中国政府の財政部、科学技術部などの官庁は2015年4月に「2016~2020年における新エネルギー自動車の普及促進のための財政支援策」を発表した。この政策は2014年に国務院が発表した「新エネルギー自動車の普及加速に関する国務院の指導意見」をベースにしており、いわゆる「新エネルギー車政策」を一段と加速させる施策なのだ。
■新エネルギー自動車とは
中国政府は、新エネルギー車の普及を促すために2010年から財政支援策を実施してきたが、この新たな財政支援策により、電気自動車、プラグインハイブリッド、燃料電池車など政策の基準に適合したクルマを購入した人に金銭的な助成が行なわれる。
中国政府が主導する新エネルギー自動車の導入促進政策とは、化石燃料の消費量の抑制、排ガスによる大気汚染を押さえ込むものだ。2015年の中国の乗用車販売台数は2460万台で、もちろん世界No1の巨大市場だ。対前年比で販売は4.7%増、生産は3.3%増となっている。2460万台の内訳は、中国地元メーカーが41.3%、現地生産ドイツ系メーカーが18.9%、現地生産日系メーカーが15.9%、アメリカ系が12.3%、韓国系が7.9%、フランス系が3.5%となっている。
日本の乗用車の年間販売台数は300万台プラス、軽自動車と合計して500万台の規模だから、中国市場は日本の5倍もの市場規模なのだ。
中国の自動車市場は2016年に入っても10%程度の成長を遂げており、販売台数はさらに拡大を続けている。このような巨大市場にあっては、化石燃料の消費量も比例して増大し、都市部における排ガス問題もさらに深刻化することが懸念される。中国政府はこの問題を先取りして、新エネルギー自動車を重視する政策を積極的に推進しているわけだ。
中国の自動車メーカーは、助成金に相当する金額を差し引いて販売し、販売実績に応じて政府からメーカーに助成金が支払われる。助成金額は企業規模、排出ガス量と省エネ効果、技術革新の度合いに応じた基準により決まる。2016年は、航続距離100km以上の電気自動車に対し、38万円~85万円。ただし、2017年以降の助成金は段階的に引き下げられることになっている。
ただ、中国政府のいう新エネルギー車は、中国国内の生産であり、中国国内で製造されたバッテリーを搭載しなければならない、というルールもあるので、まずはこの施策に対し中国の自動車メーカーが反応し、元から電気自動車だけの大手メーカーBYDはもちろん、各メーカーが続々とEVを発売している。
■もう一つの電動車
ところが、中国にはこうした電気自動車以外に、もっと大きな電動車の市場があるのだ。それは電動自転車、電動バイクからスタートした電動3輪自動車/トラック、1名~4名乗りの小型電動乗用車の存在だ。
これらはなんと無免許で、最近までナンバー登録もなしで自由に乗ることができ、都市部では老人用やデリバリー業務で、農村地帯では貴重な輸送手段、乗り物として幅広く普及しているのだ。
こうした超小型車は日本では超小型モビリティ、ヨーロッパではマイクロカーというカテゴリーとなっているが、中国ではこれら3輪車や小型車は「低速電動車」と呼ばれている。
もちろんこれらは地方都市の小規模メーカーが製造しており、いわゆる乗用車とはまったく別の供給構造を形成している。こうした地方メーカーが集中している山東省だけで、メーカーは1200社以上あるという。
生産・販売台数も、工業会に加入しているメーカーの台数しかわからないのが現在の実情だ。なにしろ、モーター、コントローラー、バッテリーなどの電動ユニットだけでなく、アクスルやブレーキなど主要自動車部品、つまりボディ以外はすべて汎用品で対応できるため、エンジン搭載の自動車よりはるかに簡単に、小規模でもいつでも起業できる。そのため、現在中国にある電動車メーカーの全社を正確にカバーするのは困難なのだ。
電動2輪車は年間生産3000万台、電動3輪車は1000万台にも達しており、4輪電動車も3輪車に迫る勢いと推測できる。山東省だけで年間50万台オーバーの生産量だといわれているのだ。
ちなみに小規模の企業でも簡単に起業ができる理由は、全国どこでも安価にバッテリー(鉛電池)が購入でき、モーターも同様で、全国のどこでも簡単に入手できるような基盤もできあがっているからなのだ。ちなみに、電動車に不可欠のバッテリー(鉛電池)の中国トップメーカーの年間売上高は1兆5000億円規模だという。なお今後は鉛バッテリーからリチウムイオン・バッテリーへの移行が徐々に行なわれるはずだ。
またこうした低速電動車の価格は30万円~70万円程度で、所得の低い地方の小都市や農村部でも免許を取得することなく購入でき、乗用車を購入できない庶民の足になっている。
しかし、こうした低速電動車の普及のスピードが速いことと、中央政府の新エネルギー自動車政策の存在もあって、全国的に低速電動車のレギュレーションを策定する方向が示されつつある。
ちなみ低速電動車という意味は、最高速度50~70km/hで、高速道は走行できないといった意味だ。新たなレギュレーションはヨーロッパの「L6e」カテゴリーのマイクロカー規定を流用しているようで、全長4.0m以下、速度は70Km/h以下、一充電航続距離は80km以上、加速は0-100mが15秒以下、30km/hの正面&オフセット衝突安全をクリアできること、シートベルトが必要という条件が課せられている。また、専用の運転免許も必要とされる。
このようなレギュレーションの導入により、家内工業的なメーカーには厳しい環境となるが、大手企業にとっては歓迎すべき政策的な助成も行なわれるのだ。
山東省政府はこうした電動車の産業の発展を促進する政策を発表しており、5年以内に35万ヵ所の充電スポット、約1000ヵ所の充電ステーションを設置するという。充電施設を多くすることで電動車の利便性を高め、電気自動車産業の発展を促進するというのだ。こうした充電施設の充実は、中央政府の「2020年までにEV500万台の需要を満たす充電環境を整える」という政策とも合致する。
中央政府は、全国を地域別に区分し「加速発展エリア」は、EV市場を育成・発展させるための良好な基礎が整っている一方で、「スモッグ汚染が深刻な都市」と定義されるのは、北京、天津、河北、遼寧、山東、上海、江蘇、浙江、安徽、福建、広東、海南を指定している。このエリア内では、2020年までに充電・電池交換スタンド7400カ所、分散型充電器250万本を設置。EV266万台分の需要を満たすとしている。
「模範推進エリア」は、山西、内モンゴル、吉林、黒竜江、江西、河南、湖北、湖南、重慶、四川、貴州、雲南、陝西、甘粛を指定。2020年までに集中式充電スタンドを4300ヵ所以上、分散式充電器220万本を整備し、230万台分の需要を満たす目標を定めている。
また、「積極推進区」は、広西チワン族、チベット、青海、寧夏回族、新疆ウイグルなど過疎地域が対象で、集中型充電スタンドを400ヵ所以上、分散型充電器を10万本超設置し、11万台分の需要を満たす充電環境を整えるとしている。
このように全国的に壮大な充電網構想は、いわゆる電気自動車だけでなく、低速電動車にとっても大きなメリットになることはいうまでもない。つまり超小型電動車の販売台数は今後爆発的に増大すると予想できる。
言い換えれば、中国は世界一位の電気自動車大国になろうとしているのだ。これは世界の他の国のクルマの電動化トレンドよりはるかに大規模で、急速に自動車の電動化を進めることを意味しており、大いに注目すべきだろう。
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