【自動車技術会】学生によるフォーミュラマシンの製作・性能の国際競技会、第10回 全日本学生フォーミュラ大会開催

雑誌に載らない話vol52
自動車技術会は2012年9月3日〜7日に静岡県・小笠総合運動公園で開催される「第10回 全日本学生フォーミュラ大会」の開催概要を8月6日に発表した。

今回は日本と、タイ、インド、インドネシア、中国、エジプトという海外の大学からのエントリーもあり、合計82チームがエントリーし、書類審査をパスした76チームが本大会に出場することになった。また、今回はEVフォーミュラのプレ大会でもあり、4チームがEVでエントリーしている。

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2012年8月上旬に開催されたドイツ学生フォーミュラ大会には世界各地から110台が集結。エンジン車部門、EV部門で設計・性能が競われた

 

学生フォーミュラSAEとは

フォーミュラSAE(自動車技術会)とは、1981年にアメリカSAEの主催で、学生に仮想企業を運営させ、実践的な知識を身に付けさせることを目的に開始されたもので、現在は車両、レースの規則もフォーミュラSAEを各国で採用している。その基準に基づき、学生が自分達の力でフォーミュラカーの企画、製作、開発を行い、その企画・構想力や開発能力、原価管理、そして走る性能を競い、モノ作りを経験することを通じて、次世代の自動車産業の人材を育てることを目的にしている。

出場するためには優に1年以上の活動期間を要し、日本では多くの大学がこの企画に参加しているが、主催する公益社団法人自動車技術会のPR不足もあって社会的な認知度は高くない。

学生フォーミュラカーの規則は、610cc以下の4サイクル・エンジンを使用、ホイールベースは1525mm以上、前部衝撃吸収構造の採用、ドライブバイワイヤー、ブレーキバイワイヤーなどは禁止されているが、設計上は大きな自由度があり、高度な技術レベルが求められ、それに伴って製作コストも決して安くはない。

もちろん規則では「年産1000台」の販売を前提にした量産コスト・シミュレーションも行い、およそ300万円/台の価格が設定されるが、現実には1台のみの製作で、実質のコストはその数倍に跳ね上がる。またエンジンも、バイク用の高回転エンジンであるため、販売となれば、低中速トルク型への特性変更と燃費を改善するための大幅な手直しも必要になる。

このように考えると自動車メーカーやサプライヤーの様々なサポート、スポンサーの存在が欠かせないことになる。今後の更なる発展を目指すには、運営組織のチャレンジングな企画力と自動車関連企業のサポート体制に強化・充実が求められるのだ。

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概要を発表する全日本学生フォーミュラ会議・窪塚副議長

日本では公益社団法人自動車技術会が主催して、2003年に発足し2012年で第10回目を迎える。アメリカ、日本以外にドイツ、イギリスを始めヨーロッパ各国、オーストラリア、東南アジア諸国などでも同一の規則で行われている。

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2011年に行われた第9回全日本学生フォーミュラ大会の集合写真

現在ではその中でもドイツ学生フォーミュラ(SFG)がインターナショナル・イベントとして最大の規模を誇り、参加チームが世界各国から集結し、最もハイレベルに成長しており、アメリカや全日本学生フォーミュラ大会はそれに次ぐ規模になっている。ドイツは2005年に学生フォーミュラ大会をスタートさせ、歴史は長くないものの、大きな成功を収めているのには大きな理由がある。

つまり、ドイツの学生フォーミュラ大会がハイレベル化しているのは、自動車技術のリーダーとなっているドイツ系自動車メーカーや自動車メーカー以上の技術を蓄積しているサプライヤーが全面的にサポートしていることが大きな理由だ。

ドイツ学生フォーミュラ ロゴ 画像2012年SFG表彰式 画像

ドイツ ティア1の支援と実情

公表されている情報では、ボッシュは2012年7月に大会前の事前テストの場として、同社のテストコースに、21台、200人以上の学生を集め、トータルでサポートしている。こうした事前イベントでは、ボッシュのエンジニアからのアドバイスも得られる。ワイヤハーネスの設計や高電圧作業時の安全性について専門家によるワークショップの催しや、車両テストのイベントを開催しり、チームに対してモータースポーツ用コンポーネント、そして資金面での支援も行っている。

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ボッシュ社が主催した事前のテスト・イベント ボッシュのエンジニアのアドバイスが受けられる

このプロジェクトを担当するボッシュ・エンジニアリング社の社長は、「学生フォーミュラ大会は、学生と私たち企業双方にとってメリットのある大会です。このエキサイティングな学際的プロジェクトで、ボッシュは意欲と能力にあふれる若き才能を支援しながら、同時にボッシュが魅力的で革新的な会社であることを学生たちにアピールできるからです」と語っている。

そのボッシュ社は、2007年から学生フォーミュラ大会に参加する選抜チームをサポートし、2012年はドイツ、イギリス、フランス、オーストリア、オーストラリアの計35以上の大学チームを支援しているという。

ZF主催レースキャンプ 画像ZF主催レースキャンプ 画像

おなじくドイツのティア1企業であるZF社も、6月に学生フォーミュラ競技会のシーズン開幕を迎え、ドイツ・フリードリヒスハーフェンの特設コースで同社主催の最終テスト「ZFキャンプ」を実施している。過去最高の17チーム、学生400人、22台のレーシングカーが参加して行われた。参加チームはドイツ大会出場組とイギリス大会出場組の両方が参加し、ZF社のエンジニア35名、60名の実行委員が学生をサポートし鍛え上げる。

ZFのプロが持つ専門知識が学生たちにとってどれだけ多くのプラスになっているかは、現在の世界ランキングが証明している。世界中で500以上のチームが参戦する学生フォーミュラ大会で、ZF社が支援している6チームがトップ10にランクされているのだ。

ZFもこうしたサポートは、同社も大きなメリットを得ているという。

「ZF社がテクノロジーリーダーとしての評価を確立することだけではありません。人口構成の変化に伴い、優秀な人材をできるだけ早期に見つけ出し、確保することがますます重要になってきています」と人事担当取締役は語る。また技術部門の役員は「レース・キャンプはその目的にまさにうってつけの場となっています。

キャンプで学生たちは単に技術的知識だけでなく、プロジェクト管理や流通、マーケティングなどに関する能力も持ち合わせていることを立証することになります。我々はそうした資質を備えた合わせた技術者を求めているのです」という。

10年以上にわたり、学生チームに財政的支援やZFレースエンジニアリング社製の最先端のレース製品の提供、プロジェクト管理、ワークショップの開催など、さまざまな活動を行ってきている。現在、ZF社のサポートするチームは24チームで、今シーズンからアメリカのミシガン大学チーム、ジョージア工科大学チーム、中国から初めて上海の同済大学チームをサポートしている。また日本では、大会運営支援のほか、横浜国立大学と東京大学チームをサポートしている。

コンチネンタル サポート 画像

さらに、コンチネンタル・グループも自動車部品部門が各チームにサポートを行い、さらに同社のタイヤ部門はサービス用のトラックを会場に常駐させるなどの体制を取っている。

このように、ドイツの企業は、昔から大学の優秀な人材を在学時からリクルートし、能力開発を支援するという伝統があることも大きな基盤になっているのだ。

ドイツ学生フォーミュラ 表彰式1 画像ドイツ学生フォーミュラ大会 表彰式2 画像

ドイツ大会は2012年7月31日〜8月5日にわたり、ホッケンハイム・サーキットで開催された。インターナショナル大会にふさわしく20カ国から110チームが参加。エンジン車チームが78チーム、EV車チームが32台という内訳だ。エンジン車チームは、1位:シュツットガルト大学、2位:ミュンヘン工科大学、3位:イエテボリ・チャマーズ大学。EV部門は1位:デルフト工科大学、2位:チューリッヒ工科大学、3位:シュツットガルト大学という順位となった。

2012年大会 出場チーム一覧

日本の今年の大会はこれまで通り静岡県・小笠山総合運動公園(通称:エコパ)で9月3日〜7日の日程で開催される。競技の内容は、車検として技術検査、傾斜試験、騒音レベル測定、ブレーキ性能試験が行われる。次のステップが静的審査で、コスト、設計、製造販売のためのプレゼンテーション技術の各項目が評価される。

上智大学 SR11 画像静岡大学 浜風 画像静岡理工科大学 画像

最終ステップが動的審査で、加速、8字旋回、オートクロス(複合コースでのハンドリング性能)評価、エンデュランス(22kmを走行し耐久性、燃費)で評価する。これらの評価ポイントの合計により順位が決定する仕組みになっている。

全日本学生フォーミュラ大会公式サイト

自動車技術会公式サイト

学生フォーミュラSAE公式サイト

ドイツ学生フォーミュラ大会公式サイト

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