スバル/STIの2021年のモータースポーツ活動について、またコンプリートカーなどの商品ラインアップも含めたインタビューを、STIの平岡泰雄社長に聞くことができた。
モータースポーツの位置付け
編集部:最初にスバル/STIが考えるモータースポーツについて、どんな位置づけとして参戦をしているのでしょうか。
平岡社長(以下敬称略):そもそもSTIの存在意義として最上位にあるものは、SUBARUのブランドを押しあげるということで、その手段のひとつとしてモータースポーツがあります。とりわけファンとのコミュニケーションとしては有効な方法だと考えていますので、継続参戦していきます。特にスーパーGTとニュルブルクリンク、ラリー参加者への支援といったものに力を入れてきました。将来的にもっと有効なファンコミュニケーションが可能なものがあれば、シフトする可能性はありますが、現時点ではモータースポーツが大事だと考えています。とくに、今季のスーパーGTでは無観客だったり、入れても数戦だけの観戦という、厳しい状況でしたが、多くのファンの方に関心を持っていただけたことには感謝しています。
編集部:参戦する以上優勝することが目標だと思いますが、参戦目標をカテゴリーごとに教えて下さい。
平岡:スーパーGTのGT300クラスに引き続き参戦します。2021年に関しては、トラブルを出さずに、リタイヤせず最後まで走り切ることが最低限のことで、最後までお客様に見ていただくことが大事だと思います。そしてその上にあるのが、勝つということで表彰台に登ることです。
2020年はいろんな施策を打ちまして、信頼性は上がりましたが、まだ、十分ではありません。あまり表に出ませんでしたけど、マイナーなトラブルがいくつか出ていました。それでも、シーズンを通して見れば戦闘力は向上したと思います。速さに関しては、2020年は路面温度が非常に極端で、中盤戦は路面温度が高すぎて、また第8戦は低すぎて結果を出せなかったですね。しかし昨年の経験は必ず今年の戦いに活きてくると考えています。
2021年のニュルブルクリンク24時間レースは一旦見送ることにしました。コロナの感染状況次第ですが、改善されれば参戦には前向きに考えていきます。
ニューマシン投入のスーパーGT BRZ GT300
編集部:2021年のスーパーGTではBRZ GT300マシンが新型になるということですが。
平岡:はい、2021年は新型車両になります。既に確認走行はしている状態で、エンジン搭載位置を後ろへ移動させ、重量物を車両の中心に集めるようなレイアウトで製作しています。前後の重量配分や左右のバランスなども考慮した設計になっています。狙いはこれまで以上のコーナリングマシンにしていくという目標です。パワートレーンはEJ20型を継続して搭載します。次世代エンジンの開発も進めていますが、デビューまでにはまだ時間が必要です。そのため、21年はEJ型を使います。それでも、まだまだこのエンジンでできる領域が残っているということがあり、エンジンそのものの戦闘力アップを狙っています。
編集部:ニューマシンの設計についてですが、これまでのR&Dスポーツとの関係はどうなりますか?
平岡:車体の設計・製造はR&Dスポーツで、剛性解析などはSTIでやってます。それとパワートレーンの供給というのは従来どおりの連携でやっていきます。
編集部:チーム体制についてですが、変更はありますか。
平岡:レース運営も従来どおりR&Dスポーツで、ドライバーも変更なく井口卓人と山内英輝で参戦します。それとチーム総監督を渋谷真から小澤正弘に変更します。
編集部:小澤さんについて教えて下さい。
平岡:小澤はWRCに参戦していたころからEJエンジンの開発をやっていた経験豊富なエンジニアです。渋谷が社内の年齢規定になったこともあり、若返りを図りました。小澤はチーム全体を見るような経験はありませんが、パワートレーンはレースにおいてキーになるポイントなので、豊富な経験と若さを生かした活躍に期待します。でも2020年はチームに帯同しパワーユニットを見てましたので、スムースに移行できると思います。
電動化への対応
編集部:スーパーGTに関しては次世代を見据えた参戦についてはいかがでしょうか。
平岡:スーパーGTは2021年からニューマシンになり、その先を見据えた開発も進めています。モータースポーツを通じてファンの皆様との交流は継続的にできるように取り組んでいます。加えてSTIとしてはモータースポーツの世界でも電動化の波が予測以上に早く進んできましたので、将来の電動化の準備も進めます。具体的には公表できる段階ではありませんが、電動化への準備はキチンと着手しています。
編集部:それと最近の報道などでCO2排出問題からモータースポーツがシュリンクすることを心配しているファンが多いようですが、逆に電動化される方向へシフトし、ますます活性化していくという方向になるのでしょうか。
平岡:そうですね、ガソリンエンジンは次第にシュリンクしていくと思いますが、電動化されても我々STIらしさを持って参戦し、ファンとのコミュニケーションもしっかり連携していく必要があると感じています。電動化されてもレースを楽しんで頂くことへの対応は必要だと思います。先日もDTMの電動化についての情報も得ましたが、ヨーロッパは動き出すと早いですね。
編集部:そうした電動化への対応もやっているというのは、非常に嬉しいお話だと感じます。
積極的にモータースポーツを通じてファンコミュニケーション
編集部:近年はスーパーGTへは積極的なレース参戦というより、マシン、機材、人材を流用して参戦といったイメージがあったのですが、平岡社長になってからレース活動が積極的になった印象です。そのあたりはSUBARUとの連携が変わったのでしょうか
平岡:2019年はスバルの中村社長はじめ多くの役員が現場に駆け付け、ファンコミュニケーションやチームの激励をやってくれました。やはり現場でのファンの方々の熱い声援を近くで見ると、本当に嬉しいし、熱い想いになります。今後もそのような現場の生の感覚を直接感じて頂くために、コロナ収束後は現場にお誘いしてみて頂こうと思っています。
編集部:そうした意味でもWRCジャパンが開催された場合、どのようなことが企画されていますか?
平岡:もちろん、開催されれば前向に検討し協力していくつもりです。19年はペター・ソルベルグさんに来てもらってトークショーを新城でやりました。2020年はWRXミーティングを企画していましたが、中止になってしまいました。ですので、2021年も開催するのであれば、何かしらの盛り上げ企画は考えるつもりですが、現時点は開催が確定していませんので、お伝えできるものはない状況です。
編集部:最後にモータースポーツ以外でコンプリートカーなど、今後の活動について教えてください。
平岡:スバルの工場生産されるインラインモデルに「STIスポーツ」を設定し、モデルを増やしていくというのは中期計画として決まっています。具体的な車種は言えませんが、これまで設定されていないモデルにも追加され、お客様の期待に応えていくつもりです。また特装車に関しても決まっていますので、期待してください。
編集部:新型車となるスーパーGT300マシン、そして将来の電動化スポーツと盛りだくさんのお話をありがとうございました。ご活躍を祈念しております。