Bosch mobility experience 2017 report @Boxberg vol.6
【ボッシュ・モビリティエクスペリエンス2017レポート】
・vol.1 EV化、自動運転、常時接続は避けては通れないクルマの未来
・vol.2 ストレス・ゼロのアーバンモビリティとは何か?交通インフラの再整備
・vol.3 自動運転にAI人工知能は何故必要なのか?
・vol.4 自動運転のためのソリューションレポート ドライビングアシスタンス篇
・vol.5 自動運転のためのレーダーロードシグネチャー&ハッキング篇
これまでのレポートでは、2050年に向けての都市交通のあり方や、そこで必要とされるソリューション、そして自動運転へと向かうプロセスにおいて要求されるものを全方位で取り組んでいることをレポートした。今回はもっと身近な存在のディーゼルを中心に、大気汚染という問題に対し、CNG(圧縮天然ガス)も含めたワークショップをレポートしよう。<レポート:高橋 明/Akira Takahashi>
大気汚染問題で、ディーゼル排気ガスをクリーンにする必要があることはわれわれも理解しているつもりだ。しかもディーゼル排気不正がバレたというのが世の風潮だ。だがしかし、このワークショップでは冒頭、PM(微粒子)が増えているのはディーゼルが原因だとするのは間違いであるという話から始まった。
もちろんEVやガソリンエンジンも重要だが、空気の質をクリーンにして行く上でディーゼルは非常に重要だと説明する。PM(微粒子)が増えているのはディーゼルが原因とする新聞、雑誌を見るが、それは間違いであると。ユーロ5規制では95%以上はクリーンだという。欧州で最も大気汚染がひどい、シュツットガルトで計測してもわずか2%がディーゼル排気によるものだという。
■NOxを如何に減らすか
したがってディーゼル排気が元凶ではない。ただし、やらなければならないのはむしろNOx(窒素酸化物)だと認識している。RDE計測(real drive emission)でもCO2規制は従来のNEDC(新欧州ドライビングサイクル)と変わらず、NOxを見ているという。
ボッシュが行なうRDE計測では実際のドライブで計測したもので、従来のシャシーダイナモでの計測をしていないという。測定基準と同様に、60km/h未満の市街地走行、60km/hから90km/hでの都市部間の接続道路での走行、そして90km/hから140km/hでの高速走行で計測している。そこで計測された結果がクリーンでなければダメなわけだ。
また、地形の傾斜や気温も影響しボッシュでは山が多いシュツットガルト近郊にテストルートを作った。そこでは気温-7度から+35度まで対応し、そして冷間スタートもテストし、また、車両重量の上限も設定している。しかし、リアルドライブになるとドライバーの走り方にも違いが生じ、都市部の混雑具合でも変わるということをRDEでは考慮した制御にしなければならない。
こうしたことすべに対応するように講じてもコストを上げないことは重要だと説明をしている。もちろん、電動化できるものを電動化していければCO2削減にはつながるが、RDEを実現するために電動化が必須の条件というわけではない。やはりディーゼルエンジンを最適化する機構とエンジン・ガス・トリートメント(EGT)を組み合わせた技術が重要になる。
エンジンの最適化は噴射システムであり、ターボもあり、EGRの最適化をEUCで行なっていく必要がある。燃焼噴射のコントロールでも燃料を吹かず、空気ポンプ状態になるとエンジン温度は下がり、一定温度まで下がるとNOxが発生してくる。したがってエンジン温度が下がる前に、温度を上げるプログラムが必要で、手法としては温度を下げない機構を入れるか、燃焼させて温度を上げるかの方法で、ボッシュは、インジェクションからの燃料噴射で燃焼させ温度を上げる方法を取っている。
こうしたことで、CO2を含めしっかり燃焼させることでNOxを発生させないようにしているという。そして、これらはひとつのコンポーネントですべてを解決できるものではなく、いろんなものが連動して初めてうまくいく。そのバランスが大切だと説明している。
■テストコースの設定
そのためにはテストトラックが必要で、シュツットガルトでルート設定をしているが、難しいのはコールドスタートを含む都市部の走行だという。つまり、都市部の実験に注力した難しいポイントを設定してあるという。そこは下り坂、上り坂、混雑している場所、そしてコールドスタートという厳しい条件をそろえた16kmのルートを設定し、計測していると。
こうして得られたデータは2020年までのRDEユーロ6の条件に適合でき、2017年9月納車のモデルからこのエミッション技術は搭載されているという。
RDEの試験は場所が決められておらず、また自動車メーカーから「ここでテストしてほしい」というオーダーもできないことになっている。したがって、ボッシュではどのような試験でもクリアするための厳しいルート設定をしたというわけだ。
■RDEテスト車の試乗レポート
今回こちらのワークショップののち、実際に試験装置を搭載したフォルクスワーゲン・ゴルフのディーゼル車に試乗し、どの程度のNOxが排出されるのか? 実際に走行してみた。
走行ルートはエクスペリエンスの会場となったBoxberg近郊の43.81kmにおよぶルート。だが、高速道路の走行と冷間スタートは含まれていない。のどかな都市間接続道路を70km/hから100km/h程度の速度で走り、また、都市部では40km/h前後の速度で走行した。
その結果はモニターに表示されているが、排気処理後、NOxは最大で0.024g/kmで、最小が0.013g/km。トータルで0.38g/kmという数値だった。
2014年のNEDCユーロ6では実際の走行では600g、研究施設でのテストでは80gという結果であり、RDEではこのギャップを縮めていく必要があるのだが、今回のテストに高速、冷間スタートは含まれていないが、大幅なNOx削減ができていることが分かる。
■代替燃料によるCO2削減
CNG(圧縮天然ガス)は代替燃料として世界中で使用されており、欧州では 主にメタン(CH4)で構成され、車両用燃料として電気、ガソリン、そしてディーゼルに対する追加オプションというポジションだ。
このCNGガスは、従来の原油から、バイオガスプラント、あるいは合成燃料工場から精製されてもいるし、必要に応じてガソリンなどと混合しても問題ない。 これらの供給源はすべて、CO2を削減するための魅力的な選択肢となっているわけだ。
ボッシュは、エンジン制御と燃料噴射システムのコンポーネントを使用して、この代替燃料の技術も提供している。 例えば、バイフューエル(CNG /ガソリン)およびCNGだけの燃料ソリューションを開発および製造している。
2017年以降、最初の欧州のOEMは、余剰風力発電(eCNG)から製造されたメタンの3年間パッケージを含むCNG車を提供している。 これらeCNG車からのCO2排出量は、最大500kmの航続距離と125kW(170ps)のターボチャージ性能を持ちながら、従来のCNG車のCO2排出量の1/3以下になる。 このCNGは、最初のeFuelシリーズということになる。
また、フォルクスワーゲングループでは、製造工場から排出されるCO2を利用し、合成CH4を生成することも行なっており、欧州に整備されているパイプラインにより、実際に各ガソリンスタンドでのCH4の供給も可能としている。そしてCNGを燃料とするg-tronの販売も開始されているのだ。
そして、あらゆる可能性のひとつとして、合成燃料の研究も続けられていることも付け加えてワークショップは終了した。