SUBARU BRZ GT300がスーパーGT第2戦 富士スピードウェイで2位表彰台を獲得した。レース中盤までトップを走る快走も見せ、2019年シーズン終了後から取り組んだマシン改良の成果を示すレースとなった。
スバル/STIは、2019年のレース終了後に、これまでの走行データやサーキット、天候などの環境データを元に、BRZ GT300の改善に取り組んできた。そのプロセスはお伝えしてきているが、データを集める技術と解析技術、そして改良仕様のタイムを予測する技術の進化によって、新しいBRZ GT300が製作されたわけだ。
それはエンジンの搭載位置変更、前後重量配分の変更、ロールセンター、サスペンションジオメトリー、空力とほぼ全領域にわたって効果を表している。さらにエンジン、トランスミッションなどのハード部品への信頼回復のための改良も行なっている。そうしたマシン単体だけでなく、ダンロップタイヤとの協業で新しい性能のタイヤ開発まで広範囲に渡って開発が進んでいた。
その進化が実を結んだ結果と言えるレースだった。
土曜日ボディの補剛を
土曜日の午前中、公式練習が行なわれる。そこでドライバーの山内英輝選手から「100Rの舗装が変わった影響がマシンにある」というコメントが出た。それは路面のグリップが非常によくなったため、もっと攻めていけるということだ。その背景にはダンロップがこのレースのために、新しいタイプのタイヤを持ち込んでいたことも影響している。
だから、マシンのボディ剛性を上げればさらに旋回速度をあげられるだろう、ということで公式練習中に補剛材でボディ剛性の変更をピットで行なっている。
その一方で、天候や路面温度を予測して本命と位置付けているタイヤのテストも行ない、他にも次戦以降のためにスペア用ブレーキローターの焼入れ作業など、さまざまな「仕事」をこなしながら公式練習を走った。こうした状況の中、山内選手は3番手のタイムを計測している。
新タイヤとボディの補剛という変更について、渋谷真総監督に話を聞くと「それなりの効果はわかっていますが、やはりテストをしていない状況で、この場だけのテストで本番採用するにはリスクがあると思います」ということで、今回はボディの剛性変更は採用せず、タイヤも本来の本命タイヤで予選、決勝を走ることになった。
予選4位レブリミットがあたる
スーバーGT第2戦のGT300クラスには、30台のエントリーがありQ1予選は2組にわかれて走る。各組上位8台がQ2予選に進み、BRZ GT300はA組で井口卓人選手が走行。そこでは1分37秒011で、予選A組トップを獲得するナイスランを披露した。その後GT300のB組が走行し、GT500のQ1が行なわれる。そうしたことで、路面にはラバーが乗り、コンディションはさらにグリップが高くなってくる。
予選Q2は山内英輝選手がタイムアタック。そうした路面状況の変化を活かし井口選手を上回る1分36秒445を叩き出した。がしかし、そうした優位性は他チームにも同じことが言えるわけで、予選トップは6号車1分36秒270でわずか0秒175届かず4位となった。その0秒175のギャップに4台がひしめき合う接戦でもあった。
予選後山内選手に話を聞くと「100Rでレブにあたってマシンが暴れたんですよね。ひとつギヤをアップすると遅いから、引っ張ったんですけど。これだけ燃料を少なくして軽い状態だからの現象なので、決勝ではレブにあたることはないと思います」とコメントした。
エンジンの回転がレッドゾーンとなり、その反動でマシンの挙動が乱れると言っているのだ。これまで何度も走っている100Rだから、オーバーレブになるギヤ比ではない。つまり、明らかに車速が上がっている証拠でもあるのだ。100Rの攻略については「見える化シリーズ」の第1弾で詳しく解説しているので、参考にしてほしい。
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もちろん、山内選手が言うように舗装が変わったことも要因の一つだろうが、マシンの旋回性をあげた改良の成果が出たというのが正解だ。
決勝 優勝に手が届くも・・・
決勝はセカンドローの4位からスタート。ドライバーは山内選手で、スタート1周目のコカ・コーラコーナーで55号車NSX GT3をパス。4周目に2号車ロータスをパスして2位に浮上した。1秒280離されていたトップ6号車86より速いラップタイプで追走する。
BRZ GT300が富士スピードウェイをあまり得意としない理由に最高速度がある。ライバルより最高速が遅いため、コーナリングで稼ぐという性格のマシンだからだ。国内随一のロングストレートを持つ富士では、その最高速度の影響は大きい。
トップを追走する山内選手のオンボードカメラには、ストレートで追いつけない、離される状況をハンドルを叩いて悔しがる映像が流れている。この日、BRZ GT300は手元集計では271.51km/hが最高で、NSXやアストンマーティンは軒並み275km/hを超えていた。
そうしたハンデがありながら山内選手はトップ6号車を捉え10周目にトップを奪った。じつはその前の7周目の最終コーナーで6号車に並び、トップを奪うかに見えたがリヤがスライドして逆に3位の2号車に危うく差し返されそうになる場面もあった。
トップを奪った山内選手は、2位を引き離すことはできず0秒5前後の距離を保ちながら周回を重ね、25周を終えたところでピットインし井口選手に交代した。
このレースではGT300クラス全車に安全性の観点から、タイヤの4本交換が義務付けられており、またチームには燃料の給油速度を制限するリストリクターが取り外されている。その好条件を活かして井口選手はピットアウトした。
その間トップに立つ2号車ロータスは、BRZ GT300のピットインを見て、できるだけ差を広げる戦略をとった。レース後ドライバーからは「タイヤが持つか不安でしたけど、BRZをリードするためにギャンブルにでました。結果、タイヤがもって無事ピットインできたことが大きかった」と加藤寛規選手は語っている。
井口選手がドライブした時点でトップ2号車とは4秒以上離されていた。井口選手もトップのマシンが視界に入っているだけに戦闘モードだっただろうが、追いつけなかった。それでもBRZ GT300は2位でチェッカーを受け、富士では2017年以来の入賞となった。
結局は燃料リストリクターが外されても燃費の悪いBRZは給油量が多いため、時間がかかる結果になった。EJ20型市販エンジンを改良したターボ車とレース専用に開発されたGTA V8型自然吸気エンジンでは燃費に差があるという結末だった。
レース後井口選手は「以前はピットアウトすると、ライバルのマシンは7秒以上先にいっちゃうので、視界には入らなかったんですけど、今回は見えていたので、追いかけやすいしやる気も出ます。けど、追いつけなかった」とコメントしている。
マシンは安定して速い
優勝が目の前にあっただけにチームは2位の成績を両手離しで喜んではいないが、オフシーズンの改良の成果が出たレースだと思う。さらに言えば、100Rをさらに速く走れる糸口が出てきたわけで、より速くすることができる価値の高いレースだったに違いない。
そしてドライバーも口を揃えて「マシンは速くて安定している。バランスもいい」といい、これまでフロントのダウンフォースが足りないことによる走りにくさが改善されていることが伝わってくる。
驚いたことに、フロント先端のカナード部分をボックスタイプで予選、決勝を走っているが、渋谷総監督によると、カナードのほうがダウンフォースが得られるので、予選はカナード、決勝はボックスで行く予定だったという。だが、ドライバーはフロントのダウンフォースが少ないボックスタイプで予選を走っているので、こうした部分でもまだ伸びしろがあること、BRZ GT300のポテンシャルがあがっていることが垣間見えるレースでもあった。<レポート:高橋明/Akira Takahashi>