EU 2035年以降「e-フュエル」限定でエンジン車容認へ

2023年3月26日、日本のメディアが次々に「EUが2035年以降もエンジン車販売を容認する方針に転換、合成燃料を利用」などの見出しをつけた報道を行った。その結果、やはりできもしない内燃エンジン車の販売禁止を撤回した、EV化は無理・・・といった反響、日本製ハイブリッド車を追放するためのヨーロッパの謀略が崩壊したなどの陰謀論まで登場している。

間違ったメディアの見出しや不正確で誤ったニュース内容については注意しなければならない。しかしその前に、このニュースの背景を確認しておきたい。

【関連記事】2035年にエンジン車の新車販売禁止:https://autoprove.net/not_featured_in_mag/217406/

上記の関連記事のように、2023年2月14日のヨーロッパ議会においてヨーロッパ域内でガソリン車などの内燃エンジンの乗用車、商用バンの新車販売を2035年から禁止する法律を正式に承認している。

そのバックグラウンドはEUとして「2030年までに温室効果ガス排出量を 1990年比で55%以上削減するという目標を達成するための包括的な政策パッケージ『Fit for 55』」が採択されている。つまり、自動車に限らずすべての産業活動でCO2の排出量を大幅に低減させることを目指すことがヨーロッパ全体で合意されているのだ。

そして乗用車、小型商用車に関して内燃エンジン車の禁止案がヨーロッパ議会で採択された。そしてこの採択を前提に4月下旬にヨーロッパ議会・理事会で正式な採決が行なわれ、EU参加各国は自国での法規を決定することになる。

2月14日のヨーロッパ議会での採決の後、ドイツ、オーストリア、東欧諸国、イタリアなどが異議を唱えた。この反対組の代表が自動車生産国のドイツである。ドイツの主張は、e-フュエルを使用する内燃エンジン車は2035年以降も認めるべきだというもので、他の反対国もこれに同調。同じ自動車生産国であるフランスは内燃エンジン車禁止案に賛成している。

フラン・ティメルマンス上級欧州委員(右)

そのため、ヨーロッパ委員会執行副委員長および気候行動担当の上級欧州委員を務めるフラン・ティメルマンス氏が反対する各国政府と意見交換、調整を行なっていたが、3月25日にティメルマンス氏がツイッターで「ドイツ政府との合意ができ、e-フュエルを使用する内燃エンジン車を認める」と発表した。

ドイツのフォルカー・ヴィッシング運輸大臣のコメント
「今後の道は明らかだ。ヨーロッパはテクノロジーニュートラルであり続ける。2035年以降も、CO2ニュートラル燃料のみを充填した内燃エンジン車は新規登録が可能となります。私たちは、気候変動に左右されない安価なモビリティの重要な選択肢を維持することにより、ヨーロッパでの機会を確保しています。私たちは、気候変動に配慮した燃料で走る自動車も、将来的に新規登録できるようにしたいと考えています。EU委員会に対する我々の提案は、内燃機関を段階的に廃止していくことです」

ドイツのステッフィ・レムケ環境大臣のコメント
「うまく合意できたことを評価する。もし合意できなかったら、欧州の手続きに対する信頼も、欧州政策に対するドイツの信頼も、大きく損なわれていただろう。自動車業界は、電動モビリティへの転換を明確にすることができた。そしてe-フュエルは特に、効率的な電気モーターへの切り替えが容易でないカテゴリーのクルマにとっては重要な役割を果たすだろう」

ドイツ政府内では、自由民主党とドイツキリスト教民主同盟(CDU)の党派の意見が他党の声を押しのけた形になっている。

この結果、3月28日にヨーロッパ議会・理事会が開催され、修正案が合意される見込みだ。

そして日本におけるメディア情報の誤解について。今回、修正・合意されたのはEV以外でe-フュエルを燃料とする内燃エンジン車の販売が認められるということであり、内燃エンジン車=ガソリン車、ディーゼルエンジン車はもちろん、その他の各種燃料が使用できるわけではない。

e-フュエルとは?

また、e-フュエルを合成燃料と訳しているメディアも多いが、アルコールや植物由来のバイオ燃料などの合成燃料は含まれない。もちろん水素を燃料とする水素内燃エンジンも含まれていない。

では「e-フュエル」とは何か? 再生可能エネルギー、つまり風力や太陽光発電で得られる余剰電力により水の電気分解を行ない、グリーン水素(生成過程でCO2を排出しない水素)と空気中、あるいは産業で排出されたCO2を反応(メタネーション)させて液化メタン(CH4)とした環境負荷ゼロの燃料だ。つまり再生可能エネルギーで発電された電力で水素を生成し、化学的に合成した液化燃料を意味する。

e-フュエルをエンジンで燃焼させるとCO2が発生するが、e-フュエルの製造時にCO2を原料として使用するため、エンジンからのCO2排出はゼロと計算される。このため、ドイツなど反対国がCO2排出ゼロを否定したり、EVの拡大を否定しているわけでもないのだ。

e-フュエルは、すでにポルシェ社が南米でパイロット・プラントを稼働しているが、現時点ではごく少量の実証実験的な生産体制である。そのため、現時点では1.0Lあたりの価格は数千円といわれており、e-フュエルを社会に普及させるためには燃料・エネルギー企業が大量生産する必要があることはいうまでもない。

【参考記事】ポルシェ チリでCO2フリーのeフューエル生産:https://autoprove.net/imported-car/porsche/214898/

e-フュエルを使用する優先度は航空機や船舶、大型商用車で、市中の乗用車への普及にはかなり時間を要すると考えられている。

またヨーロッパの動向とは別に、アメリカにおけるZEV(排出ガスゼロ車両)法は不変であり、乗用車のメイン・トレンドはEVであることに変わりはないのである。

ヨーロッパ議会 公式サイト

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