氷に雪に永く効く 横浜ゴム「アイスガード7」の技術に迫る

横浜ゴムのスタッドレスタイヤ「アイスガード7」について、開発プロセスの一部を知ることができるテストを体験できたのでお伝えしよう。

アイスガード7(iG70)は2021年9月に発売されているので、今季で3シーズン目に入るが、売れ行きは好調だという。製品の特徴は「氷に効く」「雪に効く」「永く効く」を目標に掲げて開発されている。これらの性能を高めるためにトレッドデザインやコンパウンドなど、全方位に新技術を投入して完成したのがiG70(アイスガード7)というわけだ。

その中でも特にコンパウンドによって、さまざまな性能を向上させていることが理解できるテストを体験することができた。

テストは横浜ゴムの北海道旭川市にあるタイヤテストコース「北海道タイヤテストセンター(Tire Test Center of Hokkaido=TTCH)で行なった。

TTCHは高速試験が可能な全長2.3kmの周回路や氷盤路など様々な試験コースを擁する

用意されたテストタイヤは新コンパウンドで作られたスリックタイヤ、横にサイプだけを入れたタイヤ、そしてiG70との比較テストだった。

最初に雪上をテスト。50km/hからの短制動で制動距離を確認。そしてパイロンを使ったスラロームテストを行なった。もちろiG70が最も短い距離で停止し、スラロームでの安心感やグリップ力はトップだが、サイプだけのテストタイヤでもiG70と似たような停止距離で止まれることに驚かされた。またスリックタイヤでも制動距離は長くなるものの、かなりのグリップ感を感じならが停止できることを体感した。

新コンパウンドで作られたスリックタイヤでもかなりのグリップ感だ

スラロームでは横Gが発生する場面やロールによるタイヤ荷重が変化すると、ステアリングに伝わるグリップ感が変化し、実際に車両も横滑りを始める。しかし20km/h程度でのスラロームであればどのタイヤもスラロームが可能で、30km/h、40km/hと車速が上がるとスリック、横溝サイプのタイヤの順でグリップを失っていく。ある意味当たり前の結果ではあるが、コンパウンドだけでここまで制動できたり、コーナリングできたりすることは驚きの結果と言えるのだ。

次に、屋内氷盤路でのテスト。テストタイヤは同様のもので、30km/hからの短制動。ここではなんと横溝サイプだけのタイヤがiG70より短く止まれることを体験した。スリックタイヤはさすがに、厳しくブレーキング時のノーズダイブも感じられず氷の上を滑っていった。

つまり、氷ではサイプが非常に効果的であることを体感した。そして次のテストは氷盤路の旋回テストで、23年1月にオープンした新しい設備だ。冷媒装置を使い半径22mまでの旋回テストが可能な屋内テストコース。短制動のテストをした場所から屋外に出ることなく移動でき、氷盤温度や室内温度を一定に保てることから、さらなる性能向上につながるテスト設備として期待されている。

2023年1月から稼働がスタートした屋内氷盤旋回試験場

ここで、わかったことは旋回Gがかかる限界を体感するわけだが、短制動では見事に横溝サイプだけのタイヤが優秀であることを見せたものの、やはり旋回Gが発生すると横滑りを容易に起こすことを体験。ここではトレッドデザインがかなりのウエイトを占めていることが理解できたのだ。

こうした経験を踏まえ、iG70に投入されたコンパウンド技術やトレッドデザインについて覗いてみたい。

まずはコンパウンドに「ウルトラ吸水ゴム」の採用がある。先代のアイスガード6のプレミアム吸水ゴムより吸水率が7%向上しており、氷での滑りの原因である水膜除去に効果を発揮している。特徴はマイクロレベルの水膜を吸収し、ナノレベルでの氷上密着という性能だ。

このウルトラ吸水ゴムの内容は
1:新マイクロ吸水バルーン
2:吸水スーパーゲル
3:マイクロエッジスティック
4:ホワイトポリマーⅡ
5:シリカ
6:オレンジオイルS 

この中で、吸水スーパーゲルは瞬時に吸水し、マイクロエッジスティックは新採用技術で、ナノレベルのエッジ効果を発揮し、氷を噛む効果をもたらしている。さらにホワイトポリマーⅡも新採用技術でシリカが、より均一に分散することができ、コンパウンドをしなやかにする効果が高まる。そして均一に分散したシリカとホワイトポリマーⅡでしなやかに氷に密着するという効果があるのだ。

これらのコンパウンド技術によって、今回のテストを体験し、ゴムの重要性を実感することができたというわけだ。

次に氷に効く、雪に効く、そして永く効くという性能の導き出し方についても覗いてみよう。まず永く効くという性能は、4年後でも性能低下せず、スタッドレスタイヤの性能が維持されていることを意味するが、そこにはコンパウンドの分野で前述のウルトラ吸水ゴムにオレンジオイルSを採用することで、コンパウンドの柔軟性を維持し、劣化抑制効果を発揮しているのだ。だから4年後でも高い摩擦力を維持できるというわけ。

さらにトレッド技術では「クワトロピラミッドグロウンサイプ」という技術が投入されている。これは摩耗時でも氷上性能を維持するという技術で、50%摩耗時にサイプが太くなる形状を採用しているからだ。簡単に言えば、サイプの溝形状をくさび型とはせずに中太形状にすることで、ゴムが削られると中間の太い部分が表面に顔を出し、サイプ効果を発揮するというわけだ。

ここで雪上性能と氷上性能では相反性能であることもお伝えしておこう。大きく分けて雪上、氷上性能を司る領域は、圧縮抵抗、雪柱せんだん力、エッジ効果、凝着摩擦力という4つのドメインで性能を開発している。

氷の路面ではエンジ効果とそして最も重要なのが凝着摩擦力になる。一方雪上では4つのドメイン全てで性能が求められるものの、中でも圧縮抵抗と雪柱せんだん力の領域が重要と考えられているわけだ。

では何が相反性能かと言えば、氷では凝着摩擦力が重要と説明したが、つまり接地面積が広いほど効果が高い。つまり溝がないほうが効果は高いわけで、サイプだけのタイヤがiG70より短い距離で停止できたのはこの性能の証明でもある。

一方で雪上は雪柱せんだん力が重要ということは、溝が多いほうが効果が高いということで、溝面積の奪い合いという言い方もできるわけだ。

そこでiG70はアイスガード史上最大の接地面積を持たせ、まず氷に効く性能を作った。一方で溝面積を増やして雪上性能も確保したわけだが、その秘密がトレッドパターンに隠されているのだ。

まずはイン側、アウト側で異なるデザインとし、それぞれの部位に役目を持たせている。タイヤセンター部からイン側には「パワーコンタクトEX」という幅広のリブを作り接地面積の拡大と凍結時の発進・制動に効く性能を作る。そして雪上でも効くように、デザインは「マルチダイアゴナルグルーブ」にして傾きの異なる横溝を配置することで雪上での発進・制動時にグリップするようにした。

そして外側では、ブロックの倒れ込みを抑える「マルチベルトブロックEX」と旋回時にブロックの倒れ込みが起きないように「コレクティブビッグブロックEX」と「トリプルライトニンググルーブ」で剛性を高めたわけだ。

さて雪に効く性能では前述のように溝が効くわけで、溝が多いとブロック剛性が下がる。それを抑制するために上記の技術を使い、氷上、雪上の性能を上げているが、肝心の溝についても覗いてみよう。

雪上は溝面積の拡大がテーマで、それはエッジ量に着目している。エッジ量というのは溝の総長さでタイヤが路面に接地する表面部分の溝長さのことだ。これはオールシーズンタイヤAW21の開発ノウハウで得られた知見を投入していると説明していた。

そのエッジ量の増やし方だが、こちらもアイスガード史上最大の溝エッジ量になっているのだ。手法は溝を細くして溝の数を増やすというやり方だ。ただこの方法では、ブロックの倒れ込みを抑える適値の判断が難しかったという。開発ではエッジ量を100%から200%までさまざまなシミュレーションを行ない、適値は130%という結論を出している。

こうして溝面積も接地面積もアイスガード史上最大とすることができたわけで、雪と氷の相反性能の両方を向上させることができている。

それらの考え方の中に投入した新技術について、もう少し触れておこう。つまりブロックの詳細ということだが、そこには永く効く性能で説明した「クワトロピラミッドグロウンサイプ」という新技術がある。

これは4つ折のサイプ部の倒れ込みをディンプルが互いに支え合うことで、ブロック剛性の確保とエッジ効果を発揮している。この技術をセンター部のマルチベルトブロックに配置している。

さらにWエッジマイクログルーブを新開発している。こちらは各ブロックの中央部とエッジ部で異なる傾斜を採用していることがポイントになる。

Wエッジマイクログルーブはサイプと交差させることで、横方向のエッジ効果を発揮し、さらにサイプと同方向に配置することで前後方向のエッジ効果を高め、水膜除去にも効果を高めている。

このようにコンパウンドの開発、トレッドパターンの設計という両面において、新しい考え方や技術的にはマイクロレベル、ナノレベルの技術を投入することで、氷に効く、雪に効く、永く効くという3項目の性能向上を果たしているということだ。

余談になるが、タカハシの個人車両はアイスガード6のiG60を履き、4シーズンを使い込んだ。トレッドの摩耗により5シーズン目には突入できなかったが、雪上、氷上性能はそれなりの劣化があったものの、十分対応できるレベルを維持していた。

具体的には前後方向のグリップ低下はほぼ感じられなかったが、コーナリング時の横Gに関しては経年変化があった。さらに走行ノイズは摩耗と並行して大きくなっていったので静粛性も経年変化を起こすことを実感した。

というわけで先代アイスガードでも十分と思える永く効く性能は持っているので、このアイスガード7にはさらなる期待をしたい。

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