エンジンオイルは3万km無交換って本当?

雑誌に載らない話vol2
欧州車と国産車ではさまざまなものに違いがあるが、エンジンオイルに関して、常識の違いがあることにきづいた。それは、欧州車の多くの場合、3万km無交換というのが主流になりつつあるのだ。一方、国産車では、ロングドレインの意識はあまりなく、3000km〜5000km程度での交換が常識というのが一般的だろう。

欧州車、とくにドイツ車において、ロングドレインになりつつある理由は、廃棄されるオイルを減らそうという環境への配慮からこういった動きが加速しているのだ。化石燃料について日本ではガソリンばかりが注目を浴び、低燃費なハイブリッドがもてはやされているが、オイルも当たり前だが石油から精製されている。だから、エンジンオイルの消費量を抑えることが大切ということなのだ。

では、どのくらいでエンジンオイルの交換を推奨しているのかといえば、約3万キロまで補充しながらだが、無交換というのがVWやアウディ、BMW、ベンツなどに共通している距離。にわかに信じがたい距離だろうが、整備手帳にもキチンとかかれているのだ。

ちなみに、オイルメーカーSの試算によると、2.0L エンジンのゴルフGTIで3万kmを走行するとして、5000km走行ごとにオイルを交換した場合と補充した場合で、オイルの総使用量の差が最大で20L以上になるという(使用状況によって異なる。あくまでも試算)。

ではそのロングドレインというオイルは一体どんなオイルなのかというと、100%化学合成のシンセティック・オイルになる。

【メーカーとの共同開発の専用オイルがある】

オイルには規格があり、一般的にはAPI(アメリカ石油協会)、ACEA(ヨーロッパ自動車工業会)などが定めた規格が知られていて、SJとかSM規格などがそれにあたる。近年は、環境性能を示すILSACという企画も誕生してきている。

私達がオイル選びをするとき、粘度の性能を示す10W-30といった表示によって、またSMなど、その数字や規格を元にどの程度の性能なのかの判断をしているのだが、ドイツ車の多くの場合は、自動車メーカーが独自のオイル規格をつくり、その規格をクリアしたものでなければ、使用をすすめていないのだ。

もっといえば、独自規格の性能に到達していない安価なオイルを使ってしまうと、最悪エンジンを壊す危険すらあるということだ。

エンジンは開発の段階で当然オイルが必要であり、近年コンベンショナルなエンジンを再度見直すことで、徹底的に無駄を省き、抵抗を減らし省燃費のエンジン開発が盛んに行われている。これがFSIだったり、ブルーエフィシェンシーだったりする。そのエンジン開発と同時に、オイルも専用開発されているというのが主流なのだ。

これらのエンジンに共通することは、直噴式エンジンであること。これは燃料を直接シリンダー内に噴射するもので、エンジン燃焼温度が高い。つまり設定水温が高く燃焼温度も高いので、オイルには高温耐久の性能が求められる。

実はドイツ車の特徴でもあるのだが、「オイルは減る」というのが当たり前なのだ。国産車しか経験がないと信じがたいことだが、アウトバーンを高速で連続運転するという、エンジンにとって厳しい環境下で壊れないためには、シリンダーとピストンやバルブなど各部のクリアランスを大きくとり、オイルでの潤滑性・冷却性を高めることで対応している。これはレーシングエンジンでも同じような技術が使われているから納得がいくだろう。

さらに環境への配慮から低燃費は必須事項であり、低燃費化するためにはエンジン内部の抵抗は極力下げたい。それには低粘度にし、シリンダー内のフリクションロスを少なくするという手段が取られる。しかし、サラサラになれば、高温時の粘性が確保しにくくなるのだ。その相反する条件をベースオイル(基油)と添加剤の調合で、解決しているのが、100%化学合成のロングドレインといわれるエンジンオイルである。

これらのオイルの特徴には自浄作用が強くある、というのが挙げられる。つまり、高温になったオイルは酸化したり、不純物質が発生したりしてオイルの質が徐々に変化する。しかしロングドレインのオイルには、そのオイルの質が変化しにくくなるよな、添加剤が使われているために、ロングドレインが可能になるという理屈なのだ。

たとえば、VWグループで使われている504規格という純正オイルは、ベースオイルが化学合成のポリアルファオレン系のフルシンセティック・オイル。それに添加剤を加えたもので、酸化防止剤、粘度指数向上剤、摩耗調整剤、そして不純物が凝縮しないようにする分散剤が加えられているものだ。もちろんこの添加剤の配分量が性能に直結するので、企業秘密になっている。

このように新たに開発されているオイルは、安価なオイルでは達成することのできない性能を有しており、安いオイルを頻繁に交換すれば、高いオイルと差がないという誤った認識を持つことはなくなるだろう。ちなみにVWの純正504規格のオイルは¥2940/Lである。

次回はこの高性能純正オイルの実際の性能について、プローブしてみたい。文:高橋アキラ

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