Bosch mobility experience 2017 report @Boxberg vol.2
ボッシュ・モビリティエクスペリエンス2017レポートvol.1では、ボッシュの考える未来について、今より増えて行く移動ストレスについて、どうやってストレスフリーのモビリティ社会が形成していくのか、その大きな目標と具体的な取り組みの入り口についてレポートした。今回のvol.2ではそうしたストレス・ゼロの世界になるために、アーバンモビリティの在り方についてボッシュの取締役ロフル・ブーランダー氏の講演をレポートしたい。<レポート:高橋 明/Akira Takahashi>
【ボッシュ・モビリティエクスペリエンス2017レポート】
・vol.1 EV化、自動運転、常時接続は避けては通れないクルマの未来
・vol.2 ストレス・ゼロのアーバンモビリティとは何か?交通インフラの再整備
・vol.3 自動運転にAI人工知能は何故必要なのか?
・vol.4 自動運転のためのソリューションレポート ドライビングアシスタンス篇
・vol.5 自動運転のためのレーダーロードシグネチャー&ハッキング篇
・vol.6 NOxとCNGで空気の質を改善
vol.1でも触れたように、大都市に居住する人口は2050年までに現在の2倍、約60億人に達し、都市交通は現在の3倍に膨れ上がるとされている。実際の経験としてe-コマースによる配送車両の増加を経験している。つまり、楽天市場やアマゾンでの買い物が自宅や会社に届けられるシステムだ。
ボッシュではこうした貨物輸送や旅客輸送など自動車以外にもソリューションを提供しなければ、ボッシュの掲げるゼロ・エミッション、ゼロ・ストレス、ゼロ・アクシデントへとつながらないとしている。例えばネットワーク化された電動の業務車両で配送し、渋滞など必要に応じてクルマから鉄道へ、クルマからバイクへと乗り換えることなどというプロセスを経て3つのゼロを目指すというものだ。そのためにもシームレスなネットワーク化も必須の要件でもある。
未来の都市交通で目指すこところは、必ずしも自家用車を使う必要はないというのがモットーになり、四輪車、二輪車、鉄道を組み合わせた形が新しいモビリティの実用的なアプローチと考えている。つまり、自家用車から容易に他の交通手段へと乗り換えられるようにすることがボッシュにとっての重要課題だと説明する。また交通インフラを新しく整備しなおすと言い換えることもできるだろう。
■アーバンモビリティの実際
すでにボッシュが提供しているソリューションのひとつに「Coup」がある。電動スクーターのシェアリングサービスのことで、ベルリンとパリでスタートしている。すでに1600台のCoupを配置し、さらに増車の方向で進んでいるという。
また2018年にはコネクテッドモビリティの柱となるソフトウエアのプラットフォームであるクラウドサイトの運用が始まる。「Bosch Automotive Cloud Suite」は走行しながら、オンラインパーキングやスマートホームへのアクセスが可能になる。
こうしたネットワーク化の実現のためには、さまざまな専門企業とのパートナーシップ、協力関係も必要で、高精度デジタルマップを作成することを目指し、TomTom社、百度(バイドゥー)、AutoNavi、NavInfoと協力関係を結んでいる。そしてレーダーセンサーから得た情報をもとに、レーダーシグネチャーを通じて正確な位置を割り出すことができるようになるのだ。
また、数年後には貨物輸送のネットワーク化と自動化も予定しているという。さらに、今後10年間でクルマそのものの変革とともに、クルマ自体が自宅や職場とならぶ第3の生活空間になるとしている。走行しながら、簡単なジェスチャーでオンライン・ショッピングができたり、電動二輪車の予約ができたりするようになると。
■ゼロ・アクシデントの自動化が進んだモビリティの世界
ネットワーク化と同時に自動運転はストレスの軽減になることは言うまでもない。つまりアクシデントからの解放であり、ドイツ国内だけでも1/3以上事故件数が減るとされている。そのため2020年までに、ダイムラーとの協力関係において、市街地での自動運転を可能にする研究がスタートしている。これは現在のボッシュでも最も野心的な挑戦であり、都市交通における真の革命でもあるという位置づけになっている。
そのためには、例えば遠い未来でのロボットカーの実現のための基盤になるとしている。そのため中国では百度(バイドゥー)の自動運転車向けのオープンプラットフォーム「Apollo」の開発プロジェクトにセンサーをすでに提供しているという。
■ゼロ・エミッションのさまざまな道のり
ボッシュは電動化によるゼロ・エミッションのまえに、地球温暖化を抑制するためにもディーゼルの優秀性をさらに高めていくことも重要と考えている。2025年にパリ、マドリッド、アテネ、メキシコシティがディーゼル車の乗り入れを禁止しているが、ボッシュはその判断に対し、エコロジーの観点からも見当違いであり、近視眼的な考えの環境保護策だと正面から否定している。実際、EV化するための電力は火力発電、あるいは原子力発電がその多くを占め、石炭による火力発電ではCO2排出は多く、本質的な解決策にはならない。
従ってディーゼルの有効性を訴えているわけだが、ちょうどこのイベントの最中に、メルセデスベンツのディーゼル排出ガス制御疑惑が起こり、その点では説得力に陰りが生じているのも事実だ。だが、NOx、CO2、PMといった有害物質が環境破壊や人体への影響などが限りなく抑えられるとしているのが、ボッシュの姿勢でもある。したがってEVと内燃機関はこの先も長く共存するというのがボッシュの見解でもある。
一方でガソリンエンジン、ディーゼルエンジンには改善すべき点が多いことの認識は強く、再生可能エネルギーから製造された合成燃料で稼働する内燃機関こそ、あらたなパワートレーンであり、資源保護とカーボンニュートラルが実現するということも明言し、探求している。
具体的にもユーロ6排出ガス規制に準拠したディーゼルが認証を受ける予定になっており、RDE(Real Drive Emission)でのテストも繰り返し行ない、市街地では基準値よりもクリーンであるレベルに達しているという。また、ガソリンエンジン用PMフィルターも採用し、微粒子問題から解放されていることも説明している。
そしてもうひとつICE(内燃機関)がこれからも重要である理由として、再生可能エネルギーを利用して製造された合成燃料で作動するICEこそ、現在の大気汚染の元とされるICEの代替パワートレーンとなる可能性があるとしているのだ。
■48Vハイブリッドの位置づけ
48Vの車載ネットワークは、エントリーレベルのハイブリッドパワートレーンに適しているという位置づけだ。これはコンパクトカーなどのB、Cセグメントの車両向けで、ボッシュはシステムサプライヤーとして、電動モーターからバッテリーまで幅広く提供していくとしている。
すでに、この事業は順調に進行しており、2016年中国において、48Vバッテリー技術関連で大型の受注を5件獲得したと発表している。
これら48Vのパワートレーンシステムは、従来のコンパクトカーだけでなく都市型パーソナルモビリティに対応し、コンパクトで軽量な新型車両において威力を発揮する。すでに開発している二輪のE-Schwallbeや四輪のe.GOなどにもこうした技術を提供している。
一方、大型車での電動化では、高電圧システムの開発を進めている。バッテリーでは2020年までにエネルギー密度を現在の倍以上に引き上げ、コストを半分以下に引き下げる研究を進めているという。また、電動アクスルに関しては、モーター、パワーエレクトロニクス、トランスミッションをひとつのハウジングに統合することで、標準化が簡単に行えるとしている。
こうしたボッシュのeモビリティはすでにドイツの郵便車、Streetscooterにパワートレーンシステムを提供し、これは欧州で最大の規模の電気自動車フリート車両となる見込みだという。
■まとめ
こうした都市交通のソリューションの提供に対し、乗用車だけに限らず、すべてのトラフィックにボッシュは全方位で取り組んでいる。そのため、あらゆる分野でマイコンやデータ量などが膨大に膨れ上がっていく。そのためボッシュは半導体分野への資金投資も行なっている。今年(2017年)ボッシュはドイツ・ドレスデンに12インチ・ウエハ半導体製造工場を約10億ユーロ投資して建設している。6インチ、8インチ・ウエハでは得られない効率が得られるからということだ。
さて、今回のメディア向けモビリティ エクスペリエンス2017の狙いを理解したところで、次回からは具体的なソリューションについてのレポートをしていく。
【ボッシュ・モビリティエクスペリエンス2017レポート】
・vol.1 EV化、自動運転、常時接続は避けては通れないクルマの未来
・vol.2 ストレス・ゼロのアーバンモビリティとは何か?交通インフラの再整備
・vol.3 自動運転にAI人工知能は何故必要なのか?
・vol.4 自動運転のためのソリューションレポート ドライビングアシスタンス篇
・vol.5 自動運転のためのレーダーロードシグネチャー&ハッキング篇
・vol.6 NOxとCNGで空気の質を改善