BYD 世界のEV市場を席巻するBYDの何が凄いのか

世界のEV市場を席巻しているBYDが日本にも上陸し、現在「ATTO 3(アットスリー)」と「DOLPHIN(ドルフィン)」の2モデルの販売を開始している。その2モデルを試乗したので、気になる実力をお伝えしよう。

BYD ATTO 3
BYD DOLPHIN

躍進のきっかけはバッテリー技術

まずATTO 3はCセグメントサイズのクロスオーバーSUVで、2023年1月から国内販売が開始されている。全長4455mm、全幅1875mm、全高1615mmでホイールベースは2720mmという大きさ。これに150kW(204ps)/310Nmのモーターをフロントに搭載し、前輪を駆動している。搭載するバッテリーは58.56kWhのリチウムイオン電池。航続距離は485kmというスペックだ。

ATTO3

BYDが躍進するきっかけは電池技術だ。ATTO 3に搭載するバッテリーも独自開発した「ブレードバッテリー」を使っている。これはリン酸鉄系のバッテリーで、いわゆる三元系(NMC:ニッケル、マンガン、コバルト)とは異なり、独自ノウハウをバッテリー技術に投入しているわけだ。

一般的にはエネルギー密度がリン酸鉄系のほうが低いため、安定性が高く寿命が長いとされているものの、その分体積が大きくなるネガ要素がある。だが、ATTO 3の車重は1750kgであり、重量ハンデがあるような重さにはなっていない。このブレードバッテリーは名称のように板状の薄型なので、フロアに敷き詰めてもフロアがあまり高くならない工夫がされている。

そしてこのバッテリーを制御するのが「e-プラットフォーム3.0」というE/Eアーキテクチャーで、B、C、Dセグメントをカバーしている。またシャシーのプラットフォームをBYDではBとCをカバーするのが「プラットフォームタイプA」とし、このATTO 3とドルフィンで採用している。そしてDセグメントは「プラットフォームタイプB」であり、間もなく国内デビューする「シール」に採用されている。

トップランナーとして走るE/Eアーキテクチャー

もうひとつ注目の技術はE/Eアーキテクチャーで、さまざまな電気・電子デバイスを制御するプラットフォームも世界の先端を走り、8 in 1とか3 in 1と表現されているものだ。例えばパワートレイン系でみると、駆動モーター、減速ギヤ、DC-DCコンバータ、バッテリーマネージメントシステム、車両コントロールユニットなど8つの機器類がひとつにまとめられた一体型になっているのだ。そして、これらを制御するECUもまとめられており、主に通信速度が同じレベルのものを統合していると考えられる。

一般的にはコンフォート系、エンターテイメント系、そしてパワーユニット系のドメインに分類している傾向だが、BYDの技術担当に聞くと、ドメインの詳細はセキュリティの関係で公開していないことを前提に、フロントがパワートレイン系、車体の左右とリヤの4つのドメインであるということを教えてくれた。特に左右のドメインがセキュリティ上のキーになるという。そしてリヤが安全装備系をまとめているということだ。

通信規格としてはCANやLIN、CAN FDといったもので、特殊な通信規格を使っているわけではないという。またE/Eアーキテクチャーはトヨタと共同開発を進め、プラットフォームはトヨタにも提供しているということだ。

グローバルで戦うということ

こうしたアウトラインを持つATTO 3は国内の館林モールディングで金型が作られている。この館林モールディングはBYDに買収され、現在はBYDグループ内の企業であるが、日本の職人技術は活かされているのだ。そしてエクステリアデザインではヴォルフガング・エッガーで、ダ・シルバのチームにいたり、ジウジアーロにいたりで、アウディ、アルファロメオ、ランボルギーニなどで辣腕を振るった人物が担当している。

またインテリアデザインではフランスのフォルシアが関わっている。フォルシアとBYDは合弁会社を中国深圳に設立し、インテリアパーツを作っている。フォルシアはアウディのプレミアムブランド化に大きく貢献したと言われており、インテリアデザインにおいてはトップ企業のひとつだ。さらにインテリアのパッケージデザインでは、マイバッハにいたミケーレ・ヤウク・パガネッティ氏がデザインしている。

そしてコア技術であるバッテリーやインバータ、モーターなどのパワートレイン系はBYDが作り、もはやグローバルで戦う武器をたくさん備えていることが見えてくるというわけだ。

王朝系と海洋系

そのATTO 3はラインアップとして王朝系というシリーズに所属している。これは中国をはじめとする歴史上の王朝を意味し、唐、秦、といった王朝シリーズとしている。このATTO 3という名称はじつはグローバルネームで、中国では「元PLUS」という名称だという。

この王朝系のシリーズはその王朝の特徴がモデルに反映するようにネーミングされているということで、元からイメージされるのはチンギス・ハーンや蒙古襲来で、力強さなのだろうか? 他に海洋系というのがあり、もう一台国内で販売されているドルフィンはまさに海洋系というわけだ。

そのドルフィンはBセグメントサイズのコンパクト・ハッチバックで2023年9月から国内販売がスタートしている。 

DOLPHIN

全長4290mm、全幅1770mm、全高1550mm、ホイールベース2700mmと、国内では扱いやすいサイズになっている。なお、全高に関し、他の市場では1570mmだが、日本の市場に合わせての1550mmであり、BYDの本気度が見えてくる。 本気度といえば、ウインカーも右ウインカーで、国産車と全く同じ。輸入車は右ハンドルでも左ウインカーというのが定着しているものの、BYDや韓国のヒョンデといったアジア勢は右ウインカーにしているのだ。

試乗してもびっくり

さて、それぞれを試乗してみると、まずATTO 3のインテリアは随所に個性的なデザインが散りばめられ、新鮮な気持ちになる。ダッシュボードセンターには大きなタブレット型モニターがあり、このモニター自体も回転する仕組みで、使い勝手の良さにも斬新さがある。また流用の効かないデザインのものもあり、BYDの力の入れようを感じる。

ATTO 3

走り出してみるとEVならではの静粛性の高さや、EVならではのレスポンスの良さといったものはすぐに感じられ、そして乗り心地の良さもある。ATTO 3は王朝シリーズということもあるのだろう、どことなく高級感を持ったモデルという印象を持つ。サスペンションはソフト系ではあるものの、高いボディ剛性もあり快適な乗り味と言える。

一方のドルフィンは、Bサイズということもあるが、乗り心地ではやや硬さがあったが、タイヤによる影響のようにも感じた。ドルフィンは補助金を使うと200万円台で購入できるという驚異的価格でもあり、ガソリンモデルからの入れ替えも環境が許せば試したいと感じさせる完成度と言える。

DOLPHIN

ATTO 3と同様の大きなセンターモニターはステアリングにあるスイッチで回転させることができ、これまでどうしてやらなかったのかという気づきを刺激する装備でもあった。

ATTO 3、ドルフィンに搭載の回転式ディスプレイ(画像はドルフィン)

果たして国内での行方は

双方に共通する気になる点は、アラート系の出し方がある。ADASを装備しているため、レーンキープや先行車情報を常に掴んでおり、車両の動きに対して逸脱や接近をするとアラートがでる。もちろん、モニターにも表示されるが、音も出る。これらの危険に対するしきい値の課題として、人によって「危険」の度合いが異なるため、アラートが邪魔になるケースもある。すると設定を解除しかねないわけで、本末転倒となる。このあたりは一考してほしい。

じつは、こうしたアラートの設定は日本車にも共通していることで、欧州車との違いが明確。PL法も影響していると思うが、ユーザビリティを考えた時に、何がもっとも安全を担保できるのかという思考の違いがアジア系と欧州系で異なっているということかもしれない。

というわけで、中国車という先入観を捨て、工業製品として純粋に見ていくと日本車が追いつけていないところもあり、レベルの高さを実感する。グローバルで各社はバッテリー調達に苦慮している中、全量を自社生産できるBYDの強みもある。となると製品レベルの高さと安定供給という両輪がある故に旋風が起きているわけで、果たして日本市場も掴むことになるのか注目したい。

価格

BYD ATTO 3:440万円(消費税込み)
BYD DOLPHIN:363万円
BYD DOLPHIN Long Range:407万円

主要諸元:ATTO 3

主要諸元:DOLPHIN / DOLPHIN Long Range

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COTY
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