ヒョンデのIONIQ5(アイオニック・ファイブ)のスポーツモデルIONIQ5 Nに試乗してきた。IONIQ5は国内でも高い評価を得ており、前々回の日本カー・オブ・ザ・イヤーのインポートカー・オブ・ザ・イヤーを獲得している。そのIONIQ5にヒョンデのスポーツモデルブランドである「N」の名を冠したIONIQ5 Nがまもなく国内で発売される。
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2024年6月5日に発売されるIONIQ5 Nは一般ドライバーが日常でドライビングの楽しさを感じられるだけでなく、高性能EVのハイパフォーマンスを楽しむこともできるモデルに位置付けられている。ちなみに「N」の名称は開発拠点の韓国・南陽(ナムヤン)とニュルブルクリンクに由来している。
そしてNブランドは誕生から9年目でWRCへの挑戦でも知っている人は多いだろう。彼らはWRCを動く研究所「ローリングラボ」と捉え「N」ブランドへその知見、技術の展開を行なっているというわけだ。
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そして、このIONIQ5 NはBEVのAWDモデルで、既販のIONIQ5から新車をつくるほど手を入れて高性能化させたと説明している。狙いは3本の柱を立て、ハイパフォーマンス、コーナリング、そして日常でのドライビング・プレジャーを感じるモデルとしている。特にハイパフォーマンスへのこだわりがその特徴であり、ハイパワーEVではなく、ハイパフォーマンスであることに拘っている。そのため、新車から作るほど徹底して開発したというわけだ。
圧倒的ハイパフォーマンス
試乗は袖ヶ浦フォレストレースウェイと一般道で行なわれ、豹変するキャラクターに驚いた。まずはサーキットでの試乗。ここではステアリングにあるNボタンを操作することで、パフォーマンスが変わり、特にエンジン車をドライブしている気になるきめ細やかな味付けには驚いた。
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ピットでシステムを起動させるとアイドリングの音がする。アクセルを煽れば回転は上がり、その反応はリニアで、空ぶかしに違和感はない。ドライブ・セレクターを回転させ「D」を選択し動き始める。するとエンジン音もアクセル開度に応じて大きくなっていく。さらにパドルを使ってシフトアップをすると、変速ショックまで再現しているのだ。
もちろんEVなので、ステップギヤはないのだが、まるでDCTをドライブしているように変速する。さらに、変速タイミングと車速との関係もキチンとICEを再現し、急減速で低速ギアへシフトした時の変速ショックは大きく、ストレートで7速から8速へのシフトアップだと、わずかな変速ショックなのだ。この細かさはなんだ?!
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そしてブレーキングしながらダウンシフトすれば、ブリッピングしながらターボ車のアンチラグのようなアフターサウンドを響かせ減速する。言われなければICE+ターボのDCTをドライブしている気分。この演出の精度の高さには驚かされるし、そのこだわりは大きな好感になるのは間違いない。EV否定派というのが少なからずいるが、否定する理由にサウンドを挙げる人もいる。だが、そこは完全に認識が崩壊するほど完璧なギミックが搭載されているのだ。ちなみにスポーツモードではDCT、スポーツ+ではシーケンシャルを再現しているという。
コーナーへ飛び込み、ステアすると路面からのフィードバックと抵抗感がキチンとあり、コーナー出口で踏み込んでいっても安定した脱出をするのはAWD制御レベルの確かさだ。
ちなみに、ドリフトモードやローンチコントロールも試すことができた。ドリフトモードではFRのようにドライブが可能でステアしてアクセルを踏めば簡単にリヤが滑り出し、カウンターステアを当てながら八の字旋回やマックスターンもできるというわけ。前後の駆動配分は20:80から80:20の間で設定されているそうだが、100%リヤ駆動の感覚で操作できる。
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ローンチコントロールは10秒間だけMAXパワーになるNGBスイッチを押して加速。0-100km/h加速は3.4秒でNGBスイッチはステアリングスポークの上に設置されている。
日常はEV車の顔になる
さて、一般道での走行だが、気分的にはサウンドはいらない。EVの特徴の一つに静粛性があるので、街中はICEのギミックはOFFだ。このON/OFFができることも「分かってるなぁ」と感心。275 35ZR21というピレリが専用開発した極太・大径タイヤを履くIONIQ5 Nだが、乗り心地の良さも高評価できる。
サーキットをハイスピードで走れるクルマにしては、という条件ではなく、一般的なクロスオーバーSUVとしてみても乗り心地はいい。Nブランドであることは装備類やボディ剛性の高さなど全体に引き締まった乗り味から、その漂う空気を吸い込むことができ「只者ではない」と感じながら普通に走れるのだ。
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これほどのハイパフォーマンス、コーナリング、日常の走りを楽しませるIONIQ5 Nだが、どんな技を盛り込んでいるのかみてみよう。
基礎体力のレベルアップ
ボディサイズは全長4715mm、全幅1940mm、全高1625mm、ホイールベース3000mmで、E-PGMプラットフォームを採用。ボディはホワイトボディの段階で補強されている。スポット溶接打点の追加や接着剤の範囲拡大、サブフレームと車体との締結剛性アップやストラット取り付け部の補強。サブフレーム自体に別ステイを追加し、クロスバーを補強、ストラット自体もデュアルタイプの形状変更などで、フロントの横剛性をIONIQ5に対して15%アップし、リヤの横剛性を16%アップ。ボディ全体のねじれ剛性を11%アップしているのだ。
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そして3 in 1のパワートレインとヒョンデ自慢のパウチ型リチウムイオンバッテリーを組み合わせ、さまざまなパフォーマンスアップ機能を盛り込んでいる。つまり、高出力バッテリーと高効率モーター、そしてインバータを搭載し、冷却性能を最大化することで、トラック走行でも性能ダウンしない技術を確立している。
Nバッテリープレ・コンディショニングは、最適なバッテリー温度を維持するシステムで、ドラッグレースなど短時間で高出力を使う時に適しているバッテリー最適温度は30〜40度。トラックでは20〜30度になるように冷却性能を高める制御が盛り込まれている。
そして回生ブレーキのNブレーキ・リジェンは、最大0.6Gまで減速エネルギーを発生させ320kWを回収することができる。この0.6Gの減速度は一般的な急ブレーキに近いもので、サーキット走行においても摩擦ブレーキをあまり使うことなく楽しめるレベルなのだ。したがってブレーキローターの加熱やパッドのライフなどもICEとは大きく異なる性能を持っている。
バッテリーは800Vの第4世代高電圧バッテリーセル&システムを搭載している。既販のIONIQ5には第3世代のバッテリー&システムで、エネルギー密度が618Wh/Lに対し、670Wh/Lに向上している。したがって350kWの充電器ではSoC10-80%の時、18分で回復するが、CHAdeMOでは最大でも150kWなので、18分は難しい。だが、他のモデルより早い充電時間だと説明している。
そしてBattery Modular System(BMS)ではバッテリーの熱暴走対策技術で、どんな状況でもパフォーマンスがダウンしないように、バッテリーセルと冷却チャンネル間の熱伝達経路を最小化している。さらにベンティングガス排出のためのバルブを設け、速やかに排出を促し、また耐火シートを採用することでドライバーの脱出時間を稼ぐことも考慮した設計になっている。
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こうした最新の技術を盛り込むことで、基礎体力を上げ多くのパフォーマンス向上技術を搭載することができている。まず「Nレース」モードはスプリントとエンデュランスモードの2つがあり、モーター、バッテリーの冷却を強化し、バッテリーの最大出力範囲を拡大。温度上昇による走行時の出力制限、パワーダウンを最小限に抑える機能だ。
次に「Nペダル」。いわゆるワンペダル走行だが、前述のように高い回生エネルギーを発生させるが、コーナリグ性能の最大化機能に位置付けている。アクセルオフ時に前後の素早い荷重移動ができ素早くヨーを発生させることができる。シケインのような場所でも加速ペダルだけでの操作で俊敏なヨーを発生させ、トレースラインから膨らまなく走れる。レベルは1、2、3から選択でき、最強レベルではタックインの挙動が使えるのだ。
「Ne-Shift」は、メカニカルとコントロール、そしてサウンドの項目を用意し、前述のICEをドライブしている感覚を作るモードだ。メカニカルはエンジンとミッションが機械的につながっている感覚をつくり、コントロールは変速動作により直接クルマを制御する部分、そしてサウンドは五感を刺激しエンジンの回転を感じられるサウンドフィードバックを実装している。
そして、「N-Power Shift」は前述のICEのサウンドと挙動を再現するシステムで、変速時の挙動を、モーターを使ってドライバーに伝え、ギヤ変化を感じさせる。また瞬間的にモータートルクを上げることで、シフト時に加速する感覚が作れるのだ。さらにレッドゾーンで変速操作をしないと燃料カットの挙動まで再現しているのだ。
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このように全方位で最新の技術が盛り込まれ、それをドライビングの楽しさに繋がる工夫も盛り込んでいるのがIONIQ5 Nだ。ボディ剛性やサスペンションのジオメトリーを見直すこと、パワートレイン個々の性能、レベルアップすることはスポーツカーの基礎体力の部分であり、それをベースに最新のSDV制御技術を組み合わせることで、ドライビングの楽しさを、運転する誰もが知ることができ、味わうことができるというモデルに仕上げているのだ。
インフォテイメント系にとどまらず、ドライビングダイナミクスもソフトウェアで作り込み、ドライビングの楽しさと快適さを生み出しているソフトウェア・デファインド・ヴィークルというわけだ。
テスト試乗後、多くの部分で「参りました」と言う感想であり、買わない理由探しや実車を見ずに、触らずに、乗らずに否定することの無駄を知って欲しいと願う試乗だった。