【WEC2015】ル・マン テストデーで日産GT-R LM NISMOが最高速

テストデー恒例の全出場車勢ぞろいの記念写真
テストデー恒例の全出場車勢ぞろいの記念写真

いよいよ2015年の世界耐久選手権(WEC)の頂点に位置するレース、ル・マン24時間レースが迫ってきた。このクラシックイベントは6月10~14日にサルテ・サーキットで開催される。

公道を使用するル・マン24時間レースは事前のテスト走行が限られており、2015年5月30~31日に公道を閉鎖し、恒例のテストデーが行なわれた。このテストデーで、WECシリーズ1、2戦を欠場した日産 GT-R LM NISMOも3台が顔をそろえ、アウディ、ポルシェ、トヨタ、日産の4メーカーのLMP1マシンが勢ぞろいした。

ル・マン テストデー 結果
ル・マン テストデー 結果
ル・マン テストデー 最高速計測結果
ル・マン テストデー 最高速計測結果
公約通り、伝統を受け継ぐ3色・3台で出場するポルシェ919ハイブリッド
公約通り、伝統を受け継ぐ3色・3台で出場するポルシェ919ハイブリッド
WEC 2015 ル/マン24hテストデーWEC 2015 ル/マン24hテストデー

さて、実際のテスト走行ではポルシェ勢が他車を圧倒した。面白いことに、最高速では日産、アウディ、さらにトヨタより遅く、アウディに比べ7㎞/hほど遅い。にもかかわらずラップタイムで圧勝しているのはコーナリング速度と中間加速の良さであることは間違いない。クラスで唯一のハイブリッド/8メガジュールという大回生量、そしてそれを生かす高出力密度・大容量のリチウムイオン・バッテリー、そして加速時に400ps以上を発揮する高出力のフロントモーターが威力を発揮している。

ちなみにトヨタのウルトラキャパシターやアウディのフライホイール・ジェネレーターは、大量のエネルギーを極めて速やかに吸収すると同時に素早く放出できるのがメリットだが、ポルシェのリチウムイオン・バッテリーは、高いエネルギー密度のおかげでより多くの電気エネルギーをより長い時間蓄えることができ、ル・マンの1周13km以上におよぶコースのどこでも電気エネルギーを放出できるポテンシャルを持っているのだ。

またエネルギー密度はウルトラキャパシターに匹敵し、それでいながらエネルギー密度はキャパシターを大きく上回っている。

万全の体制で連覇を狙うアウディチーム
万全の体制で連覇を狙うアウディチーム

アウディは、今シーズンから2メガジュールから4メガジュールにエネルギー回生量をアップし、フロントアクスルに搭載されるツインモーターの出力は、昨年比17%も向上し、200kW(272ps)となっている。V型6気筒 TDIエンジンの燃費はこれまでより2.5%向上させる一方で出力を410kW (558ps)にまで引き上げ、ハイブリッドシステム全体での出力は610kW (830ps)に向上。ただし、総合出力は1000ps以上というポルシェやトヨタに劣っている。

WEC 2015 ル/マン24hテストデーWEC 2015 ル/マン24hテストデー

WEC 2015 ル/マン24hテストデーWEC 2015 ル/マン24hテストデー

しかし、空力性能とタイヤ性能のマネージメントで他車を圧倒している。特にタイヤはレース中の負担を軽減し、耐摩耗性とグリップのバランスを大幅に改善しているのだ。そのため、総合戦力はNo1と言わざるを得ない。

トヨタTS040 は昨年のベストタイムよりダウンしている
トヨタTS040 は昨年のベストタイムよりダウン。苦戦が予想される

トヨタは、前戦のスパ6時間レースで脊椎損傷を負った中嶋一貴がル・マンに間に合ったことは朗報だが、小林可夢偉もリザーブしている。テストデーでは、トヨタはポルシェ、アウディより遅く7、8番手となった。ベストラップタイムの3分25秒台は、昨年の自身のラップタイムより遅くなっている。

WEC 2015 ル/マン24hテストデーWEC 2015 ル/マン24hテストデーWEC 2015 ル・マン24hテストデー

進化の著しい他車に比べ、昨年とほぼ同じパッケージのトヨタTS040は、他チームの動向を見誤った上に、2015年の車両規則に適合させた結果、ラップタイムが低下したのが実情のようだ。当然ながら決勝レースは厳しいと予測され、チームは早くも2016年のパッケージ、リチウムイオン電池やターボエンジンの採用を検討しているといわれている。

WEC 2015 ル・マン24hテストデー
3台体制の日産は、21号車にクラシックカラーリングを採用

WECシリーズ1、2戦を欠場し、性能の向上、耐久性の向上を行ってきた日産GT-R LMNISMOは3台体制でル・マンに参戦し、1台は白とブルーのグループCカー時代のクラシック・カラーリングを採用している。

WEC 2015 ル・マン24hテストデー
フロントグリル左右部はバキュームチューブのインテークで、左右のチューブはリヤまで貫通している

テストデーでは最高速では336㎞/hとトップを記録し、最速ラップタイムを記録しているポルシェに10㎞/hの差をつけた。しかしラップタイムでは、27、29、30番手となり、LMP2クラスより遅い結果となった。チームコンセプト通り、空気抵抗は少ないものの、加速、コーナリング性能はプアである。

主催者発表では2メガジュール(マシン発表当初は8メガジュールと称していた)、リヤ駆動モーター装備とされていたが、実車は2メガジュールで、エネルギー回生システムはエンジン直結の機械式トロイダルCVT一体型フライホイール(トロトラック社のフライブリッド)が担当する。コスワース社と共同開発した3.0L・V6ツインターボエンジンとこのフライブリッドによる単純なFF駆動としている。つまり電気駆動モーターもバッテリーも装備していないのだ。したがって、減速エネルギーはフライホイールに増速回転運動として貯蔵され、加速時にはその回転エネルギーをエンジンに加えるというシステムと考えられる。なお一説には、2セット目ののフライブリッドを装備し、1セットはコクピット下部に配置し、遊星ギヤを介して後輪を駆動するシステムも検討されていたという。

WEC 2015 ル・マン24hテストデーWEC 2015 ル・マン24hテストデー

設計者のベン・ボウルビーは空力性能の革新を唱えており、マシン後部の空力的な洗練に加え、マシン前部からリヤのディフューザーに直結するバキュームチューブ(空気通路)をマシンの左右下部に備えているのが特徴だ。したがって空気抵抗の低減とダウンフォースの両立というコンセプトは実現しているが、出力、駆動性能はLMP2クラスに劣るレベルにある。ということは、LMP1としての戦いには加わらないということを意味しているのだろうか。

4メーカーのLMP1が戦う今年のル・マン24時間レースは近年では稀有の激戦となる。ポルシェもアウディも、今年のレースは予想もできない厳しい戦いになるだろうと予測している。

WEC2015関連情報
FIA WEC公式サイト
トヨタ・モータースポーツ公式サイト

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