世界的な自動車産業サプライヤー、コンチネンタル・オートモーティブのインテリア部門に属する「インフォテインメント & コネクティビティ」事業部門の最新技術プレゼンテーションが横浜の同社で行われた。
■ダイナミックeHorizon
インフォテインメント & コネクティビティ部門の最近の取り組みについて、同事業のアジア統括担当者のスコット・ステガート氏は、「現在のより高度になっているドライバー支援システムは、カメラ、レーダーシステムなどの車両センサーや追加のオンボードセンサーからの情報に基づいて判断を下しています。これらのドライバー支援システムは、周囲や前方道路に関する情報、地形情報、交通上の指令や規制に対応することで、さらに高度に自動化されたシステムに進化させることができます。「eHorizon(イーホライゾン)」を通じ、新たなソリューションを提供して行きます」と語る。
さらに「クラウド接続のおかげで、ダイナミックeHorizon はデジタル地図を高精度で常に最新の情報媒体に変え、単なるナビゲーション以外の目的に使用できるようにします。これにより私たちはトラックや乗用車の安全性、効率および快適性を高めようとしているのです」という。
コンチネンタル社は、走行するクルマに交通状況を伝達するだけではなく、交通全体を効率化し、エネルギー消費を抑え、より安全性を高めるために「eHorizon」というコンセプトを以前から提唱している。eHorizonとは、クルマとネットサーバーを常時通信接続により視認できる範囲よりはるかかなたの地域を予見できることを意味している。
このコンセプトは、現在のドライバー支援システムをはるかに上回るメリットを持っている。なぜならクルマが装備するセンサーでは、直前の情報しか取得できず、またナビのマップも静的で過去のデータを表示するに過ぎないため、交通全体を円滑かつ安全にするためには、クルマに搭載する技術だけでは限界があるという理由からだ。
コンチネンタルのeHorizonコンセプトの第1段階は静的なeHorizonと呼ばれている。2012年にはトラックメーカーのスカニア社がこれを車両に実装し、実用化している。この静的eHorizon は、前方の地形や交通を予測したクルーズコントロールとして機能する。GPS、信号情報、コンチネンタルが利用している地図開発メーカーHERE社の静的に保存された地形的ルートデータに基づいて、走行ルートの3次元プロファイルを提供し、はるか前方を予測するクルーズコントロールにより前方のルートにその走行を適合させることができるというものだ。コンチネンタルとスカニアが実行した走行テストでは、静的eHorizon のこのアプリケーションは、燃料消費量を平均約3%削減することが実証された。
eHorizonの次のステップは、コネクテッドeHorizonと呼ばれる。主として3Gの常時通信接続を利用し、最新の交通情報がクルマに送られ、一方で車両センサーからの情報、例えば標高やカーブの曲率などが地図データーを補完するとともに、このデータはクラウドサーバーに伝送され、他のクルマにも新たな情報として送信されるというものだ。これにより、クルマが搭載しているセンサーが交通状況や危険を察知する前に、ドライバーは状況を認識することができる。このコネクテッドeHorizonは、もはや実現可能なインフラが整いつつある。
そして次のステップが、今回プレゼンテーションされた「ダイナミックeHorizon」だ。この段階ではもはやクルマ側では地図データは不要になり、それに代わって現在の走行区間に対応し、ほぼリアルタイムで動的データベースが取得できるシステムなのだ。クルマのセンサーで得られた交通状況に関する情報はHERE社のクラウドに送られ、ERE社の正確なデジタルマップ情報とミックスされ、さらにIBMのクラウドによるビッグデータから得られた情報追加や選択を行い、各車に最新情報が送信され、クルマのディスプレイに重要な情報が表示されるという仕組みだ。
つまりリアルタイムで走行経路の交通情報と、走行中の個々のクルマから得られるプローブ情報が一体化された情報媒体となり、必要な情報が表示される。クルマから得られる情報とは、速度、横G、フォグランプ、ハザードライト、クルーズコントロールの設定、ブレーキの踏み方、事故時に作動するeCall(緊急通報)システム、ワイパーとその頻度、ABSやASRの介入、道路の速度制限や交通標識、GPSによる位置情報などで、これらの情報がLTE(4G)接続によりクラウドに送信される。
こうした走行中のクルマからの情報はクラウドで処理され、はるか前方の動的なマップ&交通情報としてクルマに送信され、必要に応じて車両センサーが状況を把握する前にドライバー支援システム、ブレーキやステアリングの制御は行く手にある交通状況に備えることができるのだ。
例えば、交差点の手前でより早く減速しコースト機能を利用する、ハイブリッド車ではエネルギー回生量を増加させることができ、カーブの向こう側に渋滞があることが把握できれば、現在のシステムによる自動緊急ブレーキを強くかける場合よりおだやかに減速することができ、ドライバーのストレスも低減することができる。<次ページへ>
つまり高度ドライバー支援システムだけでは不可能な前方先読みのドライバー支援やクルマの制御を行うことができ、より安全でより効率的な運転が実現する。言い換えればこのダイナミックeHorizonは完全な自動運転のための基盤となることができるのだ。
そのためにはデジタル地図情報は、道路の地形、標高や、車線ごとの詳細情報が必要となり、またクラウドでの情報処理、IBM社ビッグデータ・アナリティクステクノロジーを利用することで、リアルタイムと非リアルタイムとの区別などの情報処理能力を高め、必要な情報をより早くクルマに伝達する仕組みが求められることは言うまでもない。そのため、コンチネンタルは、精密デジタルマップと交通情報を持つHERE社、クラウドでの情報処理の技術を持つIBM社と連携しながらダイナミックeHorizonを実現していく。
■LTEモバイル・ルーター
ダイナミックeHorizonの実現だけではなく、スマートフォンとの連携、多様なインフォテイメントを実現するためにはクルマのインターネットとの常時接続は不可欠と位置付けられる。すでに今でも2G、3G回線用のシムカードを搭載したクルマはヨーロッパ、アメリカでは主流となりつつあるが、コンチネンタルでは、LTE(4G)用の車載モバイルルーターをすでに市販している。
マルチチャンネルで安定した接続、データコストの低減、シームレスなチャンネル切り替え、ダウンロードの高速化、音楽ソースなどの音質の向上、ネットセキュリティの強化などを盛り込んだ新世代の車載ルーターで、初期型より大幅にコンパクト化にも成功している。
新世代のルーターはスマートフォン接続の場合、契約キャリアを選ばす接続できるように帯域幅をスマートに制御できるようになっている。
このため、ドライバー支援のための情報をダウンロードするだけではなく、同乗社が音楽や動画をダウンロードして楽しむ、インターネットラジオを楽しむといったことが同時に可能になるのだ。つまり従来のクルマに関する情報通信だけではなく、エンターテイメント、SNS、メールなどを含めた総合的なテレマティックスに移行しつつある。
この新世代モバイルルーターはすでに高級車クラスに普及しつつあり、日本車にも間もなく採用される予定だ。
■複合センサーによる360度サラウンドビュー駐車支援システム
現在では、クルマの周囲の様子を4個のカメラで映像化する360度映像化はポピュラーになっているが、コンチネンタルの360度サラウンドビュー・システムは、クルマに4個のカメラに加え、4個の超音波センサーを組み合わせ。2種類のセンサーを統合するセンサーフュージョンが駐車支援システムとして採用されている。
またこのシステムはLinuxのオープン・インフォテインメント・プラットフォームの上で展開されるのも特徴だ。360度サラウンドビューによる駐車支援システムでは、カメラの視野角が一番近くにある障害物に自動的に切り替わるため、これまでのカメラのみによる360度ビューカメラよりはるかにドライバーにとって危険を認識しやすいのだ。
今回プレゼンテーションされた、eHorizonは自動運転の実現のためには不可欠の技術であり、それを支えるインターネット高速常時接続、駐車時の運転支援システムも自動運転化のためには重要な要素となっているのだ。