【第6話】さらなるハイパフォーマンスを求めて WTCCを支えるヨコハマ物語 

WTCCヨコハマタイヤ 2014 18インチタイヤ
F!Aは2014年から参戦車両の大幅な性能向上を図り、それに合わせてタイヤは18インチにサイズアップ

ヨコハマタイヤはWTCC(世界ツーリングカー選手権)用のワンメイクタイヤとして2006年シーズンからレースに供給が始まり、2014年の今シーズン前までですでに8年間ワンメイクサプライヤーを継続している。

2006年当時は、BMW 320i、セアト・レオン、アルファロメオ156、ホンダアコード・ユーロR、シボレー・ラセッティなどが参戦しており、2.0L自然吸気(FIAの呼称はスーパー2000)エンジンを搭載したFR、FF車が激しい戦いを繰り広げていた。

FR車であるBMW 320iの参加台数も多く、レースではまさにFRとFFの一騎打ちといった状況で、いずれの駆動方式のマシンにも適合する高性能なポテンシャルを持つタイヤの下支えにより、レースは大いに盛りあがった。

WTCC  2006 ヨコハマタイヤ
2006年シーズンのFRとFF車の戦い
WTCC  2007 ヨコハマタイヤ
2007年シーズンのマカオ・ギアレース

また、マシン性能も2008年にはセアトが提案していたTDIディーゼルターボがレギュレーションで認められ、マシン自体のポテンシャルも向上し続けていた。セアトはやがてチャンピオンを獲得するなど、WTCCは新たな局面に入っていたのだ。さらに2011年からFIAのワールド・エンジン構想、つまりダウンサイジング・コンセプトを採り入れた1.6Lターボエンジンが採用されることになった。

マシンはシボレー・クルーズ1.6T、BMW 320TC、セアト・レオンなどが台頭することになる。排気量は小さくなってもエンジンパワーはアップし、レースでのラップタイムも向上。それに伴いタイヤの負荷も年々大きくなってきている。

2012 WTCC  ヨコハマタイヤ
2012年。前年から1.6Lターボに
2013 2012 WTCC  ヨコハマタイヤ
シビック R WTCC(2013年)

しかし、供給するタイヤ性能において、レース走行でトレッドが摩耗してもタイヤ構造が破損しないこと、レース距離(60km)の3倍である175km以上の耐摩耗性を持っていること、レースラップがべストタイムから2%以内であること、つまり、熱ダレによるラップタイムが低下しないこと、そしてもちろんFF、FRでの性能差がないことなどWTCC用タイヤに求められる性能はきちんと発揮されていた。

こうしてタイヤの仕様変更は認められない状況ながらも、レースマシンの性能は向上しタイヤにかかる負担は年々増していくのだった。

◆オレンジオイルで性能アップ
年々向上するマシン性能に対し、2008年にはウエット用タイヤの仕様変更を例外的に行なっている。それは、マシンの性能向上を踏まえるとウエット時において、一段と接地性を高めること、よりウエット路面に適合したコンパウンドを採用することで性能をグレードアップさせているのだ。

WTCC  ヨコハマタイヤ レインタイヤ
ウエットタイヤの性能を向上

ドライ用では2010年にコンパウンドに混合するオイルを従来の合成オイルから、ヨコハマのオリジナル技術であるオレンジオイルに変更している。同様にマシン性能の向上から、タイヤのグレードアップが必要となるからで、それでも各マシンにおいては均等性能が絶対条件であることは言うまでもない。

実はヨコハマタイヤは1980年代にはレース用タイヤにオレンジオイルを使用していたのだ。石油由来の合成オイルより環境に優しいことや、目的に合わせたコンパウンドの配合がコントロールしやすいというメリットがある新しい技術を開発している。

ヨコハマタイヤ WTCC  2010ヨコハマタイヤ WTCC  2010
▲2010年シーズンからオレンジオイルの技術をWTCCに投入

ご存じのように、オレンジオイルは現在ではBluEarthを始め、ヨコハマタイヤの市販乗用車タイヤに幅広く採用されている。

一方、WTCC用のタイヤへは、このオレンジオイルを使用し、熱安定と耐摩耗性を高めるという方向でチューニングすることになる。数種類に及ぶ専用合成ゴムの選択、カーボン粒子の選択、老化防止剤、加硫促進剤など薬品の選択などで構成されるが、これらに加え、ゴムとカーボン粒子を均一化するためにオレンジオイルは使われ、パフォーマンス向上につなげたわけだ。

「タイヤとしての目標性能は最初に決まるので、タイヤの構造とコンパウンド開発は並行して行ないます。モータースポーツ用タイヤの場合はそれぞれが最善となるようにしているので、その歩調が狂わないように開発スタッフ同士が密に接することが大事でした」とさまざまなレースタイヤを開発してきたタイヤ技術本部の網野直也氏は語る。

WTCC  ヨコハマタイヤ オレンジオイル
WTCC用タイヤにオレンジオイル採用について語る網野氏(左)と串田氏(右)

その結果、2010年当時のWTCCでは、このオレンジオイルを採り入れたタイヤは、「確かに以前よりタレにくくなったと各チームから評価されました」とヨコハマ・モータースポーツ・インターナショナル株式会社・開発本部の渡辺晋氏は語っている。

このオレンジオイル配合のタイヤ開発の背景には、ヨコハマタイヤ側は「年々マシン性能が上がり、ラップタイムも速くなっているので、いつ何時FIAから仕様変更を言われてもいいようにテストは続けていました」と前述の網野直也氏が付け加える。

マシン性能の向上に伴い、いずれ現状のスペックではレースを盛り上げるにはパフォーマンス不足の時が来るだろうと予測していたわけだ。そのため、シーズン中にも関わらず、年2回程度は先行開発テストを実施していたというのだ。

もちろんこのテストは、直ちにWTCCタイヤの仕様を変更するためではなく、シミュレーション結果の検証であったり、細部のタイヤスペックを変更したデータ取りであったり、といった先行開発がメインだった。そして、これらの先行開発で得られたノウハウは、後にWTCC用タイヤが18インチ化される時に、大いに役立つことになる。

◆2014年大変革のレギュレーション変更
WTCCが大変革を迎えたのは2014年の今シーズンからである。車両規則が大幅に見直され、マシンには空力パーツの装着が認められるようになった。空力性能が大幅に向上すれば、タイヤにかかる負荷は大きく増えることになる。

2014 WTCC 規則

また搭載エンジンは従来と同じ1.6Lターボではあるが、エアリストリクター径が拡大され、出力アップが認められた。さらにエンジン本体の軽量化も許されるようになり、結果的にエンジン出力は2.5barの過給圧により380ps以上という大出力となり、車体にかかるダウンフォースも格段に大きくなったのだ。そして、サスペンション形式も従来はオリジナル形式が義務付けられていたが、新たに4輪ストラット式に統一され、シャシー性能も大きく変化することになった。

ヨコハマタイヤはFIAによる車両規則変更の技術検討段階から参画し、これらのマシンスペックになると、従来の17インチ(240/610-17)では、タイヤにかかる荷重の大きさが構造的な耐久性能の限界を超えてしまう可能性があることが分かっていた。したがって、新しいレギュレーションでは、余裕のある性能を持つタイヤにしようという方向性で開発することになった。

「コンパウンドとしては17インチのままだとグリップが足りなくなるかもしれない、あるいは構造が耐えられなくなるかもしれないといったものをいくつか想定し、それに対応するゴムを数種類テストしました。その中で最適だったものが、今シーズン使用されているものですが、これまでの実績があるものなので、実際はあまり大きく変わらなかったというのが事実です」と語るのはヨコハマ・モータースポーツ・インターナショナルの開発部、串田直樹氏。

ヨコハマタイヤ WTCC  タイヤ断面

こうした前提を踏まえた上で、シミュレーションを重ね、新サイズの諸元を提案した。それは新しく18インチへとサイズアップし、トレッド幅を従来より10mm拡大、タイヤ外径はFIAの18インチ化によってプラス1インチとなるが、さらに1インチを加えた660mmとするというものであった。

ヨコハマタイヤ WTCC タイヤ ゆがみシミュレーション
タイヤのひずみのFEM解析シミュレーション
ヨコハマタイヤ WTCC  FEM変形シミュレーション
FEM変形シミュレーション

当然ながらこのサイズアップによるタイヤの負荷能力はアップし、荷重による耐久性の余裕をはじめ、総合的な性能アップが得られることになり、FIAも承認することになる。

「サイズが変わって、荷重が変わりタイヤへの負荷が増えるため、タレを少ない方向にしました」と串田氏。

ヨコハマタイヤ WTCC 2014 ヨコハマタイヤ WTCC 2014

技術的にはタイヤの負荷能力が増大するに伴い、従来の17インチサイズとは異なる補強ベルトの角度、プロファイル形状を採用する方向とした。こうして2014年シーズンが開幕すると、レースマシンの性能は大幅に向上したにもかかわらず、タイヤのポテンシャルには大きな余裕があり、ラップタイムは一段と向上した。その結果18インチ化によるレース・パフォーマンスの向上は格段に図られていることが実証され、WTCCをよりエキサイティングなレースへと導いているのだ。

 

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