世界的な自動車部品サプライヤーのコンチネンタル・オートモーティブ社が、2015年5月に「モビリティ・スタディ」と題し、ユーザーのクルマに対する意識調査を行なった結果のレポートがあった。これらのレポートから、Tia1といわれるサプライヤーから完成車メーカーへどんな技術が提供され、そして近い将来われわれはどんなクルマに乗ることができるようになるのか?その未来が見えてくるものだった。<レポート:髙橋 明/Akira Takahashi>
調査報告は同社社長のクリストフ・ハゲドーン氏が行ない、調査は日本、ドイツ、フランス、中国、アメリカで行なわれた。内訳は18歳から25歳が27%、26歳から30歳が48%、60歳以上が25%という構成比で、男女比は53%:47%でほぼ半々。代表的調査はドイツ1800名、アメリカ2300名、自動車の利用状況については各国400名以上のサンプルを元に報告されている。
調査結果からは現在の状況把握、大衆の意識と実際の自動車産業との乖離などの確認ができる。そして近い将来、クルマに不可欠とされるさまざまなソリューションのうち、これらの調査結果を基にしてソリューション開発の方向性、具体的な技術に取り組むことができる。それらは将来的に自動車メーカーに供給されていくというわけだ。
例えばコンチネンタルでは、完全自動運転のクルマをすでに国内の公道で実証実験を開始している。これらのテストを進めていく上での根拠ともなる調査だったとみることができるのだ。では、実際にどんな調査結果が出たのか、いくつかサンプルをみてみよう。
◆クルマへの興味が薄いのは?が原因
質問事項として「クルマを持ちたいか?なぜ持ちたいか?」という項目では、日本の場合75%が持ちたいと回答しているが、調査国中最低の数値。また、「クルマは必要ない」という回答は9%で、これも調査国中最も多い数字だ。そして必要性やいつでもどこでも自由に動けるという魅力を感じていることも最も少ない国という結果も。(下図グラフ参照)
これはクルマを運転する際、渋滞や交通量の多さ、信号や交差点などゴーストップの多さなどの運転に対するストレスの大きさも影響している原因もあり、コンチネンタルでは、技術によってクルマが欲しくなるという可能性を説明する。つまり、渋滞時、アシスト機能によって自動でクルマが動き、ドライバーのストレスを軽減できれば快適となり、クルマが欲しくなる欲求が生まれると。
また、車種では「どういったクルマを運転したいか?」という質問では、日本は小型車を好み、ドイツ、フランスでは中型車、つまりゴルフなどのCセグメントが人気という結果。中国、アメリカでは想像どおり、大型車D、Eセグメントあたりが人気ということになる。
さらに「予算に関係なく乗りたいクルマは?」という質問では、日本では予算が影響することなく小型車が人気になっている。アメリカやドイツではスポーツカーというジャンルに人気が集まるという特徴もあった。中国やアメリカではSUVという結果も興味深い(下図グラフ参照)。
「自動車の運転が楽しいか?」という問いでは日本が最低の数値で、恩恵と悩み、楽しみとストレスという側面が見えてくる。年間走行距離1万km以下という人が日本では50%以上で、もっとも高く、外国では35%程度となる結果もあった。
これらの結果から日本はコスト意識が高く、移動のための手段で軽自動車が50%近くの販売台数となる現在の日本の自動車事情の根拠と見ることができるだろう。<下図参照>
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◆日本人は新しいモノ好き?
一方EVについては中国についで2番目に受け入れやすい国で、中国、日本、アメリカ、ドイツ、フランスの順だった。これらの状況から中国がもっとも早くEVが普及すると予測できる。そして自動運転についても、日本は2番目に受け入れやすい国で、ナビゲーションのサポートガイドがいい、混雑、渋滞時の自動運転は40%が快適さがある、とも回答している。そして高い衝突回避性能などの安全性の高さについても、評価していることが分かる。<下図参照>
2015年4月、Auto ProveでもIoT(Internet Of Things)について、繁浩太郎氏のコラムで取り上げたが、インターネットへの接続に関しては3%程度の興味にとどまり、今の段階ではユーザーが受け入れる状態ではないことも分かる。
主な結果として日本人のモビリティに対する行動は、合理性により誘導され、自動車の個人所有を希望しながらも、レンタカーやカーシェアリングなど他の方法にもオープンであることが分かる。さらに、小型車、低価格帯の自動車が好まれており、ドライバーはEモビリティ、自動運転を受容することが読めるわけだ。
◆コンチネンタルのソリューション
これらの調査結果をもとに、コンチネンタルが提供するソリューションの具体的なものとして、3つのメガトレンドを挙げている。それは、安全、環境、情報マネージメントである。具体的にはこちらでレポートとしているが、 少し紹介すると、安全でダイナミックな運転を実現するシステムとして多機能カメラ一体型レーザーレーダーがあり、A~Bセグメントに供給するのに適し、安価でありながら、冗長性、信頼性が高く、トヨタへ納品されている。これはカローラに搭載され、トヨタでは「Toyota Safety Sense C」の名称で車載している。<下図二点参照>
より具体的に提供されるロードマップを覗いてみると、例えば安全、コンフォートの分野では、2015年の現在は、運転支援システムの導入部であると説明する。そして2018年にはロー・スピード・コンパニオン、つまり自動運転のことで0~30km/hの範囲で自動運転される。これはレベル2としている。またパーキングコンパニオンも提供できるとしている。これは自動で駐車スペースを検知し、ドライバーはアクセル、ブレーキ、ステアリング操作をすることなく、パーキングするソリューションだ。
2020年にはクルージングショーファーとし、90km/hでの自動運転ができ、2022年から2025年にかけてはハイウエイショーファー、つまり130km/hで車線変更、ICでの流出、流入など高度な自動運転ソリューションが提供できるとしている。<下図参照>
環境、効率というトレンドでは、48Vの電動化、つまりマイルドハイブリッドや燃料噴射システム、ガソリン直噴、エグゾーストアフタートリートメントなどがあり、すでに提供は開始されている。<P22参照>
コンチネンタルが提供する具体的なソリューションは、2015年人とくるまのテクノロジー展で展示され、詳しくはこちらでレポートしている。
欧州の自動車メーカーでは、コンチネンタルをはじめ世界最大規模のボッシュやヴァレオ、デンソー、日立オートモーティブ、ZFといったTia1企業と組んで次世代車両開発に取り組むのが常識である。一方で、国内自動車メーカーでは、トヨタのように積極的にTia1技術を取り込む企業と、「自社開発」にプライドを持つメーカーとがあるというのが現状である。