【World Hydrogen EXPO2025】水素社会を具体的に感じられたヒョンデの取り組み[新型NEXOを韓国で試乗]

韓国・ソウルで2025年12月4日〜7日に「World Hydrogen EXPO 2025」が開催され、世界26カ国が参加し水素社会に向けての取り組みを各社が展示した。そしてジャパンモビリティショーでジャパンプレミアを行なった、ヒョンデの水素自動車NEXO(ネッソ)にも試乗してきたのでお伝えしていこう。

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このエキスポには、多くの国から多くの企業が参加してのショーケースだったが、ひときわスケールが大きくオーバーオールに水素社会を捉えて展示をしていたのが地元ヒョンデだ。

残念ながら日本からの出展はなかったが、そのヒョンデの水素事業は30年も前から取り組んでいる事業だと説明があり、バリューチェーンにするすべの事業を手がけているという。それにより、世界初の乗用水素自動車を発売することができ、さらに水素の生産、保存、移動、活用、研究、そして販売までを手がけ、グローバルで連携を組む形が取れている。

具体的には、燃料電池を使った水素事業の展開で、自動車だけでなく、さまざまな産業へ供給することで水素社会を目指している姿がある。さらに水素の生産や運搬、保存といった事業の取り組みも行ない、実際運用されているものから、予定されている事業までたくさんの展示物があった。

まずは乗用車関連では水素をAIを使って自動充填する仕組みの紹介だ。韓国も日本と同様、セルフ充填ができず、レクチャーを受ける必要があり、そうした手間を不要とするのが自動充填ロボットだ。AIが充填口を検知し、蓋を開け、そして充填後は蓋を閉めるという動作を行なうロボットで、これはEVの充電にも流用する予定だという。まだ研究段階ということで具体的な実用時期は未定だ。ちなみに韓国国内に水素充填スタンドは230箇所整備されているという。

次に水素の生産システムの展示だ。これは水の電気分解で水素を作り、光州で実用化しているものだ。この水の電気分解のシステムをプラットフォーム化し、欧州へ展開する予定で、ヒョンデの生産工場がある蔚山(ウルサン)にも導入し、再生エネルギーと共に1GWまでの発電を予定している。

また水素の運搬では、アンモニア・クラッカーの形にして運搬する。この方式でオーストラリアという遠方からの輸送も可能で、運搬されたアンモニアをクラッキングする技術をヒョンデ独自で開発しているという。これは特殊な技術ではなく一般的な技術ということだが、アンモニアを熱分解して水素と窒素に分ける技術だ。生産量としては1日に640kgの水素が生産できるという。これは2026年から実用化予定で、オーストラリア、北米からの輸送を計画しているという。

一方、展示はなかったが60トンの生ゴミと下水から500kgの水素を製造するW2Hという技術の講演があった。これは清州(チョンジュ)で製造する予定で、2029年には2トンの水素を生産する能力に強化するということだ。

移動型ステーションも展示されていた。必要な場所へ移動できる仕組みで、トレーラーにすべてのシステムが搭載されているので、どこへでも移動できるステーションだ。現在350barのものは運用されているが、700barのものも開発し、実用化へ向けて準備しているという。

大規模ではないイベント会場や産業現場など発電機が必要な場所に向けては、タンクの交換式のシステムが1/3サイズで展示されていた。すべてのコア設備をコンテナに搭載し、モジュール化することで、建設費用の削減や設備費の削減にもなる。もちろん短時間での設置が可能で、サイズは大、中、小と揃っているという。

こちらは定置型を基本とする燃料スタックで、2つの燃料スタックで発電する仕組みだ。100kWの発電が可能であり、水素の消費は6kg/1h。100kWはソウル市内の一般家庭250世帯分の電気を発電できるという。こちらは建物内に設置する目的のもので、空港や港湾、データセンターなど大電力が必要とされる場所での活用が目的になっている。これは平澤(ピョンテク)港に設置される予定ということだ。

さて、作られた水素は燃料電池によって発電できるようになり、モータによって駆動することが可能だ。ヒョンデの燃料スタックはBOPという補機類と本体に分離でき、乗用車だけでなく、さまざまな産業機器にも流用されているのだ。

まず、港湾ではAGVと呼ばれる無人のコンテナで1/5サイズで展示されていた。北米とEUで人気で港湾内を無人でコンテナ移動できるものだ。その車台に燃料スタックが使われているというわけで、一方、トラックは実用化されており、すでに2万6000kmの走行実績があるという。

おなじく燃料スタックを搭載したフォークリフトもある。こちらはトヨタでも同様の製品があるように、密閉されたエリアで排出ガスがなく、クリーンな環境で作業できるメリットがある。これはすでにモジュール化されており、水素タンク、燃料スタック、バッテリが1パックになっており、量産が可能になっているわけだ。

同様にKIAとヒョンデで共同開発している軍用の車両もFCEVになっている。モータで走行するため、音がなく移動でき軍用に適しているという。さらに軽量化できるため空輸も可能な軍用車両というとこだ。

他にFCモビリティとしてモーターボートも展示されていた。船外機に相当する部分に電気モータを搭載し、デッキに燃料スタックとタンク、バッテリーを搭載して走る仕組み。

大型トラクターも同様にFCEVになっている。こちらは大型の農園、農地をもつ欧州、北米で展開しているという。

もちろん、観光バスもFCEVがある。すでに2600台のFCEVのバスがグローバルで走行しており、960kmの航続距離をもっているという。ユニバースという名称のバスは高速バスとして運用され、また公共の路線バスもすでに運用しているという。またヒョンデの社員用通勤バスの7%をこのFCEVへ転換していく予定だ。

ユニークなのはトラムだ。路面電車を燃料電池で走らせるもので、車両用と同じ燃料スタックと補機類を分離して搭載。送電用のケーブルが不要になるので、設備や景観にメリットがあるという。これは2027年に蔚山(ウルサン)で運用が始まり、鯨の文化特区でテーマパーク内で走行する予定だ。また2028年には大田(テジョン)での運用が開始される予定で、こちらは一般市民向けのトラムとして開発されている。

もうひとつ特徴的なのが自動車の生産工場で塗装工程で使われるバーナーを転換する取り組みだ。高温の熱を発するこの設備は塗装の乾燥工程で使用され、工場内の電力の43%(蔚山工場)が使われているという。その電力を水素に置き換えていく予定だ。現在5000個のバーナーがあるそうだがそれがすべて水素からの電力で賄うようになるということだ。

北米ルイジアナ州に2026年着工する製鉄工場もあった。ジオラマで表現されているが、製鉄工場ではCO2を大量に発生させているため、そのCO2を70%削減する目的で建築される予定だ。主な燃料は天然ガスと水素としていく方向で、再生エネルギーで運用することを目指している。

というように、ヒョンデでは水素の生産や輸送、保存、そして燃料スタックの活用パターンをたくさん展示し、水素社会にむけての準備が展示されていたわけだ。そしてわれわれがもっとも興味をもつクルマも水素で動くことになる。

NEXO(ネッソ)は2018年に初代が発売されている、そして2025年、7年ぶりにフルモデルチェンジを受け第2世代となり、燃料スタックもGen2.5へと進化している。第3世代としていないのは、システムそのものは変更なく、充填される水素の圧力を上げ発電能力を上げることで対応しているためだ。

NEXOは6.7kgの圧縮水素を搭載することができ、航続距離は720kmと長い。韓国では1000円/1kgの価格で販売されているため、ハイブリッド車と同等の燃料代となる。そのため、静粛性とパワーで人気になっているという。韓国では6月に発売し11月までに6000台の新型NEXOが販売されたという。また初代は3万6000台が販売されているわけで、日本のMIRAIやCR-Vとは比較にならないほど社会に溶け込んでいるのがわかる。

NEXOの人気はSUVスタイルもその理由のひとつだという。車高が高いため、水素タンク3本搭載のスペース効率を犠牲にすることなく、広いラゲッジスペース、後席スペースがあり、使い勝手のよさも人気の理由だという。

もちろん、高い静粛性や高出力になったパワー、そして乗り心地の良さがユーザーの満足度ベスト3だという。

この新型NEXOを韓国国内で試乗してみたが、フツーのEVとしてドライブできる。FCEVは言うまでもなく電気モータで走行するため、そのモータの電力をどこで賄うかの違いであり、水素から発電する燃料スタックを搭載するNEXOは発電所とも言えるわけだ。

したがってV2Lも標準装備しており、特別な機器類なくそのまま220Vが取り出せる。搭載している水素が燃料になので水素がなくなるまで発電は可能になるというわけだ。

日本では水素社会というワードは耳にするものの、具体的な事例はあまり見ない。トヨタが水素を活用したクルマの開発をしていることは理解しているものの、スタックの利活用までは情報がない状況だ。また欧州でも北米でも似たような印象があり、ヒョンデの開発者によれば、さまざまな制約が国ごとにあり、それが共通でないことも普及の壁のひとつだという。したがって標準化の動きが大事になってくると説明していた。今後のヒョンデの水素活用は注目しておきたい事業のひとつだ。

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