今年のル・マン24時間レースも再びアウディとプジョーの2メーカーによる激突となった。戦うマシンはともにディーゼルパワーでの戦いであった。
ルマン2011クリップ映像「プジョー908」
ルマン2011クリップ映像「アウディR18 TDI」
プジョー908オンボード映像
マシン
新しいレース規則の変更に合わせて、アウディはR18 TDI、プジョーは908と新型マシンを導入してきた。それは2メーカーともにクローズドコクピットとなり、より伝統的なル・マンカーらしくなったともいえる。また新規則に従いエンジンカバー上には転倒安全対策のシャークフィンを備えるのが目新しい変更点だ。
クローズドコクピットにすると、車両規則によりコクピット内の温度調節のためのエアコンが必要になるが、その一方でエンジン出力を制限するエア・リストリクターの径を大径にできるメリットがあるためクローズドコクピットが採用されたのだ。
エンジンもダウンサイジングされ、アウディは従来のV10型エンジンからV6型3.7Lとなった。Vバンクセンター排気とし、可変容量タイプのシングルターボ(ギャレットTR30R)を採用している。つまり短い排気マニホールドで排気エネルギーをより効率よく引き出している。出力は540psで、当然ながらV10エンジン時代より大幅にダウンしている。
その一方で、ウルトラ・ライトウェイト・テクノロジーを開発コンセプトにし、アウディ式のRTM工法によるワンピース、つまり一体成形のカーボンモノコックを採用した。さらに補機類、LEDヘッドライト、カーボン製ギヤボックスケースなどを含めて徹底的に軽量化を追及した。もちろん最低車両重量(900kg)の規則があるため、軽量化した分はバラストウエイトを積み、より低重心にしているわけだ。
プジョーの新型マシン、908は規則に従い従来のV12型ディーゼルからV8型3.7Lのツインターボ・ディーゼルに変更した。出力は550ps。トランスミッションはリカルド製6速シーケンシャルだ。こちらもル・マン24時間を迎える前に十分なテストを行ってきている。
アウディとプジョーは、エンジン気筒数は異なるものの出力、燃費ともほぼ同等に仕上げており、そしてエントリーはアウディ、プジョーともに3台ずつであった。
レース
ル・マン24時間レースの予選では、アウディが1位、2位、5位、プジョーが3位、4位、6位となった。しかし、全長13.63kmのコースでトップから6位までのタイム差はわずか0.6秒だ。つまり実力的にはまったく差がなく、実力は伯仲していることがわかる。
6月11日に火蓋を切った決勝でも当然ながらアウディ3台とプジョー3台の緊迫した戦いとなったが、予想外のクラッシュ事故が発生した。スタート後、わずか1時間でアウディの3号車が接触事故を起こして大クラッシュ。また夜11時近くに、1号車が同じように他車との接触によりガードレールに激突して大破した。このため、夜明けを迎える前にアウディは2号車ただ1台のみとなってしまった。
この事故は24時間耐久レースとはいうものの、マシンを攻め続け、遅いクルマをパスするときもためらうことが許されない状況が読み取れ、クラッシュが誘発されたといえるだろう。アウディ陣営は、このため一挙に先行き不安になった。
こうして、3台が健在なプジョーが俄然有利となった。燃費はともに12周/65L(燃料タンク)で、ピット回数に差はない。燃費は2.7km/Lほどだ。また夜間は路面温度が低いため、プジョーは4スティント=48周の間タイヤは無交換で走り続けることができた。ミシュランのル・マン用タイヤは驚くほど耐久性が高められていたということになる。
アウディはソフトタイヤで12周するとかなり苦しくなるので、早めにタイヤ交換をする作戦をとっていたが、その一方で、決勝レースの平均ラップタイムはややアウディが勝っていた。夜が明けてから1台だけ生き残った2号車のアウディがトップを走り、プジョーが同ラップで追走するというパターンが続いたが、ピットインのタイミングでプジョーが一時的にトップを走る場面もあった。
こうした中でプジョーは、8号車がピットストップ時の作業規則違反から1分間のピットストップ・ペナルティを受けてしまった。また、7号車は午前9時半過ぎに、ブレーキミスからコースアウトし、フロントを破損。ピットに入って修理を行うトラブルに見舞われていた。
このため、午前10時からゴールまで、実質的にアウディ2号車とプジョー9号車の同一周回数での一騎打ちとなっていた。午前11時頃からはかすかな霧雨が降る。アウディとプジョーの戦いは結局レースの終盤まで続けられた。
午後2時半、2台は相次いで最後のピットに入り、アウディはタイヤを交換し、追走するプジョーは無交換を選択した。当然プジョーは追撃を開始。その差は約7秒。しかしニュータイヤを着けたアウディは逆に差を広げにかかった。このときのペースは、レース中のベストラップの2秒落ちという驚異的なペースであったのだ。
結局、アウディはトップを守りきって優勝を果たすが、最終ラップまで全力で逃げ、プジョーもまた全力で追っているため、最終ラップでもル・マン恒例のチーム編隊パレード走行は行われないという異例の幕切れとなった。そして、ゴール。アウディとプジョーの差は24時間を走りきってわずか13秒854だった。
アウディはレース中には大きな危機を迎えながら、10度目の優勝を手にした。優勝したアウディ2号車は、まったくのノートラブルだったのも驚異である。また270km/hでガードレールに大クラッシュした2台のアウディは、いずれもモノコックは健在で、ドライバーも無傷であったことはワンピース・モノコックは、軽量というだけでなく、きわめて高い強度を備えていることを示していた。
文:編集部 松本晴比古