マニアック評価 vol661
ミシュランから新しいカテゴリーとなるオールシーズンタイヤがデビューした。その詳細はこちらでお伝えしているが、本当に雪も走れるのか?雪上を走ってきた。その結果、夏タイヤとしてのレベルの高さに驚き、雪上の性能にも満足できるという結果は、ある意味衝撃的なタイヤのデビューだ。どんな走行を試したのか、その内容を具体的にお伝えしよう。
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雪上テスト
雪上試乗は一般道ではなく北海道のテストコースでの試乗。雪上、氷上、登坂路などのテストができ、シチュエーションによっては夏タイヤとの比較もできた。
テストコースを作り、トラクションやブレーキング、ハンドリングをテストできる設定や氷上のブレーキング、そして登坂路というパターンが試せた。試乗車は、ハンドリングのテストでメルセデス・ベンツGLAが用意され、パイロンを使ってスラローム走行などをテスト。路面状況は圧雪された完全な雪道でフラットな路面だ。
まずクロスクライメイトを装着したGLAでは、発進時の加速Gがきちんと感じられたことに驚いた。しっかりグリップするのだ。そしてパイロンスラロームでは初期のステア応答で、ちゃんと手応えとして伝えわってくるのがわかる。テストでは40km/hから60km/hあたりまでの速度だが、特に不安に感じる場面はなかった。
次のブレーキングテストでもかなりの制動Gが発生できることにも驚かされる。車両のABSとESCの制御がしっかり働くこともあるが、ツーっと滑ってしまうことがないのだ。この時点で「雪も走れる夏タイヤ」が本当なんだ!という感覚に変わり、懐疑的な視点が薄れていく。
登坂路ではノートe-POWERの4WDでテスト。こちらは斜度の変化でテストをした。発進から8度の斜面で一旦停止。そこから再スタートを試みる。次に13度の斜度で停止し、再スタートをするというテストだ。また、夏タイヤも比較試乗した。
ここでは当たり前だが夏タイヤでは8度の斜面は登れない。もちろん4WDに切り替えても不可能だった。これは単にタイヤのグリップがないためで、いかに4WDであろうとグリップしていなければ走行はできないことをテストするまでもないが、体験した。
ミシュランのクロスクライメイトは、驚いたことに、8度の斜面は問題なく登り、再スタートも簡単にできた。13度の斜面になると、再スタートの時にやや滑るものの慎重なアクセルワークであれば問題なく再登坂できるのだ。4WDとの組み合わせでは、その滑りもなく普通に13度の登りを再発進できることがわかった。
次に電気自動車の日産リーフで氷上ブレーキをテスト。こちらも夏タイヤとの比較だったが、そもそもフラットなスタート地点からの発進に手こずりながら氷盤路までやっとの思いでたどり着く。いうまでもなく、全く制動できず車両は滑り続ける。そしてクロスクライメイト装着車に乗り換えてトライするが、こちらも氷盤はNGだった。雪上とはうって変わって制動できない結果になった。
こうして雪上のテストを終えると、雪でも走れる夏タイヤは嘘ではないことがわかり、しかも完全な雪上でも走行ができることを体験したのだ。
夏タイヤという位置付け
クロスクライメイトのカテゴリーは夏タイヤだ。コンパウンドや構造、デザインなどで雪でも走行可能としたオールシーズンという位置付けにしている。欧州では7度の気温を下回ったらウインタータイヤに履き替えを促しているが、そのウインタータイヤよりも夏タイヤに寄った位置付けだ。
日本ではウインタータイヤというカテゴリーは馴染みがないが、欧州では一般的に使用されているタイヤで、気温、路面温度は低いものの、雪はあまり降らないという欧州の気候に合わせて誕生したタイヤだ。だから、寒くなったら冬タイヤに変える、というのが欧州ではある。
つまり、スタッドレスもウインターも履き替えが前提のタイヤだが、このクロスクライメイトは履き替え不要の位置付けなのだ。非降雪エリアのユーザーであれば、選択肢の中でも最もいいとこ取りができているタイヤということになる。また、降雪エリアのユーザーであれば、夏タイヤとスタッドレスを所有していると思うが、夏タイヤをこのクロスクライメイトに変更してみる、というトライができると思う。
夏タイヤとしての性能にも驚かされた
となれば、夏タイヤとしての性能はどうなのか?テストは栃木県にあるGKNドライブラインのテストコースで試乗した。車両はセレナ、ゴルフ、C-HRで高速周回路、ウエットハンドリング、ウエット短制動テストといったメニューだ。
比較用タイヤはエナジーセイバープラスやプライマシー3との比較。高速周回路とはいっても一般道を想定し120km/h程度までの速度で、主に50km/h、80km/h付近でのパターンノイズなどをチェックした。
そうした場面では比較用夏タイヤと全く遜色なく、静粛性において同等のレベルだと感じた。ミシュランのエンジニアに聞けば、むしろ800Hz付近ではクロスクライメイトの方が静かな場面もあるという話だった。ちなみにミシュランの社内テストではエナジーセイバープラスと比較して、クロスクライメイトが57.9db、エナジーセイバープラスが58.3dbというデータを公表している。(テスト条件は不明)
レーンチェンジや40km/h付近での乗り心地などのチェックでは、切り始めの手応えもしっかりとあり、タイヤ全体の剛性感はクロスクライメイトが最もしっかりした印象を受ける。乗り心地のポイントでもショック感と減衰のチェックを意識したが、しなやかに吸収するし、ハーシュネスも特に強いとは感じない。
そしてウエットでのハンドリングではプライマシー3との比較もあった。ここではOE装着されるケースが多いプライマシー3からのアフター用としての位置付けになるか?という視点でのテストだが、これも驚くほどのウエット性能で、クロスクライメイトで不安は微塵も感じなかった。
セレナによるウエットの短制動テストでも、3回テストし、3回ともエナジーセイバープラスより手前で止まるウエットブレーキ性能を体験した。こうしたテストは気象条件などでもテスト結果に違いが出てくるだろうが、ミシュランのエンジニアによれば、エナジーセイバープラスを上回る結果となっても、驚くことではない、という話も聞けたのだ。
路面適合表
なぜかといえば、欧州では先行発売されているクロスクライメイトは販売本数でエネジーセイバーを上回っているというデータになってきているからだ。そうした裏付けがあるからこそ、驚かないということなのだが、それだけ欧州では夏タイヤとしての性能が高く評価されているというわけだ。
一見ギョッとするトレッドデザインを持つクロスクラメイトではあるが、パターンノイズも小さく、乗り心地も他の夏タイヤと比較しても遜色ない。そしてウエット性能も安心感がありウエットブレーキでも高い性能を示した。さらに雪の上での走行も可能となると、まさにオールシーズン対応できるという、信じがたいタイヤ、という表現は大げさではないだろう。そして耐摩耗性に関し、ミシュランのデータではエナジーセイバープラスよりロングライフということも公表している。
ちなみに、高速道路等でのチェーン規制もスノーマークがありスタッドレスと同等の扱いを受けられるので、チェーンは不要となる。もっとも2018年から施行された全車チェーン規制が必要となる指定道路では、チェーンが必要なのはいうまでもないが。
これまで体験したテストを見る限り、弱点は氷上だけで、それ以外は満足度の高い結果になっている。しかし、リアルワールドでの路面、気象、車両の全ての条件で、満足できるかまでは言及できない。そのため、ミシュランではクロスクライメイトの性能に満足できない場合、全額返金を保証しているのだ。そこまで自信を見せるミシュランのオールシーズンタイヤ、クロスクライメイトを一度試してみてはいかがだろうか。<レポート:高橋明/Akira Takahashi>
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