雑誌に載らない話vol4
人とクルマのテクノロジー展
パシフィコ横浜で開催された「人とクルマのテクノロジー展」を見学してきた。この展示会は、一般自動車ファン向けというより、自動車製造関連企業向けのイベントである。
展示会場には自動車の展示がほとんどなく、それぞれが開発した技術・製品を展示しており、興味を示した企業とのトレードショー的な意味合いも持っている。
また、フォーラムと呼ばれる公演も行われていて、こちらは製造企業だけに限らず、大学や各種研究機関での研究成果の公表、報告が行われている。
この展示会に参加している企業は、自動車メーカーへ直接納品するティア1とそのティア1に納品するティア2と呼ばれるサプライヤーがそのほとんどである。
自動車はバッテリーやタイヤ、ガラスなどは自動車メーカーが造っていないことは簡単にわかる。しかし他の部品で、どこまでが自動車メーカー自身が製造しているのか? なかなかわかりにくいのも事実だ。
自動車にはおよそ3万点にも及ぶ部品があり、その多くを自動車メーカーが製造していると思い込んでいる人も多いことだろう。しかし、実際は、ティア1からの製品購入がほとんどを占めている。とはいえ、基幹部品においてはティア1との共同設計が一般的で、自動車メーカーとの太いパイプでつながっているというのが現状だ。
このティア1企業の多くは自社内に研究機関があり、そこから新しい技術や発明が生まれてくることも多い。企業によっては、販売管理費よりも研究費のほうが多く経費がかかっているという企業も珍しくない。
例えば、世界有数のサプライヤー企業であるマグナグループはカナダに本社がある企業だが、日本にも支社があり、その大きさは自動車メーカーをしのぐ規模の会社で、今回の展示会にも参加していた。
「アウディA5のカブリオレは弊社で、ホワイトボディから設計させていただきました」と話を聞けたのは、マグナ・シュタイヤー・ジャパンの鶴山氏だ。
「クーペデザインが持つカッコよさを、ルーフをしまうことでシルエットを犠牲にしないコンセプトのもと開発しました。ルーフの収納だけの設計ですと、クルマ全体のデザインにいい結果を残せない場合が多いんです。ですから、A5の時は、ホワイトボディからのデザインを請け負わせていただきました」
また、マグナ・パワートレインではFFベースの4WD用駆動システムの新作が3種類展示していた。モーターを使ったタイプは回転差を予測し、実際の回転差が生じた時にはすでに駆動が伝わっているというデバイスで現代自動車に納入が決まっているというものだった。
その電動モーターとは違い、クラッチを使ったタイプもあり、よりトルクの大きいモデルに適しているというものもあったが、納入相手は未定という。さらに、BMW、アウディに採用されたトランスアクスルタイプのデバイスも展示してあった。
ポルシェのダブルクラッチPDKを納入しているZFでは8速ATを展示していた。8速はアイシン製のミッションがトヨタの一部高級車レクサスやクラウンマジェスタに搭載されているだけで、欧州車には、まだない最新の機構をもっている。
さらに、ZF・ジャパンでは展示はなかったものの、モニターで流していた新しいモジュールとして、ホイールとサスペンションが一体になった新ユニットを発表していた。「メルセデス・ベンツ社に納入しており、すでに実車でのテストは始っています」とZF・ジャパン社長から説明があった。
他にも、まだまだたくさんのあたらしい、テクノロジーが発表されており、3日間の日程では少し足りないとさえ感じたほどだ。また、フォーラムでは、理論がわかるものが多く、今後の日本の自動車メーカーの歩む方向と世界の動向、そして理想のテクノロジーの数々を表面だけでも覗くことができた。
「人とクルマのテクノロジー展」ではこのティア1、2企業が400社以上参加していて、一般も見ることができる。入場は無料。主催は社団法人自動車技術会が毎年行っているので、興味のある人は一度足を運んでみるといいだろう。きっと新しい何かがあるはずだ。
文:高橋アキラ