【WEC2013】ル・マン24時間レース見聞記 他のレースとは全く雰囲気が違う偉大なクラシックイベント

雑誌に載らない話vol75
今年で90周年を迎えるルマン24時間レースだが、24万5000人という史上最高の観客動員数を数えた。レースは土曜日の午後3時にスタートし、日曜日の午後3時にゴールするという24時間レースだが、レースが始まるまでの1週間はレースウイークとしてさまざまなイベントが催されている。本番レースの展開や結果は既報通りだが、今回はそれ以外のネタを一部紹介してみたい。

まず最初にあるビッグイベントは車検。ルマン24時間レースはご存知のようにルマン市の南に位置するサルテサーキットを舞台に繰り広げられる。サルテサーキットの一部と一般公道を合わせ全長13.629kmのコースになっているのが特徴だ。

通常レース車輌の車検はサーキットで行なわれるのが当然だが、このレースではルマン市街のセンターにあるルパブリック広場で車検を行なう。そこには仮設の車検用テント、リフトが用意され、1台ずつ車輌を運び込む。また、観客はそれを無料で見ることができ、また、仮設のギャラリースタンドも組まれ数時間に渡って行なわれる車検を見ることができるのだ。

この至近距離でマシンが見られる

広場にはマシンを押して運ぶ通路を柵で仕切り、メカニックが押してくるのをゆっくり間近で見ることができる。しかも、手を伸ばせばマシンに触れるのではないか?というほど近くをゆっくりと移動する。まさに、ハリウッドのレッドカーペットなのである。ドライバーも当然、レーシングスーツ、ヘルメット、シューズにグローブのチェックはあるので、着用し装備確認を受ける。

トヨタハイブリッド7号車
車検場。7号車は中嶋一貴選手がドライブした

車検テントでOKをもらったあとは広場のセンターで記念撮影。メカニック、ドライバーを含めチーム全員の記念撮影だ。それを観客は仮設スタンドで見たり、近所のカフェからビールやワインを飲みながら見ることができる。ドライバーはハリウッドスターのごときサインをせがまれ、握手をし二言三言観客と言葉を交わしながら、ゆっくりと車検セレモニーを楽しむ。観客もまた穏やかに楽しむのがルマン流だ。

ファンサービス井原慶子

街のリパブリック広場から少し下った場所には過去のドライバーたちの手形、足型のモニュメントがある。タイヤとコースを象ったモニュメントにはジャッキー・イクスの手形があり、地面には歴代のドライバーたちの名前がある。ベルトラン・ガショー、デレック・ベル、アンリ・ペスカロロ、聞けば「あ~」と懐かしく思う名前ばかりだ。

ルマンモニュメントジャッキー・イクス手形

車検は日曜、月曜の2日間をかけて全車両をチェックする。水曜、木曜は公式予選だ。こちらは夜の22:00~0:00まで行なわれる。昼間の明るい時間にもフリー走行はあり、この日までにセッティングを煮詰め、予選となるが、22:00は薄暗くなり始める頃。23:00には夜の帳は降り、夜間走行の体をなす。

そして金曜日は再び市内でパレードが行なわれる。こちらは過去のルマン出場車輌やそのレプリカ、ヒストリカルな車輌が大量にパレードに参加する。そしてドライバーたちもオープンカーに腰掛け、パレードに参加する。英雄たちのパレードだ。もちろん、これも無料で見れる。

迎える土曜日に決勝レースのスタートが切られる。今年も総合優勝争いはアウディとトヨタの一騎打ち。トップカテゴリーのLMP1クラスはいわゆるワークスがメインで、コンストラクター+市販エンジンという組み合わせのチームは少ない。そこがF1とは大きく違うところで、言い換えれば自動車メーカーの技術争いの場であり、プライドを賭けた戦いとも言える。従ってどこのメーカーも企業としての価値を高めるためにも欲しいタイトルといえるだろう。

アウディは2012年のWEC総合チャンピオンであり、ルマンも制しているディフェンディングチャンピオン。トヨタは2012年から挑戦を始め2年目のシーズンである。デビューイヤーはルマン以外のWECシリーズ戦で何勝かしたが、2013年はまだ未勝利。このルマンは特別な存在のレースだけに、初優勝は欲しいところだ。それには潤沢な予算が必要になるはずで、是非ともモータースポーツ好きの豊田章男社長には一肌脱いでいただきたい。

ピット、パドックは基本的に一般人は入れない。パドックパスを購入しての入場になるが、500ユーロ程度はするプラチナチケットだ。もっとも、このパスがあったとしてもチームのピット作業をじっくり見ることはほぼ不可能で、そのことを良く知る観客はそこにお金をつぎ込まず、他の楽しみを見つけて、自分流のウイークエンドを楽しむというのがルマン式だ。

今年のパドックの雰囲気はやはりアウディとトヨタが目立つものの、ポルシェがなんとなく存在感を強めている。パドックの空気感なので、その根拠は説明できないが、まだ市販プロダクトの911をベースにしたレースカー「RSR」で参戦しているだけなのに、2014年からLMP1クラスで参戦表明しているポルシェワークスの存在を早くも意識させられる。

一方、パドックエリア外では、おみやげもの屋、グッズ販売、ミニカー、ビールにソーセージと簡易のショップが多く立ち並び、それを一軒ずつ見て歩くのも楽しい。24時間オープンしているので、時間も十分ある。さらに、主催者側でもコンサートをブッキングしたりもしている。今年はアースウインド&ファイヤーのコンサートが土曜日の夜に行なわれていたそうだ。例年、かなりのビッグネームのアーティストのコンサートがあるということだ。

ルマンの観客は数日間テントでのキャンプをする人も多く、テント村もある。思い思いにルマンレースを楽しむ方法を持っている。スタートとゴールの瞬間はメインスタンド周辺に集まり、その瞬間を目撃する。しかし、長丁場なだけに息抜きをしながら楽しむ術を知っているということだろう。

シケイン

警察も動員され信号もコントロールされる。渋滞が予測される場所はすべて一方通行にするなど、円滑な流れとなるように工夫されているので、土曜日の朝、サーキットへ入場するにも渋滞なく入れてしまう。また決勝レースが終わった後も少し流れが悪くなるということだが、取材陣が撤収するころにはまったく渋滞などなかったのだ。こういったことからもレース観戦のネガを取り除き、より多くの観衆が楽しめるようにという配慮は参考になる。

そうそう最後に、ガイジンだからなのか、それともサービス精神がしっかりしているからなのか、ドライバーやチームスタッフが観客に優しいというのが嬉しい。これまで国内のレース取材を経験してきた中で、意外な印象だった。人に優しければ、ファンも増えるし人気も高まる。レース自体がエンターテイメントである部分も持っているということをエントリー側もしっかり認識しているという印象だった。

トヨタハイブリッド7号車
井原慶子 ファンサービス
ルマンモニュメント ジャッキー・イクス手形
シケイン
ページのトップに戻る