ウーバーの自動運転車死亡事故に関する報告書と課題

2018年3月19日夜、アメリカのアリゾナ州テンペ市の公道で自動運転の実証実験中だったウーバー(Uber:アメリカ配車&シェアリング企業)のテスト車両が道路を横断している主婦と衝突し、主婦は死亡するという事故が発生した。この事故に関して、アメリカの国家運輸安全委員会(NTSB)が20ヶ月にわたって調査に取り組んで来たが、2019年11月に調査報告書が完成した。

公道実験を許可したアリゾナ州、全米自動車工業会、運輸省道路交通安全局(NHTSA)は、ウーバーに公道での自動運転システムのテストの開始、または継続する前に安全性の自己評価計画を提出するよう要求し、運輸省道路交通安全局は適切な安全システムになっているかを確認することが必要だと勧告した。

事故直後のウーバー社のボルボXC90。右前が損傷している
事故直後のウーバー社のボルボXC90。右前が損傷している

事故の状況

ウーバー車のテストカーはボルボXC90で、LiDAR、全周をカバーするレーダー、全周をカバーする10個のカメラ、GPSを使用した高精度マップを搭載していた。もちろんXC90にも運転支援システム、自動緊急ブレーキは装備されているが、ウーバーの自動運転時にはボルボのシステムはすべてオフになり、自動運転走行が停止した時に、ボルボのシステムがオンになるように設定されていた。

ウーバーの自動運転実験車
ウーバーの自動運転実験車

事故は2018年3月19日(日曜日)の夜10時頃に発生した。テンペ市の公道、ノースミル通りを自動運転で走行中のウーバーのXC90が、その道路を横断しようとして自転車を手押しした状態のエレーヌ・ハーツバーグ(49歳)婦人と衝突し、死亡した。

この通りは片側2車線+自転車用車線があり、道路中央部は木が植えられ造園された幅の広い中央分離帯があった。市街地から少し離れた場所にあり、人通りははとんどない。市内の公道とはいえ、日本の感覚からすれば周囲には住宅もない幅広い自動車専用道路のような道路である。

中央のモニターに進行方向や検知した障害物が表示される
中央のモニターに進行方向や検知した障害物が表示される

被害者は横断歩道でもない場所を自転車を押しながらゆっくりと横断しようとしたのだが、なぜ被害者はこのような場所を選んで道路を渡ろうとしたのか不明だ。ちなみに最寄りの横断歩道は100mほど離れていた。残されたドライブレコーダーの映像では被害者は荷物袋をぶら下げた自転車を手押しし、ゆっくり歩いており、接近するクルマに気づいていないように見える。

ウーバーの自動運転車死亡事故に関する報告書と課題
ウーバーの自動運転車死亡事故に関する報告書と課題

検死の結果、この被害者はメタンフェタミン(覚醒剤)とマリファナの陽性反応が得られた。言い換えれば、正常な判断力はかなり低下していたと推定できる。しかし、ゆっくりと歩いて道路を横断していたにもかかわらずUber車が、この歩行者を回避できなかったことは大きな問題である。

XC90は約70km/hで自動運転状態となっており、これは法定速度を少し下回る速度だった。また市街地の道路のためヘッドライトは下向きだった。このような状態で、自転車を押しながらゆっくり横断する歩行者にXC90がノーブレーキで衝突する事故となったのだ。

事故直前のドライブレコーダー画像。画面が暗く見えるが実際はもっと明るい
事故直前のドライブレコーダー画像。画面が暗く見えるが実際はもっと明るい

衝突の瞬間は、Uberのドライブレコーダーによって記録されている。このドライブレコーダーは、XC90に乗っているドライバーと、クルマの前方の撮影映像の2種類がある。

自動運転システムが障害物を正常に認識できない場合は、搭乗しているテスト・ドライバーがステアリングを握り、ブレーキを踏むというマニュアル運転で事故を回避しなければならないが、事故当時そのテスト担当の44歳の女性はスマートフォンで動画を見ており、危険な状況が迫っていることを認識できず、警報を聞いてステアリングを握ったのは衝突の0.2秒前で、当然操作は間に合わなかった。

システムの問題

現場は幅広い道路で、街灯はまばらとはいえ十分に明るく、見通しの良い直線路である。少なくとも衝突の5.6秒前に、Uberの自動運転システムは道路脇から出現した異常物体を検出している。70km/hほどの速度で走行中であったが、その時点でシステムは、まず自動車と判定した。衝突の3.9秒前まではそのまま自動車として識別していたが、その1.3秒後には識別は自転車に変更され、さらにその1.1秒後にはその他(つまり識別不明物体)と変更されている。そして衝突の1.2秒前に、再び自転車と識別されている。

ウーバーの自動運転車死亡事故に関する報告書と課題
ウーバーの自動運転車死亡事故に関する報告書と課題

つまり、LiDARやレーダー、カメラなどのセンサーで、道路を横断する異常物体は十分早期に検出されていたが、画像認識での識別が揺らいでいたのだ。画像認識の技術は、画像を記憶させる学習が必要だが、こうし道路横断に関わる学習が不足していたといえる。

衝突1.3秒前の状況。緊急ブレーキを必要とする瞬間。黄色線はメートル表示。オレンジ線はマップ上での進路。グリーン線は車両の進行中心線
衝突1.3秒前の状況。緊急ブレーキを必要とする瞬間。黄色線はメートル表示。オレンジ線はマップ上での進路。グリーン線は車両の進行中心線

確かに、被害者は自転車を手押ししており、移動速度は自転車ではなく歩行者レベルといった要素も重なっていたが、物体の形状の画像による識別が追いついていないのは明らかだ。ウーバーのシステムでは、横断歩道以外の車道で歩行者が横断するようなケースを十分に想定していなかったのだ。

XC90に搭載されたウーバーのシステムは、検知した謎の物体が何であるのかを推測しようとするたびに、その物体(横断していた女性)の進行方向を予測する計算処理を最初からやり直していた。そしてシステムは衝突の1.2秒前になってようやく、自車がその物体(この時点では自転車として識別)に衝突すること、自動操舵での回避が間に合わないこと、緊急ブレーキをかける必要があるという判定を行なった。しかしこの時点では危険警報は行なわれなかった。

Uberのシステムでは、緊急ブレーキをかける直前に1秒間の遅延時間を設定していた。これはセンサーの誤作動で緊急ブレーキが勝手にかかる状態を抑制するためのプログラムで、1秒間だけブレーキを掛けるタイミングが遅れるのだ。

もちろん、本来であればテストカーに乗っているドライバーが危険を認識し、危険を回避するために自動運転システムをオーバーライドして手動運転とし、危険を回避できるはずであった。

だがUberは、本来は2名乗車のテスト・ドライバーを1名に減らしていた。事故当時車両に乗っていた女性ドライバーはUberでトレーニングを受けた、テスト担当のドライバーではあるが、その時点では動画を見ており、前方を注視していなかった。

衝突の0.2秒前に、システムは遅すぎる警報を発した。もはや回避できないタイミングでの警報であり、ドライバーはステアリングを握ったが、ブレーキをかけたのは衝突後1秒後であった。

センターコンソール上の赤ボタンが自動運転停止ボタン。ステアリング、ペダル操作でも自動運転システムをオーバーライド可能
センターコンソール上の赤ボタンが自動運転停止ボタン。ステアリング、ペダル操作でも自動運転システムをオーバーライド可能

これからの課題

ウーバーは、2018年の事故を反省し、自動運転技術部門は安全プログラムを改善した。さらにウーバーが事故対策の報告として国家運輸安全委員会に提出した文書で、実験車の登場するドライバーには20カ月の間に安全運転教育を改善し、各車両に安全オペレーター兼ドライバーとして2名を乗車させるように改善したという。

ボルボは、もしXC90がそもそも装備している安全支援システムがオフ状態ではなく、正常に作動していれば、事故は防ぐことができた、あるいは最悪でも負傷事故で済んだはずだと語っている。

すでに市販されている安全システム、運転支援システムで回避できた可能性が大きいにもかかわらず、実験中とはいえレベル4の自動運転システムで回避できなかったのは皮肉である。

またウーバーの自動運転システムのメインコンピューターには、今や自動運転システムの構成に欠かせず、高いシェアを持つNVIDIA(エヌヴィディア)製GPUが採用されているが、完全ではないプログラム、様々な物体、様々なシーンでの画像認識の課題、さらには常識では考えられない人の行動に対応するシステムなど、依然として多くの課題が存在することが明らかになった。

国家運輸安全委員会はウーバーが安全に対する取り組みが不十分であったとし、改めて自動運転テストカーを開発している企業、公道での実験走行を認めている州政府に対して安全に対する意識、取り組みの改善を促している。

アメリカでは、州によって自動運転車の走行を禁止している州など様々だ。自動運転車に対して積極的に取り組んでいるカリフォルニア州ではなんと62社が自動運転車の公道での走行試験を行なっており、一部は2年以内の商用化を目指している。アリゾナ州も公道での実験を積極的に誘致している州であったが、今回の件でブレーキがかかっている。

ヨーロッパでは現在でも手放し運転は法的に許されていない厳格さがある一方で、アメリカはGoogleカーを先頭に、世界の自動運転技術を牽引してきた。公道での実証実験も歓迎され、その結果として自動運転関連企業が乱立。公道での実証実験に対してもほとんど規制がかけられない状態が続いていたが、今回の事故報告書をきっかけに、実証実験車だけではなく、今後市場に登場する自動運転車をどのように扱うか、どのように規制するかという課題が浮かび上がってきている。

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