タイトルにあるSIPは当サイトで何度もお伝えしているように、内閣府が進める国家プロジェクトで「戦略的イノベーション創造プログラム」を略している。第1期が2014年から2018年までの5年間で、現在は第2期の途中。2018年から2022年まで活動が続けられ、残り1年半での進捗報告が行なわれた。
簡単にどんなことをやっているのかを説明すると、まず産官学連携で自動運転に関する研究だけでなく、実用化までを目指すのが狙いで実証実験、国際連携、高精度3D地図や法改正といった協調領域、そして過疎地での移動を課題としたソサエティ5.0といった取り組みを行なってきた。
そして第2期の現在は、交通環境情報の他分野への展開やデータ流通の促進、安全シミュレーション、サイバーセキュリティなどの課題に取り組んでいるわけだ。
東京お台場でSIP試乗会が開催され、参加企業は自動車メーカーの他にTier1からも参加があり、今回Tier1の自動運転車に試乗し、どういった技術を用いて開発を進めているのかをお伝えしたいと思う。ちなみに、カーメーカーからの出展はすでに市販されている運転支援システムを搭載した車両群だった。
コンチネンタル
コンチネンタルでは無人運転を目指して開発したシャトルバスに試乗した。コンチネンタルは乗用車、トラック、シャトルバスといった3つのカテゴリー車両を欧州、北米、中国、日本の4箇所で開発を進め、日本では公道実証実験に力を入れているという。
グローバルでみて日本だけがハンドルもアクセルも、ブレーキもない車両にナンバーが交付されており、公道実証実験ができるという好環境だ。これもSIPというプロジェクトがあるために可能となっているひとつだろう。
試乗した車両はフランスのイージーマイル社というベンチャーが開発したシャトルで、MaaSを想定しての無人自動運転で開発している車両。この車両を3年前に国内に持ち込み、テストコースでの開発、公園などの限定的な場所での実験を経て公道を走らせることにつなげている。
ちなみに、コンチネンタルはこのシャトルを販売するのが目的ではなく、自動運転するためのセンサー、コンポーネンツ、制御ソフトを販売するのが狙いということだ。
今回の試乗で使うシャトルには次の新しい技術を搭載していると説明があった。それは、ミリ波レーダーを使って自動走行するというもので、コンチネンタルでは「ロバスト自己位置推定技術」と名付けており、レーダーからの情報で建物の反射とノイズとの区別をつける技術に目処がついたことで、今回技術披露をしているという。
これまで使われてきたGPSによる自己位置推定では高層ビル群の中や立体構造の道路などでは自車位置を推定しにくいという課題がある。次に出てきたのがLidarで、光を発して映像として捉え、走行中の映像と持っている映像とを見比べて自車位置を推定するという技術なのだが、雨などの天候の影響が出やすいという課題があった。またいずれもセンサー類が100万円以上する高価格という課題もある。
コンチネンタルでは、晴天時など環境がいいときの高性能さをもつLidarとミリ波レーダーとの組み合わせにより自動運転の信頼性が高くなると考え、今回はミリ波レーダーだけでも精度の高い自動運転が可能であることをアピールした。
つまりミリ波レーダーには対環境性に優れ、冗長性を持ちそして廉価であることをアピールしたということだ。
プラスして、今回の実証実験にはSIPにより、お台場周辺の信号情報が発信されている。これは信号情報を自動運転車がどう取り込み反映するかが体験できることになる。ちなみに信号情報は「赤」や「青」という色ではなく、ナンバリングによる情報ということだ。色で判断するには色の数値化が必要であり、対応はしていないのが現状だ。もっともナンバリングであれば世界共通であり、色の数値化は不要とも言える。
試乗での見どころは、横断歩道での対応、交差点、つまり信号機情報だ。そして右折時の対向車への対応、そしてロバスト性ということになるが、ロバスト性を体感することはできないがそれ以外は目で見て、シャトルの動きがどうか?ということはわかりやすい。
試乗すると15km/h程度の速度で走行する。あいにく横断歩道に歩行者がおらず対応は不明。そして交差点に差し掛かり信号機を判断して停止した。今回警察庁から発せられる信号情報には残秒数データがあり、後何秒で信号が変わるのかの情報も含まれているという。
これは交差点に差し掛かったとき黄色になるタイミングが安全に停止できる距離なのかどうかを判断するために有効なデータだという。自車速度と停止線までの距離から減速Gを踏まえ安全に停止できない場合は通常通過、止まれるときは停止というわけだ。
こうしたデータを使い、一般公道でのテスト試乗を終えたがコンチネンタルでは無人自動運転までにはあと10年程度はかかるのではないかと予測していた。
ヴァレオ
フランスのグローバルTier1企業ヴァレオはいち早くLidar技術を公開したサプライヤーとして認識していると思うが、今回の試乗会でもLidarによる自動運転を披露していた。ヴァレオでは市街地を自動走行するシステムを「ドライブ4U」と呼び、高速道路を「クルーズ4U」で、今回は市街地向けのドライブ4Uを試乗した。
試乗車はヴァレオのテストカーのため、さまざまなセンサー類が搭載されていたが、今回のテスト走行ではLidarのGen1とGen2を中心に使い、一部フロントカメラを使用。また信号機からの信号情報を通信で受け取って3Dマップに落とし込むというシステムだった。
今回使用しているLidarの第1世代(Gen1)は、縦方向のフィールドビューが3.2度で4つのビームを使って判定している。各ビームは0.8度間隔でセンシングし、これを6台搭載。Gen2の第2世代は1台搭載。これは縦方向のフィールドビューが10度になり16のビームでセンシングしているということだ。中心付近は0.4度で平均0.6度でのセンシングということだ。
ヴァレオとしては、カメラは一部使用しているものの、非ビジョンでもLidar+通信だけで自動運転ができるということを見てほしいということだった。また自己位置推定精度は一般的なGNSSの標準的なGPSを使えば、Lidarだけで12センチの自己位置判定は可能ということだ。
実際の試乗ではエンジニアが安全確保のためと、システムの作動を見るために運転席と後席に2名乗車し、助手席からの体験試乗となった。
お台場の道路を一般的な速度で走行し、信号情報も問題なく正確に判定して停止。そして大きく遅れることなく通常発進をしていた。また黄色信号への判定は強めのブレーキを掛け停止線で停止していたが、これらは制御プログラムの変更でいかようにも判定基準を変更でき減速Gも自在だ。
印象としては、ヴァレオはLidarとカメラを積極的に採用する方向で、ビジョン系の自動運転で開発をすすめているようだ。もちろんコーナーレーダーなどもあり、全方位でセンサー系を揃えているが、Lidar採用のパイオニアとしては、画層解析も含めそうした方向に向いていると感じた。
Tier Ⅳ
ジャパンタクシーと一緒に自動運転に取り組みを開始したという大学を中心としたベンチャー企業で、「Autoware」という自動運転制御システムを開発していた。
モデルカーはJPXで、クルマにはLidar6個を搭載し、カメラは物体認識用カメラ6台、遠隔監視用カメラ6台、信号認識用カメラ2台を搭載し、これらのセンサーから得た情報をアイサンテクノロジーの3次元点群+Lanelet2地図に落とし込んで判定するロジックで走行する。
Lidarは点群として認識し人や物を判断し、時間的追跡をしてこれからどう動くのかを判断しているという。そしてカメラで捉えた画像データと合わせることで精度をあげているということだ。信号認識に関しては、今回のSIPでは警察庁からの信号通信ができるため、通信も併用し残秒数などのデータを取り込んでいる。が、信号通信のできないエリアも存在するということで、カメラで認識する方法をとっているという。
信号認識用カメラは信号の灯色情報で判断しているということだが、具体的には点灯位置で判断し矢印信号も認識できるということだ。
それと試乗では体験できなかったが、今回のアピールポイントとして路駐車回避ができるプログラムを搭載しているということだった。これも渋滞との違いや大型車が停車している場合など、容易な判定ではないが、それらの課題をクリアしているのがautowareということだった。
またビジネスターゲットとしては小型のシャトルバスやタクシーを想定し、限られたエリアでの使用からスタートし徐々に拡大してくイメージということで、具体的な販売時期等についてはまだ研究段階のため未定ということだ。
こうした各社の自動運転に対する技術的取り組みを見てみると、Lidar、ミリ波レーダー、カメラというセンサーのうち2つ以上を組み合わせて精度をあげていくという手法で実現していきそうだ。さらに自車位置測位と3D地図についても必至の要件であり、スタティックな情報しか3D地図にない状況なので、アクティブインフォメーションの投入も待ち望まれている。
反面、高速道路などの歩行者がいない、交差点がない、信号がないなど条件が比較的揃っている場所では近い将来無人化された自動運転も可能なのではないかという印象を持った。ただし、有人でアナログ運転をするクルマとの共存となるため、事故回避をどのように、また責任の所在など明確にしていかなければならない法的な課題もあり、この点が現在のSIPが取り組むべき課題となっている。<レポート:髙橋明/Akira Takahashi>