【コンチネンタル】欧州タイヤラベリング制度と全自動ブレーキ性能屋内試験場視察レポート:菰田潔

雑誌に載らない話vol64
タイヤを履き替えるとき、つぎのタイヤはどれにしようかと悩むだろう。クルマ好きの友達がいて、専門誌やネットからの情報が豊富ならいいが1人ではなかなか決められない。そんなときに役立つのがタイヤのラベリング制度だ。

タイヤラベリングコンチネンタルタイヤ

日本では2010年から日本自動車タイヤ協会(JATMA)が制定したラベリング制度があり、燃費に影響する「転がり抵抗係数」をグレーディングにより5段階(AAA、AA、A、B、C)に等級を分け、「ウェットグリップ」は4段階(a、b、c、d)で等級を示して、新品タイヤ購入時の参考になるようにしている。

コンチネンタル タイヤコンパウンド
ゴムの特性によって混ぜるものが異なる。タイヤの性格に合わせて材質を色分けしたサンプル

転がり抵抗が小さい、つまり燃費が良くなるタイヤは雨の日のグリップが弱くなるのが通例。この二律背反の性能を両方上げようとすると価格が高くなってしまう。タイヤ性能とコストのバランスをユーザーが見極められるようにする制度である。
日本では、2010年から日本自動車タイヤ協会の主導で世界に先駆けて始まっているが、欧州連合(EU)でも2012年11月までにラベリング制度を義務付けることになった。しかしその項目、グレーディングの仕方、表記方法が日本とは異なり、「転がり抵抗」はA、B、C、E、F、GのDを除いた6等級、「ウェットグリップ」はA、B、C、E、FでDとGを除いた5等級に分け、「騒音レベル」は通過騒音を3グレードとデシベルで表記するようになっている。ということでグレードが「A」といっても日本とEUでは意味が異なり、単純比較はできないので注意が必要だ。

AIBA 
コンチドローム内にある全体像が分かる模型。全長300m、幅30m

欧州で始まったばかりのタイヤラベリング制度だが、ドイツ最大のタイヤメーカーであるコンチネンタルが、より正確にグレーディングする方法を実現した。それはウェットグリップの試験方法についてだ。

屋内の機械を使用してタイヤ単体でのグリップの試験はできる。このときのメリットは温度、湿度、試験条件などを一定にして再現性がある試験ができることだ。デメリットは実車ではないので、急ブレーキ時の前輪と後輪にかかる荷重の変化やABSが作動したときの特性などが判らないことだ。

一方、テストコースでの実車試験では、屋内の機械での試験とはメリットとデメリットが反対になるわけだ。同じクルマで同じタイヤで試験をしてもテストコースによってグレーディングが異なってしまう。またクルマとタイヤとコースが同じでも、季節によって気温が変わるから結果が異なる。

ポータブルフリクションテスター
ポータブルフリクションテスターとい名称で、実際の路面でのゴムのミューを計測する

そこでコンチネンタルはコンチドロームと呼ぶ有名なテストコースの中に「AIBA(Automated Indoor Braking Analyzer)」(全自動ブレーキ性能屋内試験場)を設立した。

ここで、私、菰田潔がコンチ・テクニック・フォーラム2012に参加し、このAIBAを見学してきたので紹介しよう。

全長300m、幅30mというサッカー場2.5個分の広さがあり、長方形の建物の中に75mの路面5つと自動散水設備が備わる。実車試験用のクルマは見学したときはVWゴルフで、スタートラインに着くのもブレーキを掛けるのも全自動だから無人で動く。

ブレーキ装置AIBA

左:シート前にあるレバーでペダルを押す。モニターしたデータは即座に解析される。右:左側のガイドローラーに取り付けられ、試験車輌を押して移動する

クルマのエンジンは止まったままで、ブレーキ試験のための加速は路面に接地されたリニアモーターが試験車を押していく。100km/hまで4.7秒で加速できる装置だ。ブレーキを掛けるときはコンピューター制御により、油圧で動くバーがブレーキペダルをズバッと押し込むのだ。1回のテストに要する時間は、クルマにタイヤを装着し、スタート位置までキャディで運び、加速してフルブレーキを掛け試験が終わるまで4分。1時間に15回、24時間、365日試験が可能なので、年間10万回以上できる計算になる。

AIBAAIBA

左:黄色の箱がキャディで、試験車輌を押して加速させる。右:ウエット路面でのテスト。ローンチスタートして急ブレーキをかけたところ

屋内試験のメリットと実車試験のメリットを併せ持つAIBAは、これからのタイヤラベリング制度に一石を投じる素晴らしい施設である。

AIBAを利用してより正確なタイヤのグレーディングができるようになれば、ユーザーにとってラベリング制度の信頼性はあがる。今回見学したAIBAはコンチネンタルのものだが、他のタイヤメーカーの反応にも注目したい。コンチネンタルのAIBAと同じような施設を造るか、あるいはテスト行程のキャパシティがありそうなのでAIBAを借りてテストするか、これまで通りのテスト方法で行くのか。

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