【WEC2013】第3戦 ル・マン24時間レース アウディR18 e tronが12回目の優勝

トップを守り抜き優勝したアウディR18 etronクワトロ 2号車

記念すべき90周年となる第81回ルマン24時間レースではアウディとトヨタのハイブリッドマシン同士の激闘となった。磐石の態勢を築いて決勝レースに臨んだアウディだったが、序盤戦で大きな狂いが生じてしまった。6時間目に3号車は追突され、1輪がパンクし、ピットに戻るまでほぼ1周のスロー走行を強いられたため2周分以上の大きな遅れを生じた。またその直後に1号車はエンジン不調が発生。オルタネーターのトラブルにより交換するまでに43分という長い時間を失ってしまったのだ。このためトップを守るアウディ2号車とこれを追いかけるトヨタ8、7号車、つまり1対2も戦いが繰り広げられることになった。

今回のルマンは天候が不安定で、予選も小雨が降り、クラッシュ事故も多発し何度も赤旗で中断され、ドライ路面の時間はそれほど長くないという条件で繰り広げられたが、テストデーの結果と同様に、アウディチームが1(2号車)-2(1号車)-3(3号車)を独占した。

トヨタは8号車は4番手、7号車が5番手で、アウディのトップとは4秒差をつけられた。ルマン仕様のトヨタは8号車が4番手、7号車が5番手で、アウディのトップとは4秒差をつけられた。ルマン仕様のアウディR18 etoronは最高速がトヨタを上回るなど空力性能の向上とトラクションの向上には目を見張るものがある。

曇天の下、レースのスタートが切られたがすぐに小雨が降り始めた

ただし、アウディは燃料タンク容量が規則によりトヨタより少なく、アウディの燃料補給は10周ごとで、一方のトヨタは12周で燃料補給するため、ピットイン回数の多さをラップタイムの速さでカバーする必要がある。このためレースの行方は楽観できたわけではない。また、アウディ側にはF.ポルシェ博士の孫でありVWグループのオーナー、F.ピエヒ氏(かつてのポルシェ917の開発責任者という経歴も持つ)、アウディ社のR.シュタットラーCEOなど首脳陣が勢ぞろいしており、チームにかかる重圧は尋常ではなかったはずだ。

6月22日、決勝レースが開始される15時頃から細かな雨が路面を濡らす中、レースは始まった。しかしレース開始からすぐにアストンマーティン・ヴァンデージGTE(95号車)がテルトルルージュでガードレールに激突し、その後は1時間にわたってセーフティカーが導入された。この事故によりアストンマーティンのデンマーク人ドライバー、アラン・シモンセンは救急治療の甲斐なく死亡した。チームから家族に訃報が知らされたが、家族はレースの続行を希望したという。

アウディ2号車は、1度のパンク以外、ノートラブルで最後まで走り切った

 

レースはその後も小雨が断続的に降り、安定しない天候が続き、セーフティカーの導入もたびたび行われる状態だった。セーフティカーが合計11回も導入され、さらにコースの修復のためなどに合計5時間以上も黄旗が出たのだ。

また冒頭のように、アウディに予想外のトラブルが、3号車、1号車に発生し、強力な3台体制が一転して1台になり、これをトヨタが僅差で追走するという展開となる。もし、トップを守るアウディ2号車にわずかなトラブルでも発生すれば、事態は一変するのだ。アウディ1台、トヨタ2台のシーソーゲームは最後まで続く。遅れた2台のアウディは、ハイペースで遅れを挽回すべく飛ばしに飛ばし、じりじりとポジションを上げてくる。アウディはラップタイムではトヨタ勢に20秒程度のアドバンテージを持ち、その一方で燃料補給タイミングは早いが、トヨタ8号車にじりじりと差をつけていく。

1周遅れで2位に入ったトヨタ 8号車
序盤はアウディの間に割って入ったトヨタ8号車、7号車

 

夜のミュルサンヌカーブを抜けるトヨタ7号車
トヨタの8号車もノートラブルで走り切った

レース終盤に小さなドラマが起きる。小雨が降り出し、ウエットになった路面で3番手に付けていたトヨタの7号車がコースアウト。フロントボディを小破し、ピットで交換を強いられたのだ。この結果、アウディ3号車が3番手に上がり、アウディ、トヨタ、アウディという順番になった。

ウエット路面でコースアウトしフロントカウルが脱落したトヨタ7号車

トップのアウディ2号車は、最終的には2番手のトヨタに1周差を付け、ゴールを迎えた。優勝したアウディ2号車、2位に入ったトヨタ8号車はいずれもノートラブルであった。アウディは12回目のルマン優勝を飾り、また勝利を得た2号車のロイック・デュバル、トム・クリステンセン、アラン・マクニッシュ組は、予選でポールポジションを記録したデュバルが今回がル・マン初優勝、マクニッシュは3回目の優勝、そしてクリステンセンは2005年の初優勝から今回で9回目の優勝となり、ル・マン最多優勝記録をさらに伸ばすことになった。

LMP2クラスはOAKレーシングのモーガン日産が1-2位となり、注目のルノーワークス、シグナテック・アルピーヌは様々なトラブルに見舞われ、クラス9位に終わった。LM-GTEPクラスはポルシェ・ワークスチームの911 RSRが1-2を独占した。WEC1、2戦ではマシン・セッティングが決まらず苦戦していたが、ここル・マンではきっちりと結果を残すことができたのだ。また、GMワークスのコルベットC6-ZR1はクラス4、7位となった。

トラブルが多発し不本意な結果に終わったLMP2 ルノー・アルピーヌ・シグナテック
LM GTEPクラスで1-2を飾ったワークス・ポルシェ911RSR
レーダー装備のコルベット・レーシングはクラス4位、7位。

 

なおこのコルベットにはルマンの歴史上初となるボッシュとアメリカのプラット&ミラー社が共同開発したレーダー式後方車両警報システムを搭載していた。このシステムはボッシュ製の第3世代のレーダーをマシンのリヤに装備し、30度の角度で250m後方をスキャン。接近して追い抜くLMP1、LMP2クラスの高速マシンを捕捉し、ドライバーに警報するシステムだ。これは雨天や夜間の運転時には大きなアドバンテージになっているという。

コルベットに採用された後方監視用レーダー
https://autoprove.net/wp-admin/post.php?post=35689&action=edit&message=10#
多数のマシンに採用された燃料噴射システムとディスプレイ

 

また、ボッシュはアウディR18のディーゼル燃料噴射システム、ハブリッド・システムも供給している。さらにLM-GTEクラスのフェラーリ459イタリヤには高圧ガソリン直噴システムも採用されている。またボッシュ製の車両情報ディスプレイやエンジンコントロールユニットもポルシェ911 RSRをはじめ、多くのル・マン参戦車両に採用されている。

なお今回のレースでは亡くなったシモンセン選手の死を悼み、表彰式でのシャンパンファイトは行われなかった。

24時間レースのチェッカードフラッグを受けるアウデ2号車

アウディチーム代表 ウルフガング・ウルリッヒ博士:「これまで15年に渡り参加してきたルマンの中で今年が最も過酷なレースでした。その理由のひとつがレース開始直後にアラン・シモンセンの悲劇に直面したことであることは言うまでもありません。我々は彼の家族と同様の悲しみに打ちひしがれました。同時に、レース展開も厳しいものでした。24時間を通じて目まぐるしく変わる天候により、刻々と変化する状況に対応し続ける必要がありました。これによって、ピット周辺のスタッフ全員が、わずかな休憩も取れずに動き続けていました。2度と経験したくない過酷な状況でした。そんな厳しい状況にも関わらず、チームクルーはすべて、完璧で素晴らしい働きをしてくれました。私は、彼らと共にルマンを戦えたことを誇りに思っています」

レースを見守るフェルディナント・ピエヒ氏

トヨタレーシング代表 木下美明氏:「今日は本当にチームを誇らしく思う。我々はチームとしての真価を発揮しこの結果を勝ち取った。我々は非常に困難な状況においても、目標を見失うことなく、決して諦めなかった。2台共に完走を果たし、表彰台を獲得出来たというのは非常に満足のいく結果だ。#7がダメージを受けたあと、全員が見せた意志の強さとチームワークを決して忘れないだろう。チームスピリットを見せてくれたことに非常に感激している。全力を尽くしてくれたチームとドライバーに感謝の言葉を述べたい。今日の結果は喜んでいるが、私の夢はルマンでの勝利であり、来年はさらに強くなって戻って来たい」

FIA WEC公式サイト

ページのトップに戻る