ブリヂストン いざという時の安全性に直結するウエット性能考察 

タイヤが水面に浮きあがるハイドロプレーキングのテスト
タイヤが水面に浮きあがるハイドロプレーキングのテスト。推進10㎜に70㎞/hで進入

ブリヂストンが主催し、メディア向けに梅雨時の季節に合わせたタイヤのウエット性能に関するデモンストレーションが、栃木県・那須塩原市にあるブリヂストン黒磯プルービンググラウンドで行なわれた。梅雨時、つまり雨天でのウエット性能やタイヤの常識など、なんとなく分かっていることをを改めて実体験し、よりリアルに認識してほしいということが今回のテーマである。

■路面によるタイヤのグリップ力の違い
タイヤの基本的な知識として、一般的な舗装路において、雨天時のウエット路面と晴天時のドライ路面ではタイヤのグリップ力=摩擦係数に差があるかということだ。厳密には舗装された道路でも、舗装の材質、工法などにより、乾燥状態でもウエット状態でも差が生じるが、一般的には乾燥した舗装路で摩擦係数は0.7~0.9で、ウエット路面になると0.35~0.5。つまりドライ路面に比べてグリップ力は約半減するのだ。

ブリヂストン 黒磯プルービンググラウンド
ブリヂストン 黒磯プルービンググラウンド
タイヤと路面の摩擦係数の関係
タイヤと路面の摩擦係数と制動距離

雪道になれば、ウエット路面に比べさらにグリップ力は半減し、そして最も滑りやすくグリップ力が低くなるアイスバーン状態では雪道の半分以下になる。イメージ的にはアイスバーンではドライ路面の10%程度のグリップ力しか得られないのだ。

ウエット路面でも、雨の状態によりグリップ力は一定ではない。雨の降り始めはゴミ、汚れが浮き上がって滑りやすく、また雨が強くなり路面上に水が溜まり始めると、タイヤが水面に浮き上がりグリップ力がゼロになるハイドロプレーニング現象も発生する。

■タイヤのウエット性能の向上
次は、タイヤから見たウエット性能を高めるための技術的な流れを知っておきたい。ひとつは、雨天での高速走行で最も危険なハイドロプレーン現象を低減させるために、タイヤのトレッドパターンの改良がある。

ウエット路面での排水性能を高めるための基本は、接地するトレッド面と水を排出する溝部の比率(ランド・シー比と呼ぶ)を、溝部をより拡大すれば雨天での排水性能は向上する。しかし、普通のタイヤは雨天専用ではなくドライ路面を走る場合の方が多いため、溝部の面積を拡大しすぎると、タイヤノイズの拡大、ハンドリングやブレーキ性能への影響、耐摩耗性能などが悪化するため好ましいことではないのだ。

ブリヂストン 黒磯 ウエット性能 ハイドロブリヂストン 黒磯 ウエット性能 溝深さ・ハイドロ

そのため一般的なラジアルタイヤは、接地面と溝部の面積の比率、ランド・シー比は7:3くらいになっている。競技用の市販ラジアル、Sタイヤなどは8:2、9:1といった舗装のドライ路面に特化したタイヤもあるが、当然ながらこうしたタイヤは少し濡れた路面くらいまではゴムのグリップ力を生かせるが、大雨は苦手なことはいうまでもない。

ブリヂストン 黒磯 ウエット性能 排水パターン

ヨーロッパのタイヤは、雨天での高速走行を想定してトレッドのセンターに太い主溝を持つパターンが主流だ。しかし、1980年代に入ると排水性を追求した方向性パターンが採用されるようになってきた。いわゆるV字パターンだ。

ブリヂストンは1984年にポテンザRE71で、初めて方向性パターンを採用している。V字パターンにすることで、排水性能を高め、ハイドロプレーニングの発生を遅らせることができるのだ。このV字パターンの原理を採用したタイヤはその後も形を変えながら採用されたが、その一方で2000年代に入るとパターンの3次元形状により排水性能を高める技術も登場し、今後さらに進化すると予想されている。

■ウエット性能を高めるコンパウンド
タイヤのグリップ力は、タイヤの構造とタイヤのゴムの特性により大きく変化する。タイヤの接地面に使用されるゴムは「コンパウンド(配合)」と呼ばれるように、各種のゴム材料、薬剤の配合により、求めるグリップ力や耐摩耗性を引き出している。いわば料理の食材に調味料を加えて味付けするというイメージだ。

ウエット路面でのグリップ力を高めるためには、ゴムの性質を柔軟にして、摩擦力を高めればよいが、一方で転がり抵抗を減らし、より燃費性能を向上させることも求められている。つまりグリップ力と転がり抵抗の小ささは相反するのだ。

ブリヂストン 黒磯 ウエット性能 エネルギーロス低減ブリヂストン 黒磯 ウエット性能 シリカ効果

近年は、タイヤラベリング制度が採用されていることもあり、ウエット時のグリップ力、特にブレーキ時のグリップ力の向上と転がり抵抗の低減を両立させる技術が大きく進化している。グリップ力を向上させるためにはコンパウンドの高分子化合物の材質を革新し、さらに転がり抵抗を減らすためにはタイヤを支える基部のフィラー部の構造やゴムの物性を改良するのがトレンドになっているのだ。

まずはコンパウンドのゴムと各種添加剤の化合状態を改良し、分子の動きを小さくし、変形による発熱、ヒステリシス・ロスを抑えながら路面との摩擦力を高めることが必要となる。

グリップ力を高める一方で、分子が動くことで発生するエネルギー(ヒステリシス)ロスを抑えることができる配合剤として、シリカ(二酸化ケイ素)が注目され、多用されるようになってきた。

シリカは、エネルギーロスを抑え、さらに親水性を備えているため、ウエット性能向上、転がり抵抗の低減の両方に効果がある優れた材料だが、親水性の物質がなじみにくいゴム材料に、微粒子のシリカをうまく分散配合させるのが難しいとされている。

ブリヂストン 黒磯 ウエット性能 シリカ分散対策効果ブリヂストン 黒磯 ウエット性能 製品

ブリヂストンは花王の界面活性剤を使用し、シリカをゴム全板に分散させるシリカ分散技術「NANO PRO-TECH」を開発し、採用している。シリカの表面をゴムとなじむような特性を与えることで、ゴム全体に微粒子のシリカを分散でき、従来より多くのシリカを使用できるようになったわけだ。

この新技術を採用できたことで、エコタイヤのラベリング制度でウエットグリップ性能「a」が実現し、従来のエコタイヤの「b」、「c」グレードとは大きく差をつけることになった。なお、この新技術はレグノGR-X1、トヨタMIRAI用のエコピアEP133にも投入されている。

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■ウエット路面でのブレーキ性能比較
実際に披露されたウエット路面でのブレーキ性能比較テストは、2台のテスト車のうち1台は、「エコピアEP001S」(転がり性能AA/ウエットブレーキ性能a)と、もう1台は「ネクストリー」(転がり性能A/ウエットブレーキ性能c)を装着。水深2㎜の舗装路に100㎞/hで進入し、ABSが作動する急ブレーキをかけ、停止距離を比べるというものだ。

「エコピアEP001S」(転がり性能AA/ウエットブレーキ性能a)装着車
「エコピアEP001S」(転がり性能AA/ウエットブレーキ性能a)装着車
「ネクストリー」(転がり性能A/ウエットブレーキ性能c)装着車
「ネクストリー」(転がり性能A/ウエットブレーキ性能c)装着車

ブリヂストン 黒磯 ウエット性能 
100km/hから急ブレーキ。ウエットグリップ性能が高い方が減速Gを強く発生するのが感じられ

実際のデモでは、ウエット性能「a」の最新のエコピアEP001Sと、ベースタイヤでウエット性能「c」のネクストリーの停止距離の差は約10mとなった。このウエット路面での停止距離の差はリアルな公道を考えるととても大きいといえる。

■タイヤ摩耗とハイドロプレーニング
タイヤがどのように高いウエット性能を備えていても、走行距離に応じて摩耗が進行し、タイヤの溝は浅くなっていく。同じタイヤでも新品時と摩耗した状態で、ハイドロプレーニングの発生にはどれほど差が出るのか?

今回のデモ走行は、2台の日産・セレナにそれぞれ「レグノ GR-XI」の新品と摩耗品(残り溝1.6mm)を装着し、コーナリングでのハイドロプレーニング発生にどれだけの差が出るかをテスト。コーナリング・ハイドロプレーニング・テストと呼ばれるものだ。

左がレグノ GR-X1の新品。右は残溝深さ1.6㎜と原価まで摩耗したレグノ GR-X1
左がレグノ GR-X1の新品。右は残溝深さ1.6㎜と限界まで摩耗したレグノ GR-X1

半径100mのカーブの途中に水深10㎜、長さ30mのプールがあり、車速70㎞/h、舵角一定で進入し、横向き加速度(つまりグリップ力)の変化を計測するテストだが、今回は車両の旋回半径の差で比べる。郊外路でブラインドカーブの先に水たまりがある、といったシーンを想定したテストだ。

新品のレグノ GR-XIではわずかに外側に膨らむ程度で30mのプールを走り抜けるが、摩耗したタイヤでは完全に外側に流れ、レーン内に留まることができなかった。つまり実際の公道なら、車線をはみ出しているということになる。

新品タイヤ装着車
新品タイヤ装着車
摩耗したタイヤの装着車
摩耗したタイヤの装着車

また外から走行状況を見ていると、摩耗したタイヤの方が水の跳ね上げ量が多く、それだけ後方への水の排出が量が少ないことがわかる。タイヤ摩耗によりハイドロプレーンの発生状態が大きく変わることが実感できる。

■大事なタイヤ点検
どのように高性能なタイヤでも摩耗が進めば本来の性能は比例的に低下するという、日ごろ忘れがちな事実を改めて認識させられた。

クルマの安全に直接的に関わるので、月に1度はタイヤの点検は忘れてはいけない。タイヤの点検とは、空気圧と摩耗のチェックで、時間もかからずお手軽にできる。まず空気圧が指定圧通りになっているかどうか。空気圧は1か月で0.1~0.2kPa程度は低下することを知っておきたい。

もうひとつがハイドロプレーンの性能に大きく関わる、タイヤのスリップサイン(プラットフォームと呼ぶ)のチェックだ。残溝深さを調べるためのプラットフォームの高さは1、6㎜で、トレッド面でプラットフォームが接地トレッド面と同一になっている状態で残溝深さが1.6㎜であることを示す。1.6㎜の状態では車検もパスしない状態だ。実用上は残溝深さが2㎜になったら交換するべきだろう。

なおスタッドレスタイヤの場合は、残溝深さが新品の半分(5分山)になるとプラットフォームの高さに達し、スタッドレスタイヤとしての性能が保証されない状態になる。

またタイヤの摩耗状態をチックする時に、偏摩耗していないかどうか、前後のタイヤで摩耗状態がどのくらい違うかもチェックしておきたい。偏摩耗はサスペンションのアライメントの狂いのサインであり、前後タイヤの摩耗の違いが大きくなれば前後入れ替えなどローテーションを行なうことで摩耗を均一にすることができるのだ。

 

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