2016年3月9日、ドイツ・ベルリンで開催された「ボッシュ・コネクッテッドワールド」会議で、インターネットを通したサービスを行なうためのクラウド「Bosch IoT Cloud」を導入すると発表した。ボッシュは今後、このクラウドを通じてコネクテッドモビリティ、コネクテッドインダストリーやコネクテッドビルディング向けのさまざまなアプリケーションを提供する。
IoT(インターネット of things:多分野におけるインターネット化)をテーマにしたボッシュの年次カンファレンスで、フォルクマル・デナー取締役会会長は、「私たちは現在、ネットワーク化された世界のためにボッシュの持つ最先端のテクノロジーを結集したサービスをワンストップで提供します。このBosch IoT Cloudにより、当社の持つソフトウェアの専門知識に必要な最後の要素が補完され、ボッシュはネットワーク化、IoT向けのソリューションをフルサービスで提供できるようになりました」と語っている。
つまり、IoTに必要な3要素(センサー、ソフトウェア、サービス)すべての分野で事業を展開している世界で唯一の企業になるということを意味する。
ネットワーク化を実現するための基礎技術、たとえばセンサーやソフトウェアを提供するだけでなく、それをベースにした新しいサービスの開発を進めるというのだ。
Bosch IoT Cloudは、プラットフォームやソフトウェアなどの技術的インフラで構成されている。最初はこれをボッシュのインハウスソリューションのために利用することから開始され、2017年からは他の一般企業向けのサービスとして活用していく予定だという。
多くの企業は、セキュリティの懸念からクラウドテクノロジーやネットワーク化ソリューションの利用を避ける傾向にあるが、その懸念を払拭するのがBosch IoT Cloudだ。
ボッシュは、このIoTクラウドをシュトゥットガルト近郊にある自社のコンピューティングセンターで運用する。データがしっかり保護され、安全な状態に保たれるため、セキュリティは常に最新のレベルに保っている。
Bosch IoT Cloudの核となっているのは、ボッシュが開発した「Bosch IoT Suite」だ。このBosch IoT Suiteは、ウェブ接続が可能なモノを認識し、データを組織化して交換できるようにしている。これによりさまざまなサービスやビジネスモデルの実現が可能になり、大量のデータ、つまりビックデータも分析・処理して管理することができる。
デナー取締役会会長は、「Bosch IoT Suiteはネットワーク化された世界の頭脳に相当し、インターネットに接続したデバイス、ユーザーや企業が必要とするあらゆる機能を提供できます」と語る。たとえば、製造機械の損傷の兆候が報告された場合、機械を修理するための予防措置を講じるなど、自立的に決定を下すシステムをBosch IoT Suiteに保存することもできる。すでに現在500万台以上のデバイスや機械がBosch IoT Cloudに接続されており、こうしたプラットフォームをベースとした数多くのソリューションやプロジェクトが運用されている。
◆アスパラガス栽培から交通、自動車保険、インダストリー4.0まで
ボッシュはこれまでにも、ネットワーク化された世界のためのさまざまな製品やソリューションを提供している。たとえばボッシュのスマートホームシステムは、自宅の室温をリアルタイムでユーザーに伝えることができ、ユーザーは帰路の途中に室温を調整することができる。
さらにIoTクラウドは空調設備サービスエンジニア向けに設計されたソリューションもラインアップ。このソリューションによりエンジニアはボッシュが管理する空調システムに遠隔からアクセスできるようになり、故障発生時に故障の原因を突き止めることができ、エンジニアは初回の訪問時に修理に必要なスペアパーツを持参し、その1回の訪問で修理を済ませることができるのだ。
アスパラガス畑に設置されたセンサーのデータ運用にも活用することができる。18~22度に維持が必要であるアスパラガス栽培用の土壌の正確な温度を把握できれば、農家はアスパラガスの収穫量を増加させ、利益を増すことに繋がる。地面のさまざまな深さに埋め込んだ複数のセンサーを使用して温度を測定し、そこから無線でデータがクラウドに送信され、アプリにより農家のスマートフォンにも転送される。農業経営者はこのデータをもとにアスパラガスの温度変化を詳細に追跡できるため、アスパラガスの成長条件を最適に保つために迅速に行動できるわけである。
自動車・交通関連では、シュトゥットガルトの通勤列車網におけるパーク&ライド施設での利用可能な空き駐車スペースを示すオンラインマップも作成している。
駐車スペースが空いていることをセンサーが検知すると、その情報がクラウドに送信され、マップにリアルタイムで情報がアップデートされ、ユーザーはスマートフォンから最新情報にアクセスできるのだ。ユーザーは情報をアプリやVVS(シュトゥットガルト交通局)のHPで確認できる。
またトラックのドライバー向け駐車場予約サービスもある。駐車できる休憩所を探したい場合、トラックがBosch IoT Cloudに現在地の情報を送信し、最寄りの利用可能な駐車スペースを予約して、その情報をドライバーに伝えることができる。
この他に、ドイツの大手保険会社は、安全な運転を心がけるドライバーのために保険料割引サービスを始めている。ボッシュのオートモーティブ・アフターマーケット事業部は、このサービスを実現するための技術をコネクティビティ・コントロールユニット(CCU)として提供。車両に搭載されたCCUは、加速度、最高速度、コーナリング速度のデータを収集するために車両のOBDインターフェースに接続される。CCUはこの情報を暗号化し、内蔵SIMカードを使用して携帯電話のネットワークを経由し、それをコンピュータシステムに送ることができる。保険会社はこの情報に基づいてドライバーのプロフィールを作成し、特に安全な運転を心がけているドライバーに割引サービスを提供しているのだ。
インダストリー4.0の分野では、「TraQ」(tracking and quality)が2017年から展開される。この「TraQ」は製造工程中の製品品質がほぼシームレスに監視される一方で、サプライチェーンの終盤で何が起きているかわからないといった事態を解決することができる。
輸送用のパッケージや製品本体に取り付けられたセンサーが、温度や振動、明るさ、湿度といった品質に関連する情報を記録し、これをクラウドに送信。そして、クラウド上のソフトウェアがその測定値を許容レベルと比較し、これらの数値のひとつでも許容レベルを超えた場合、顧客、サプライヤー、サービスプロバイダーにリアルタイムで警告するシステムだ。センサーから位置情報も伝えられ、予想到着時刻も算出できるようになり、輸送管理の最適化にも繋がる。
このようにIoTクラウドを活用することで、今までは不可能だったサービスがワンストップで実現するようになるのだ。デナー取締役会会長は、このデジタル革命を脅威と捉えるべきではないと強調している。「デジタル革命と加速するネットワーク化は、私たちにとって非常に大きなチャンスです。特に強力な産業基盤とハードウェアに関する卓越した専門知識をもつ企業は、これまでの事業を広げるだけでなく、まったく新しい分野に参入するチャンスが訪れます。そのための重要な前提条件となるのは社内でソフトウェア、ITに関する専門知識を持っていることですが、ボッシュは長年にわたりこうした能力に磨きをかけ続けて行きます」と語っている。