シリカの新たな働きが実現
しかし近年、シランカップ剤と呼ばれる化学溶剤が発明され、シリカのタイヤへの採用が飛躍的に高まることになった。横浜ゴムは2000年代に入って乗用車用タイヤにシリカを使用し始めている。シランカップ剤とは、有機材料と無機材料と結合する特殊な溶剤だ。
ゴムにこのシランカップ剤とシリカ粉末を混入すると、シリカの分子とゴムの分子が結合しカーボンと同様の結合点を作り出すことが判明した。つまりシリカもカーボンと同様に、ゴムの強度を高める役割をもたせることが可能になったわけだ。
さらに、ゴムに混入するカーボンを減らしシリカを増量すると、ゴムのヒステリシスロス、つまりゴムの内部抵抗が減少し、よりタイヤが転がりやすい特性を持つことも明らかになった。タイヤの転がり抵抗を低減するということは、より低燃費のタイヤを作ることが可能になったということだ。
このようにシリカの混入とシランカップ剤を採用してタイヤ用のゴムを作ることで、タイヤの吸湿性(親水性と呼ぶ)と低転がり抵抗というふたつの特性を利用することができるようになった。
とはいえ、加硫の前段階として、ゴムにカーボンブラック、シリカ、シランカップ剤を大型のミキサーで混合するには技術的なノウハウが必要だ。シランカップ剤を有効に機能させるためには、シランカップ剤とゴムの混合時の温度の上昇具合と混合時間を精密にコントロールする必要があるのだ。
その他にシリカをより均一に混合させるためのノウハウも必要で、こうした混合技術は各タイヤメーカーの企業秘密の塊となっている。また、シランカップ剤は高コストなためもあって、シリカやシランカップ剤を使用せず、カーボン混入と合成ゴムのチューニングによりタイヤ性能を確保しているタイヤメーカーもあるという。
シリカ、シランカップ剤の混合のノウハウを獲得するためには、様々な実験の積み重ねや加硫後のシリカの分散状態などを検証する必要がある。そのためには、スーパーコンピューターなどを利用したシミュレーションが駆使されており、現在でも各材料の混合状態は、実験やシミュレーションの蓄積により、改良が続けられている。
なお、シリカを多用したタイヤは電気の導電性が低くなるため、車両で発生した静電気が蓄積されることになる。これは車両のEUCなどの電装系に悪影響を与える恐れがあるため、静電気を路面に逃がすためにトレッド部の中央に細いアース(導電性ゴム)が挿入されている。このアースは目視で見分けることは難しいが、シリカを高配合したタイヤの証ということもできる。<レポート:松本晴比古/Haruhiko Matsumoto>
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