディレクターのアンドリュー・ワイデル氏は、「世界各国の政府や業界団体が、交通事故死亡者数の削減を目指す中、自動車業界では運転支援システムの活用が引き続き注目されています。一例として、ユーロNCAP、アメリカのIIHSの安全評価プログラムに、2014年から予防安全基準が追加されましたが、前方を監視するレーダーとビデオカメラセンサーを搭載することで新基準を満たすことができます。TRWはこれら予防安全システムの分野において最先端の技術を提供しています」と語る。
TRWはレーダー、ビデオカメラシステムの分野は今後10年間でこうした技術が飛躍的に成長すると予想している。現在、第3および第4世代のセンサーシステムの開発を進めており、当面これらのシステムは業界のニーズに対応するだけでなく、半自動運転および自動運転の根幹となるシステムと位置付けられる。
アンドリュー・ワイデル氏は、「ドライバーが長い時間ハンドルに触れることなく運転が可能な自動運転の実現に向け、車両の全方位(360度)に加え、ドライバーの注意レベルもモニタリングするセンサーがまもなく搭載されるようになるでしょう。このシステムにより、ドライバーの注意が散漫な状態から車体をコントロールできる状態に戻るまで、ある一定の時間の猶予を与えることができます。このためレーダーセンサーには、長距離範囲の全体的な検出機能に加えて、近距離でより幅広い視野をカバーする能力が不可欠です。次世代ビデオカメラセンサーには、高速道路で250m以上先の車両を検知する機能と、低速運転中に周囲の状況をドライバーが把握できるようにする機能を兼ね備えたレンズが使用されることになるでしょう。TRWは、すべての市場、あらゆるセグメントで自動車メーカーをサポートできる、柔軟で拡張性に優れたセンサー製品群を開発をしていきます」と語っている。
ホッケンハイムで公開されたのは、TRWが現在開発中の緊急時ステアリング支援(ESA)システムを搭載した試作車だ。ESAは、衝突の危険がある場合に、自動ステアリング操舵によって衝突の回避を支援するシステム。ESA作動時にはステアリングトルクを増加させ、衝突を回避できるように左または右に車両を誘導し、ドライバーの危険回避を支援する。
ESAは、前方の道路について正確なリアルタイムの画像を提供するビデオカメラ、レーダーセンサーからのデータを電動パワーステアリング(EPS)システムへ接続するインターフェイスから構成される。
このシステムについて、アクティブ・パッシブセーフティシステム担当エンジニアリングマネージャーのカーステン・ハス氏は、「この緊急時ステアリング支援システムは、衝突回避に向けた次のステップだといえます。ドライバーが障害物を避けるためにハンドルを切ると、ESAは最適な軌道を自動計算し、その軌道に従いながら車両を安定して走行させるためのステアリングトルクを加えます。また、いつでもESAによる制御を無効にし、ドライバー自身が車両をコントロールすることも可能です」と説明している。
この緊急時ステアリング支援システムは、TRWとドルトムント工科大学との共同開発で、2018年モデル向けに2017年から生産開始の予定だという。