横浜ゴムからSUV/トラック/クロカンなどでのオフロード好き、ドレスアップ好きユーザーに向けた全く新しいタイヤ「GEOLANDAR X-AT」が2019年7月23日デビューした。先行して米国では販売が始まっているが、国内では9月から販売されるが、一足早く試乗できたのでお伝えしよう。
オンもオフにも強い
試乗エリアは群馬県、長野県の県境にある浅間火山レース跡地にあるオフロードコースと周辺の一般道で、オンロードインプレッションと、オフロードインプレッションをさまざまな車両に装着してテストすることができた。
新製品のジオランダーX-ATのタイヤの性格は、オンロード性能を重視したジオランダーA/Tと、反対にオフロード性能を重視したジオランダーM/Tとあり、その中間に位置する性格づけをされている。つまり、オンもオフも両方OKという「いいとこ取り」というわけだ。タイヤの技術詳細はこの後説明するが、まずは実際に使用してみてのレポートをお伝えしよう。
オンロードでの静粛性
用意された車両はジープ・ラングラー・サハラ、トヨタ・ランドクルーザープラド、フォードF150ラプター、トヨタの北米モデルピックアップのタンドラ、そしてTRDのオフロード走行用にチューニングされたハイラックスといったラインアップだ。
最初はオンロードの試乗からで、車両はラングラー・サハラ。軽井沢周辺の緑あふれる気持ちのいいワインディングを走行したが、見た目のトレッドデザインから想像したものとは全くことなる静粛性があった。ロードノイズをある程度覚悟して試乗してみたものの、いい意味で裏切られる静粛性がある。高速走行が試せなかったが、速度を上げたらノイズが大きくなる、という印象は薄い。
もっとも車両はラングラーということもあり、タイヤノイズ以外の音があることも影響してロードノイズが消されているという一面はある。次に試乗したのがランドクルーザー・プラドで、最近のランドクルーザーはSUV方向の性能が著しく進化し、特にプラドは乗用車ライクな乗り心地や静粛性を高めていることもあり、ある意味、ジオランダーX-ATの「本当のところ」が見える。
試乗コースはラングラーと同じルートを走った。走り出して実用域の速度付近になると、わずかにロードノイズが聞こえる。ラングラーでは聞き取れないほどの小さい音だが、タイヤからノイズは出ている。だからといって気になるほどか?というほどでもない。ブロックパターンだと車速に応じてノイズが大きくなったり、小さくなったりするが、そうした傾向はなく車速に影響されず、わずかにロードノイズが出ているという印象だ。
また、舗装路での強めのブレーキングも試したが、ここでは若干ではあるがブロックの動きを感じることがあった。不安に感じるほどのものではないが、オフロードタイヤでは当然ではあるが、こうした動きを感じることでオフ系の要素があるという意味を理解する。
強力なグリップ力と制動力
続いてオフロードコースでの試乗だ。高速走行、中速、泥濘、轍、水たまりなど変化に富んだオフロードコースで、こちらは試乗車両による違いはあまり感じなく、純粋にタイヤのグリップ力や制動力を感じることができた。
急な下り坂と上り坂のある部分では、各車のモードを4-Lモード、つまり4WDのローギヤー側にして走行してみる。地面の状況は雨の影響もあり、ヌルヌルで滑りやすい状況。しかし、どの試乗車でも全く滑ることなくゆっくりと下れる。そして登りでは、斜めの傾斜がある箇所でも横滑りをせずにしっかりとグリップしてトラクションがかかる。傾斜角度は不明だが、乗用車では到底不可能な角度とある程度のアプローチアングル、デパーチャーアングクのある車両でなければ登れない角度の傾斜といえば想像できるだろうか。
ちなみに、泥濘地と水たまりのある場所では4-Lが推奨されていたが、FRのまま走行しても問題なく走破できていた。それほどしっかりとしたトラクションがあるということになると思う。
そして高速オフロードコースでは、舗装路のように制動するグリップ力に驚かされた。80km/hのスピードからの急減速でも滑らず制動していく。この安心感は非常に大きく周回を重ねるごとに奥へ奥へとブレーキングポイントがずれていくほどなのだ。
搭載技術
さて、こうしたオンオフともに性能を両立したと言えるジオランダーX-ATに搭載された技術を見てみると、オフロードトラクションという点ではセンターブロックのデザインで、ソリッドブロックをオフセット配置する工夫がある。そしてブロック全体にサイプと細溝を連結させ、さまざまな路面状況でのグリップ、トラクションを確保している。
またショルダー部のブロックでは、大小2種類のブロックを2in1の交互配置として高いエッジ効果を発生させている。さらにショルダーの溝、縦溝の底に凸部を設け、排土、排石、排雪性能を向上させている。
ジオランダーX-ATの特徴の一つにサイドブロックデザインが表と裏で違ったデザインになっていることがある。このデュアルサイドブロックは路面からの衝撃をブロックする働きがあり、オフロード走行時のトラクション性能確保にも貢献している。ちなみに進行方向指定がないので、クロスのローテーションや裏表を入れ替えても使用できるメリットがある。
タイヤプロファイルでもうひとつ特徴的なのは、トレッドブロック間に配置したブリッジがブロックの倒れこみを抑制し、操縦安定性、耐偏摩耗性能の向上を狙っているということがある。
一方内部構造の部分では、3プライ構造のナイロンフルカバーを採用し、構造が強化されている。そしてジオランダーM/Tに搭載されているM/T系のコンパウンドを採用し、耐摩耗性、耐カットチッピング性能を向上させている。そしてジオランダーA/Tで採用した最新のピッチ数、配列を採用してパターンノイズの低減をしているのだ。
ちなみにスリップサインは2段階あり、最初のマークで雪での性能になるが、「シビアスノー対応」とはなっていないので、ある程度の雪上は走れるがチェーン規制には対応していない。また標準の溝の深さは13mmで設定されている。
マーケットニーズ
ジオランダーX-ATが開発された背景には、近年のSUV人気がある。もちろん乗用車の代わりにSUVというユーザーが圧倒的に多いものの、SUVのタフなルックスやオフロード嗜好というユーザーもいる。そうしたユーザーは必ずしもオフロード走行をするわけではなく、ルックス重視、クルマのカスタム、ドレスアップ目的といったユーザーが存在している状況もある。
そこで見た目はジオランダーM/Tのようなアグレッシブな見た目がいいものの快適性は欲しい、というニーズが生まれてきたという。そうしたマーケットニーズに応えたのが今回のジオランダーX-ATというわけだ。
そこでこのジオランダーX-ATに持たせた特徴として、ジオランダーA/TとM/Tの中間ポジションの性能で、サイドブロックのデザインが両サイドで異なること、A/Tよりも優れたオフロード性能であること、そして耐摩耗性、耐久性を持たせつつアグレッシブな見た目を持たせるという商品として誕生している。
現状タイヤサイズは10サイズで、16インチから20インチサイズまでで展開している。最適な車両サイズとしてはDセグメント以上の大型がもっともフィットするだろう。もっとも北米では22サイズで展開しており、小型のSUV、ピックアップのニーズが高まれば、国内でも販売される可能性はあると想像できる。<レポート:高橋明/Akira Takahashi>