2016年7月12日、世界的な自動車部品サプライヤーのコンチネンタル・オートモーティブ・ジャパンはメディア向けに、近未来のクルマのキーシステムなどを紹介するイベントを開催した。
■コンチネンタルのインテリア部門とは
コンチネンタル・オートモーティブは、タイヤ部門以外にシャシー&セーフティ、パワートレーン、インテリア事業をグローバルに展開しているが、今回はインテリア部門の技術紹介だった。インテリア部門はHMI(メーター、計器)、インフォテイメント&ネット通信、ITS(クルマ同士、クルマと道路の情報通信)、商用車向けサービスと、今回のボディ&セキュリティの事業を担当している。
ボディ&セキュリティとは、クルマのキーシステムやイモビライザー(盗難防止システム)、照明システム制御、シート制御システムなどが主だった製品だが、現在ではそれらはすべてCAN通信によりコンピューター(ECU)で統合制御されている。
そして今回紹介されたキーシステムは、2015年実績で3000万個を生産するなど、世界でもトップレベルの実績を残していると、インテリア部門の取締役兼ボディ&セキュリティ事業部副社長のアンドレアス・ヴォルフ氏は語る。日本では、日産、三菱、ホンダ、マツダがコンチネンタルのキーシステムを採用し、グローバル規模で供給するなど、最も需要が多いアジア市場では、キーシステムのビジネスではナンバー1となっているのだ。
■車両アクセス、キーシステム
今回のプレゼンテーションのテーマである、車両の認証&アクセス、キーシステムについてはボディ&セキュリティ・ビジネスユニットのアネッテ・へブリング氏が担当した。コンチネンタルのボディ&セキュリティ部門は1990年代にイモビライザーを市場に投入し、その後、1998年にはPASE(Passive Start and Entry:キーレス・エントリー&スタート)システム、キーによる双方向無線通信システムなどを実現し、現在は第4世代のPASEシステムを開発している。
2018年には第5世代のPASEの導入を予定しているという。この第5世代はドライバーはキーを持っているものの、手に持つ必要はなく、ボタンを押す必要もない。クルマとキーが高周波帯、あるいは長波帯の電波で通信し、キーが車内か外にあるのかを判別する。ドライバーが近づくとロックは解除され、外部や車内の照明が点灯したり、シート位置やエアコン、エンターテイメントなどが自動でセットされるというものだ。また従来のキーではなくブレスレット型、スマートウォッチなどウェアラブルな形状にすることもできる。
さらに将来的には完全なキーレスシステム(コンチネンタル・スマートアクセス)も準備されている。キーの代わりにスマートフォンにアプリとキー情報をインストールし、ブルートゥース、超近距離通信でクルマとスマートフォンが通信し、キーとして機能させるシステムだ。このシステムは、ドライバーを認証するために自動車メーカーからのキー情報がコンチネンタルのサーバーに送られて保管され、ドライバーはスマートフォンを通じてこのサーバーにアクセスすることで、スマートフォンにアクセス権限が得られるのだ。
このスマートアクセスでは、従来のキー機能の他に、クルマの位置を意味するGPS情報、クルマのロック、アンロック、燃料の残量などクルマ側の情報もスマートフォンで取得するといったことも実現する。
■完全な仮想キー「OTA」
キーシステムの近未来のシステムを先駆けて実現しているのが、ヨーロッパのカーシェアリングで採用されているOTA(Over The Air)キーで、ベルギーの自動車関連サービス会社「ディーテラン」社とコンチネンタルが合弁事業として展開している。ボディ&セキュリティ部門ネットワークデバイス製品グループの松本浩幸マネージャーは、「OTAとは無線通信でスマートフォンにキーデータが送信されて使用できる完全仮想キーという意味です」と語る。
このシステムはカーシェアリング、レンタカー、多数の社用車を持つ企業向けのサービスで、2008年から開発に取り組んだという。システムの概要は、ユーザーはまずカーシェアリング会社のアプリをインストールし、マップ情報、空き情報を見ながら近くにある利用可能なクルマを予約すると、仮想キーの情報が使用開始1時間ほど前にスマートフォンに送信され、この仮想キーのデータはSIMカードに保存される。
そのスマートフォンからブルートゥースでキーの情報が送られ、予約時間になるとロックが解除されドライバーはクルマに乗り込み、エンジンをかけることができる。また機能を追加することで、そのクルマの車両データをサーバー側に送信することもでき、燃料の使用量や、走行距離などもサーバー側で管理できるメリットがある。同時に分単位での正確な課金も可能になる。また、事前の車両確認や、車両の使用中の事故による傷が生じた場合、サーバーにスマートフォンで撮影した画像を送信する機能などもスマートフォンアプリに備えられている。
このOTAの仕組みは、クルマ側ではOBDⅡに接続する車載接続ユニット(通信モジュール、GPS内蔵)と、利用者側のスマートフォンが通信する仕組みだ。したがって、クルマの現在位置情報、車両情報は定期的に管理会社のサーバーに送信できるのだ。またクルマには3個程度のブルートゥース・アンテナ、オプションとしてNFCリーダーも設定できるようになっている。つまりNFC(超近距離通信)カード方式でも使用できるのだ。
こうしたキー関連技術の将来の展開を眺めると、近未来には現在のような形をしたクルマのキーは絶滅してしまうのではないかと思われる。キーの機能としては確かに仮想キーとしてスマートフォンやウェアラブルデバイスに統合することが可能なのだ。「しかし、そうはいっても、特にエモーショナルな、あるいはプレミアムなクルマの場合は、販売店でキーを受け取るという儀式は重要であり、そうしたクルマのキーを所有することに十分に意味があるので、クラシックなスタイルのキーがなくなることはないでしょう」とアンドレアス・ヴォルフ副社長は語っている。