Bセグメントサイズのクロスオーバーには、各社から力の入ったモデルが投入されているが、日産キックスは他社を一歩リードする魅力あふれるモデルだった。
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見渡すと、ホンダ ヴェゼル マツダCX-3 CX-30 スズキ エスクード、そして間もなくデビューするトヨタ ヤリスクロスなどがひしめく激戦区だが、いずれのライバルより魅力的に感じたのだ。ただし、エンジンにこだわり、4WDにこだわるのであれば話は変わる。
というのは、キックスはエンジンの存在感が消え、アーバンクロスオーバーの位置付けで4WDの設定がないからだ。エンジンをこよなく愛すユーザーは多い。またSUVであれば4WDは当然の機能だという固定概念のユーザーもいるだろう。だが、そうした人達の概念を覆す魅力あふれるモデルだったのだ。
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モデル概要
ポジショニングはかつてのジュークであり、ハッチバックであればノートと同じ位置付けになるBセグメントに分類される。しかし、インテリアの質感、走行性能など、どの部分を見てもひとクラス上、静粛性などではふたクラス上のレベルだと言える。
パワートレーンは大きく進化したe-POWERで、1.2Lの3気筒ガソリンエンジンを搭載し、モーターで走行するシーリーズ式ハイブリッド。駆動方式はFFのみの設定だ。ホンダのe-HEV、かつてのi-MMDや三菱アウトランダーPHEVも同様のシリーズ式を採用しているが、これらはパラレル式にもなり、またエンジンだけでの走行もする複雑な仕組み。
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日産キックはモーターよりエンジンのほうが効率が良いとされる高速走行でもモーター走行し、全速度域でモーターだけで走行するパワーユニットだ。いわばエンジンを搭載した電気自動車ということだ。エンジンはバッテリーを充電するための発電機ということになる。
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ボディサイズは全長4290mm、全幅1760mm、全高1610mm、ホイールベース2620mmでライバルと比較してみると、CX-30は4395mm、ヴェゼルは全長が4330mm、ヤリスクロスは4180mm、全幅は各車1800mm以下のサイズだ。
じつはこのコンパクトサイズのSUV市場の販売は活性化していて、乗用車全体の中でも急伸長しているマーケットなのだ。日産によればマーケットシェアは43%にまで伸びているという。(*この数値にはAセグメントも含む)
走行性能
もっとも驚かされたのが走行性能だ。開発担当者の羽二生倫之氏は「とにかくエンジンが稼働しないように制御を進化させました」と話すように、エンジンがかからない。モーター走行のなめらかで静かな走行フィールをスポイルさせているのがエンジンだからなのだ。
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これまでの常識とは正反対の価値観とでも言えるコメントであり、実際、そのモーター走行の滑らかさ、静かさ、力強さ、レスポンスの良さを堪能できる。特に40km/h以下の日常の常用域ではエンジンがかからないように制御し、モーター駆動の恩恵を常に感じられる領域を大切にしている。
車速が上がればロードノイズや風切音などノイズは増えてくため、そこでエンジンが稼働しても他のノイズに紛れ、エンジンの存在が目立つことはない。そこまで計算されての新しい制御というわけだ。
これまではバッテリーを多く充電することに注力した制御だったという。そこをバッテリーを最後まで使い切るように制御の考え方を変更することで、新しいe-POWERの制御が成立したという。
これは発電のタイミングを変え、これまでは充電量を重視した制御だったものを、車速を重視する制御に変えている。特に低速ではエンジンの作動頻度を劇的に下げたという。開発の羽二生氏は「ハイブリッドよりエンジンをかけない」ことを目標に開発をし、新しいエネルギーマネージメントの制御ができたという。そして、高い車速のときに充電量を稼ぐようにコンセプトを変えたことが大きいと。
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また、Sとエコモードで使うことができるワンペダル走行は、最初は若干の慣れが必要になるものの、エンジンブレーキよりも強い減速Gは停止まで続くので、慣れるとフットブレーキを踏まない運転が可能になる。その慣れまでに30分は要さないと思う。
以前、e-POWERの試乗テストを雪上で行なった時、その減速Gのありがたみを体感している。というのは、滑りやすい雪道や凍結路を走行するとき、もっとも気を使うのはブレーキを踏む時だと思うが、e-POWERのワンペダル走行であれば、アクセルペダルを離すだけでブレーキをかけた時と同じ減速Gが発生するので、滑る心配がないのだ。この安心感はこれまでに味わったことのないありがたい恩恵だと感じている。
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ステア操作の気持ちよさ
このモーター走行の気持ちよさと並んで、気持ちの良かったことがステア操舵だった。少しの操舵に反応し、ノーズが意のままに回頭しそして切り戻すときの手応えのリアル感が気持ちいい。慣れ親しんできた油圧ステアを思い出させるような電動パワステのフィーリングで、GT-Rを開発するメーカーはさすがだ!と妙に感心した。
乗り心地も申し分ない。静かで滑らかな走行フィールを底上げするかのようにしなやかに動くサスペンションは高級車を思わせる乗り心地。後席の開放感、ウインドウの大きさ、後席の広さ、ヘッドルームの広さ、膝周りの広さなどクラストップレベルにしている点でもクラスを超えるモデルだと言える。
高級なインテリア
そのインテリアでは、大人4人の空間がしっかり確保され、4人分の荷物も載せられる。ドライバーは運転が楽しく、ロングドライブが楽しいと思えるように、この4点を達成することで魅力を訴求した開発が行なわれていた。
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だから、2クラス上の静粛性をもち、特に市街地走行の静粛性や発進時の音圧レベルはダントツで静かだ。前述のようにエンジンの作動音や振動の低減、遮音性能の向上に注力した室内は、ノートe-POWERに対して-4db下げているという。
ラゲッジ容量もNO1を謳い、遠出のワクワク感を煽り、奥行き900mmを確保。Mサイズのスーツケースを4つ搭載可能にするなど、ユーティリティを追求している。
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ぜひ装備でおすすめしたいのがデジタルルームミラーだ。これまで9割のユーザーがチョイスしているというから、そのメリットをユーザーはよく知っているということだが、リヤテールゲートにカメラがあるので、後席の荷物や乗員が邪魔にならず、クリアな後方視界が得られる。そして、夜間は肉眼以上に明るく表示されるので、視認性は抜群だ。もちろん雨の日の視認性も従来のミラーより良い。
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試乗車はレザーをふんだんにつかったツートーンのインテリアで、とても量販Bセグメントモデルとは思えない高級感で、プレミアムモデルと言っても言い過ぎではないレベルだ。また9インチのモニターをインパネのパッドに埋め込むように設置している施工方法も新鮮で、高級感の演出を盛り上げている。
さらに、日産のプロパイロットもこのキックスには全車標準装備になっている点でも評価が高い。SOSコールも含め先進の安全装備と高度運転支援装置が標準装備というのは嬉しい内容だ。価格もこれらの先進装備を入れ、ライバルのハイブリッド車に対して競争力の高い価格設定だと思う。
こうしたクラスを超える、あるいは常識を覆すような「ワオォ!」がたくさんあった日産キックスは、日産が進めるインテリジェントモビリティを代表する1台と言えるだろう。電動化戦略の中でICEをどうやって使いこなしていくか、キックスの新しいe-POWERはそのひとつの答えなのかもしれない。<レポート:高橋明/Akira Takahashi>