【スーパーGT2025】第5戦鈴鹿300km 「9割悔しい、1割良かった」SUBARU BRZ GT300 インサイドレポート

2025年シーズンの#61SUBARU BRZ GT300は釈然としないレースが続いていた。開幕戦岡山では最終ラップの最終コーナーで後続車からプッシュされ、スピンを喫しポジションを落とした。 第2戦富士スピードウェイでは圧倒的な速さを見せ、新車の威力を発揮していたレースだったが、最終ラップの2/3を完璧な形でトップを走行しながら、マシントラブルでチェッカーを受けられなかった。

そして第3戦のマレーシアでは驚くほどグリップしない、という状況に見舞われ、トップ争いに加わることができず不完全燃焼の8位フィニッシュだった。第4戦は富士スピードウェイで初の試みだったスプリントレースというフォーマットに変わっての大会。そこでもレース2で井口卓人がドライブ中にマシントラブルでリタイヤという結果になっていた。

ニュータイヤの投入

そしてシーズンの折り返しとなる第5戦鈴鹿300kmに向けて小澤正弘総監督は「ハードパーツのエイジングも含めて、全てを見直し、しっかり管理して取り組んでいます。鈴鹿に向けてはトラブったパーツだけでなく、周辺の部品も新品と交換しトラブルを出さない対策をしました」と語っていた。

また真夏の鈴鹿のレースに対しては「5月の鈴鹿テストでは、正直あまり良い結果がなかったんですね。そのあたりをダンロップさんとも相談していて、今回は鈴鹿用に対策したタイヤを投入してもらえることになりました。全くテストはできていないのでどんな結果になるのか未知な領域ですが、今できることのベストを尽くすことで上昇気流を作りたいです」

クーラーを装備

ヘルメットの左サイドにエアコンの取り入れ口をつくりヘルメット自体を冷却

土曜日の午前10時20分から公式練習が始まった。予想どおり鈴鹿は37度を超える外気温で路面温度も優に50度を超えている。じつは翌日の決勝レースのときは65度まで路面温度は上がっていたのだ。

猛暑、酷暑対策としてBRZ GT300にはクーラーが初搭載された。30cm×15cmの小さな長方体ボックス内に送風モーターやコンデンサーなどが詰め込まれたもので、涼風が出せるという。その風はシートとドライバーのヘルメットにホースで直接接続されている。とはいえ、乗用車のように快適になるわけではないが。

レースカーの車内が暑いのは容易に想像つくが、山内英輝も井口もそうしたことは言わない。それが前回の富士のレースの時、珍しく山内から「異常に暑い」と伝えられていたのだ。外気が車内に取り込まれるようにはなっているものの、外気は一切感じないという。体温よりも高い外気温の風では、無理もないことだ。

見つかった正解

シャフトにC型パッカーを挟み作動領域を制限。バンプラバーも数種類用意しセットしていく

走行はいつものように山内がマシンのバランスチェックを行ない、セットアップを始めていく。途中、井口と交代しマシン確認を行ない、再び山内に戻ってセットアップを煮詰める手順で進めていく。

走り出してすぐにトップタイムは#60 Syntium LMcorsa LC500 GT が1分59秒台のタイムを計測し、2番手の#65 LEON AMG GT3も2分00秒台を出している。BRZ GT300も2分00秒台なのだが、実際のセットアップは進んでいない状況だった。

山内は「リヤのグリップが高すぎてアンダーが強い。セクター1ではフロントに負荷かがかかりすぎている」と。

この症状に対し井上トラックエンジニアはダンパーのC型パッカーで作動領域を変更し、バンプラバーで調整する。スプリングレートも変更しマッチングを探す。さらにダウンフォースの調整でエアロパーツも検討し、キャスターも含めたジオメトリーも計算されていく。

リヤディフーザーもじつは鈴鹿に入る前に変更している。穴を開けて風の抜ける方向を調整した様子

途中、井口に交代しても似たようなコメントが返ってくる。「リヤがどっしりしていて、フロントに依存して、返ってこない」要はフロントの手応えが薄いのに、フロントで旋回しているという。

タイムも2分00秒から01秒止まりで、順位は19位近辺。ふたたび山内に変わりセットアップを行なっていくものの、回答が見つからない。少し長めのピットインに変わる。ピットでは小澤総監督、澤田監督、井上エンジニアと山内、井口が会話をしていく。

そして澤田監督から宍戸チーフメカニックに指示が出される。宍戸メカはリヤセクションで作業を始めた。

十数分後山内がコックピットに収まりコースイン。するとセクター1でベストタイムを計測した。タイヤがユーズドであることを考えると、ここで行なった変更が正解を得たのかもしれない。

ピットに戻り井口に変わる。すると「フィーリングが良くなった」と無線で伝えてくる。直後にセクター2で山内のタイムを超える速さがあった。ピットに戻りニュータイヤを装着。するといきなり1分58秒980をマークし、19番手から全体トップへとジャンプアップしたのだ。

最終的には2番手とはなったものの、そのタイムを見た澤田監督からは「タイヤを大事にしてもどってきて」と余裕あるコメントが伝えられた。

ドライバーもそして澤田監督も手応えを掴み、今回のセットアップの正解を見つけた安堵感と自信が湧いてきた瞬間だ。

2つのよろこび

午後から始まったQ1予選は井口が走る。気温34度、路面温度54度と午前中の公式練習の時と大きな差はない。井口はピットアウトを遅らせ、クリアラップを作る。ゆっくりと2ラップの周回をして、渾身のアタックに入った。

するとセクター1、2、3、4のすべてで自己ベストを更新し1分57秒787でトップにたった。公式練習のときよりさらに1.2秒もタイムを縮めているのだ。予選時間はまだ残っていたが、井上エンジニアからは、「このタイムなら問題ありません」と。Q1は問題なく通過できると理解し、井口は早々にピットへ戻った。結果、トップのままQ1を終了した。Q1のA、B組総合でも井口がトップタイムだった。

Q2では山内が最多ポールポジション獲得回数更新の記録を掛けてアタックをする。井口と同様、ピットアウトを遅らせクリアラップを作る。ただQ2は18台が走行するため、先行車と後続車との距離感が難しい。

しかしチームからは無線で周囲の状況を伝え、アタックしやすい環境が作られていく。2周ウォームアップに使い、3周目アタックに入った。

山内はセクターごとに全体ベストを叩き出している。Q1よりはラバーグリップが上がっている分タイムは上がる。山内は目に見えない時間というライバルと戦っている。

場内実況のピエール北川が絶叫している。山内のタイムが驚異的だと、山内の名前が連呼される。そして1分56秒869を叩き出し、ポールポジションを絶対的なものにすることができた。参加28台中、唯一の1分56秒台のタイムだった。これで現役最多ポール獲得回数を15回とした。ちなみに佐々木孝太はSUBARUで13回のポールを獲得していた。

ガレージに戻り、全員が飛び上がって喜び、健闘を称え合った。ドライバーはダンロップの小川エンジニアと抱き合い喜び、感謝をしていた。投入したタイヤが結果を出したからだ。小川エンジニアは「チームのセットアップに助けられました」という。

澤田監督も「今ならなんとでも言える。『想定内だよ』」と周囲を笑わせ、珍しく、はしゃぐ澤田監督の姿を見ることができた。

山内の最多ポール獲得回数の更新、Q1、Q2をトップ通過、唯一の56秒台という、どのチームも真似できない結果を出した。そして、澤田監督や小澤総監督、井上エンジニア、宍戸メカたちは、その結果はもとより、セットアップの最適解を導き出せたことへの安堵と喜びが大きいようにも見えた。

幸運ってある

スタート前グリッド。中村知美会長も応援に駆けつけ「やっぱりスバルはNO1」

決勝レースも酷暑だった。路面温度は65度という信じられないほど熱せられていた。スタートは井口だ。この暑い気温と高い路面温度で、予選で使ったタイヤは大丈夫なのだろうか?そうした不安はすべてのチームが持っていたに違いない。

ローリングスタートが切られ、井口は1コーナーをトップで入っていく。GT300のマシンたちは綺麗なトレイン状態を作り周回に入った。1周目戻ってくると1.392秒のリードを作っていた。逃げ切り作戦ができるか?とよぎる。

1ラップ目2位にギャップを作るものの、このあとテールtoノーズに変わる

2ラップ目、1.225秒のリードに変わった。3ラップ目0.991秒になる。どうやら、ヨコハマタイヤを履く#7カーガイのフェラーリ296GT3を振り切ることはできなさそうだ。

10周を終え井口のリードは0.354とほぼテールto ノーズに近い距離でプッシュされている。#7フェラーリ296GT3とBRZ GT300の2台だけが2分00秒台で、あとは01秒台での走行だ。

17周目井口から「左前のタイヤのグリップが急に落ちた」と無線が飛ぶ。ヘアピンを立ち上がるタイミングだ。#7フェラーリ296GT3が近づく。しかし抜かせない。バックストレートを駆け抜け130Rを立ち上がる。

#7フェラーリ296GT3がピットインした。BRZ GT300は、ピットから「あと2周いこう」と檄が飛ぶ。ラップタイムは01秒8。その翌周01秒99。井口から「これがいっぱいいっぱい」とタイムを伸ばせない無線が飛ぶ。

井口はトップでピットに戻り山内と交代した。山内がピットアウトすると先にピットを済ませていたトップの#60Syntium LMcorsa LC500 GTがストレートを通過していく。つづいて#7のフェラーリ296GT3、さらに#5のマッハ号にも抜かれて1コーナーに入って行った。

直後にタイヤに熱の入らない山内は#6ユニロボ・フェラーリ296GT3にも抜かれて5位に落ちるが、その後#6のフェラーリ296GT3は抜き返して4位のポジションで周回することになる。

ただトップは遥か先へと行ってしまった。目指すは目の前の#5マッハ車検エアバスターMC86マッハ号だ。1.5秒先。十分狙える距離だったが、追いつけない。そうだBRZ GT300は今季最も車重が重い1311kgで参戦していたのだ。

トップは#60Syntium LMcorsa LC500 GTと#7カーガイ フェラーリ296GT3が競い、およそ8.5秒先だ。3位表彰台を獲得するには#5マッハ車検エアバスターMC86マッハ号を仕留めるしかない。しかし届かない。

終盤45周目にFCYとなった。その瞬間全車が80km/h制限に入るのだが、そのタイミングが#5マッハ車検エアバスターMC86マッハ号はわずかに早く、そのため山内との距離が一気に近づいた。そしてFCY解除になった瞬間、全開加速をするが、#5は加速しない。山内はあっさりと#5マッハ号を交わして3位に上がった。

#5マッハ号はスイッチ系のトラブルなのか、BRZ GT300には幸運の女神が微笑んでくれたのかもしれない。これまで苦渋を飲まされたかわりなのか、いずれにしても山内のターゲットはトップ争いに戻ることだった。

最終ラップトップとは17秒まで開き、3位チェッカーとなった。レース後山内は「9割悔しい、1割良かったです」と笑った。

ポールを取ったからといって優勝できるほど簡単なレースではないことが、よくわかるレースだった。レース後、再車検で2位のチームが失格となったため、#61SUBARU BRZ GT300は2位に。結果的には決勝のペースがBRZ GT300より速かった#7フェラーリ296GT3には追いつけないという事実だけはわかるレースだった。

今季初の表彰台。左)井口卓人、右)山内英輝

次戦は得意のSUGOだ。セットアップの最適解を導き出したBRZ GT300は間違いなく旋風を起こし、そして、チャンピオンシップに名乗りを上げてくれることを期待したい。

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