2015年10月1日、ブリヂストンはタイヤ原材料の多様化を目的に、これまでのパラゴムノキに代わる天然ゴムの研究を以前から進めているが、この研究成果として自社技術で生産された「グアユール」を原料とした天然ゴムを使用した最初のタイヤが完成し発表した。
タイヤは石油や樹脂を原料とした合成ゴムとパラ・ゴムノキから採取される天然ゴムが使用されており、天然ゴムの使用比率は30%以上に及んでいる。この天然ゴムは、ゴムの木(パラ・ゴムノキ)の樹液が原料となっているのは周知のことだが、ゴムの木は東南アジアの熱帯地域のプランテーションでのみ生育されている。
現在の天然ゴムの総生産量は1100万トンで、世界中のタイヤなどゴム製品の原料となっているが、そのすべてが東南アジアのプランテーションに依存しているのだ。またタイヤ・メーカーNo1のブリヂストンだけで100万トンを使用しているのが現状だという。
天然ゴムは東南アジア以外では生育が困難であること、天然ゴムの相場は激しく変動すること、ゴムの木は病害に犯されやすい性質を持つこと、世界中のゴム製品メーカーが東南アジア地域での生産に依存している、など潜在的なリスクを抱えているのだ。
現在の需給はかろうじてバランスが保たれているが、将来的な需給バランスは不透明であることなどを考慮すると、天然ゴムの原料の多様化のために、新たな再生可能資源の確保は必須といわれている。
ブリヂストンは、早くからこうした新たな天然ゴム原料となる植物の研究に着手しており、パラ・ゴムノキ以外で天然ゴム資源となるロシアタンポポ(ロシア・中国原産)、グアユール(アメリカ南西部・メキシコ原産)の研究活動は2012年ごろから本格化している。
ブリヂストンは2012年からアメリカ・アリゾナ州に試験農場や研究・加工施設の準備を開始し、2014年9月にはグアユールの加工研究所も開設。2015年からはグアユールから精製した天然ゴムの試験生産も行なっている。
ロシアタンポポは温帯地域に生えるタンポポの一種でウサギの飼料として用いられているが、茎に含まれる乳液から天然ゴム成分を採取することができる。
コンチネンタルタイヤは2011年頃から研究を開始し、2014年にはロシアタンポポを原料とした天然ゴムを使用したタイヤを試作している。ブリヂストンを始め、多くのタイヤメーカーもロシアタンポポから天然ゴムを精製する研究に着手しているのだ。
一方、グアユールは菊科の低木で、学術名は「Parthenium argentatum」、日本名は「グアユールゴムノキ」と呼ばれる。
この菊科の植物は、アメリカ南西部やメキシコなどの乾燥した地域で栽培され、3年周期で成木に。全体に天然ゴム成分を含有するため、収穫後に粉砕処理し、溶媒を使用して天然ゴム成分を抽出する。
パラ・ゴムノキより栽培周期が短く、より大量に栽培できることや、他の農作物と競合することのない乾燥地域で栽培できること、溶媒を使用した抽出・精製は合成ゴムポリマーの精製と似たプロセスであることなどから、有力な天然ゴム資源と位置付けられている。
ブリヂストンは、グアユール栽培を行なう114ヘクタールの自社農場とアリゾナ州メサ市にある自社の加工施設を使用してグアユール由来の天然ゴムを抽出することに成功した。つまり栽培から抽出精製までのすべての過程に自社の技術を適用することによって新たな天然ゴムが得られたわけだ。
グアユールから生まれた天然ゴムは、ゴムの木の天然ゴムと分子構造は若干異なるものの成分が同等だという。この新たな天然ゴムの性能評価、タイヤ生産における評価を行ない、今回発表されたタイヤが完成した。
この試作タイヤは、従来からのゴムの木から生まれた天然ゴムを使用する部分をグアユール由来の天然ゴムに置き換えている。
現在の段階では、試験的に生産されたグアユール由来の天然ゴムは、従来のゴムの木由来の天然ゴムよりコストが高いのはやむを得ないが、ゴムの木から天然ゴムを収穫するには多数の労働者による集約型プランテーションが必要だが、グアユールは機械化農場で収穫できるなど将来的な可能性は大きい。
ブリヂストンは2016年内には、グアユール開発の規模の拡大を判断し、2020年代前半には実用化することを目標にしているという。