住友ゴムは2022年9月6日、東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センター・高橋幸生教授、理化学研究所、高輝度光科学研究センター ・為則雄祐室長らと共同で、大型放射光施設SPring-8を活用して、物質の構造と化学結合状態をナノレベルで計測可能な技術(テンダーX線ナノスコープ)を世界で初めて確立し、リチウム硫黄電池材料に用いる硫黄化合物の可視化に成功したことを発表した。
この技術を応用することで、現在開発を進めているリチウム硫黄電池での反応・劣化メカニズム解明による性能向上が期待でき、将来はタイヤ材料として使用する硫黄の研究にも応用することで、より高性能なタイヤの開発につなげて行くとしている。
住友ゴムは、従来からタイヤの基本性能および性能持続性に大きく関与する硫黄について研究してきた。タイヤ研究で培った知見は他の分野にも応用しており、硫黄においては2011年から産業技術総合研究所と共同で、リチウム硫黄電池に関する開発を進めてきた。
リチウム硫黄電池は、リチウムイオン電池の6〜7倍の理論容量が期待でき、軽量かつ安全性に優れているが、充放電のサイクル寿命が課題になっている。サイクル寿命を向上させるには硫黄化合物を高精度で計測する必要があり、そのため研究グループは、X線の波が揃っているテンダーX線を利用できるSPring-8を活用することで、テンダーX線ナノスコープを初めて確立。この計測技術により、硫黄化合物をナノレベルで可視化することに成功した。
硫黄化合物にテンダーX線を照射することで画像A(X線回折強度イメージ)が得られる。計算(位相回復)により画像B(X線吸収イメージ)・画像C(X線位相イメージ)をつくる。エネルギーを変えてこれを繰り返す。30点程の画像を組み合わせることにより硫黄化合物の化学結合状態を可視化した。
今後、この計測技術を2024年から運用開始予定である次世代放射光施設「NanoTerasu(ナノテラス)」でも活用し、リチウム硫黄電池の動作環境下での計測、材料開発の早期実用化に取り組んで行くとしている。
また、タイヤ研究では、ゴムと硫黄が結合した架橋構造のさらなる分析への応用が期待でき、タイヤ開発および周辺サービス展開のコンセプト「SMART TYRE CONCEPT」の主要技術の1つである「性能持続技術」の開発につなげて行くことになる。