2017年9月19日、トヨタは新たなスポーツ・ブランドとして「GR」シリーズを発足すると発表した。「GR」とは「GAZOO RACING」を意味する。トヨタはこれまでの社内カンパニー制度の一部見直しを行ない、2017年4月から「GAZOOレーシングカンパニー」が新設された。このGAZOOレーシングカンパニーが開発を担当するのが「GR」シリーズだ。
■GAZOOレーシングカンパニーと「GR」ブランド
GAZOOレーシングカンパニーは、モータースポーツ活動を通じて得た技術、ノウハウを蓄積し、ユーザーによりスポーティで楽しいクルマを「GR」ブランドとして開発し、販売する役割を担っている。全国の販売店で従来のスポーツ車用の店舗内店舗「エリア86」はクローズされ、新たにGRブランドの立ち上がりに合わせてスポーツカーやモータースポーツを軸に、幅広いユーザー層に クルマの楽しさを広めることを狙いとしたトヨタGAZOO Racingの地域拠点「GR Garage(ジー・アール・ガレージ)」を順次オープンさせる。
「GRコンサルタント」と呼ばれる専任 スタッフを配置し、地域のクルマファンが楽しめる活動を実施するなどの基準を満たした販売店で2017年度中にGRガレージ39店舗をオープンさせる計画としている。
そしていよいよ、2017年9月から市場投入が開始されることになった。GAZOOブランドはこれまで、頂点の走りを追求したスペシャルモデル「GRMN」(GAZOOレーシング・チューンド by マイスター・オブ・ニュルブルクリンクの略)と、市販モデルをベースにスポーツチューンを加えた「G’s」を発売してきた実績があるが、今回からラインアップも見直し、新たなシリーズとして再構築している。そして、ブランドヒエラルキーは次のようになる。
・GRMN:究極のスポーツモデルという位置付けの台数限定車。専用のエンジン、ボディ&シャシー、駆動ユニット、デザインを備えた持ち込み登録車。
・GR:操る喜びを日常的に楽しめる量産型スポーツモデル。専用の駆動ユニット、ボディ&シャシー、デザインを装備し、持ち込み登録車。
・GRスポーツ:量販型スポーツモデルで、多くの車種に展開し、ライフスタイルに合わせて選べるライン生産車。専用のボディ&シャシー、デザインを装備。一部は持ち込未登録車だが、大半は型式指定登録で通常のカタログモデル扱い。
この3種類のグレードの他に、ノーマル車に後付けできるアフターパーツ、「GRパーツ」もこれから展開されるという。
従来はGRというクルマの立ち位置は曖昧だったが、今回の統一ブランドとして立ち上げたことでトヨタのGRブランドとしてより分かりやすくなっている。またGAZOOレーシングカンパニーとしてはGR、GRスポーツというふたつのカテゴリーとGRパーツはビジネスとしても自立させる責任も担うことになる。
■アピールポイントと車種展開
GRブランドは、より多くの人にスポーツカーの楽しさを届けるということがテーマで、優れた操縦安定性と乗り心地のよさを両立させ、機能美を求めたデザインと運転の喜びを伝えるインターフェースを持つクルマと定義付けされている。
今回発表されたのは、ヴィッツGRMN(2018年春頃に発売)、ヴィッツGR、86GR(2017年末発売)、ヴィッツGRスポーツ、ハリアーGRスポーツ、プリウスPHV GRスポーツ、ノアGRスポーツ、ヴォクシーGRスポーツ、マークX GRスポーツ、プリウスα GRスポーツ(2017年末発売)、アクアGRスポーツ(2017年末発売)の11車種だ。プリウスα GRスポーツ、アクアGRスポーツ以外のGRスポーツモデルは9月から発売となる。
注目すべき車種は86GRで、2016年1月に100台限定で発売した86GRMNのGR版で、86GRMNのコンセプトを引き継ぎながら同等の装備としたスポーツ性とコスト・パフォーマンスを両立させたモデルで、装備を考えるとお買い得な設定となっている。
また2018年春頃に発売予定のヴィッツGRMNは、世界ラリー選手権に挑戦しているヤリスWRC直系のスーパースポーツモデルという位置付けて、日本では販売されていない2ドアボディ仕様だ。そのためフランス工場製の2ドアボディを使用しボディ、シャシーをチューニング。そしてパワーユニットはスーパーチャージャー付きのスペシャルチューンの1.8Lエンジンを搭載し212ps/249Nmを発生。馬力荷重は5.4kg/ps。走りを徹底的に追求したスーパースポーツモデルというポジションにある。
■ヴィッツGRシリーズ試乗インプレッション
ヴィッツの試乗車はGR、GR SPROT、GRMNの3モデルに試乗した。GRシリーズのエントリーグレードがGR SPORTで、主に、ボディの剛性アップと、チューニングサスペンションを装備している。その上に位置するのがGRになり、ボディ、サスペンションの他に、ブレーキのチューニングやブレースの補強なども追加されている。
そして、トップモデルとなるのがGRMNで、こちらはベースモデルが欧州仕様の3ドアハッチをベースにし、エンジンにスーパーチャージャーを搭載するなど、ヴィッツのイメージがガラリと変わるハイスペックモデルになっている。
GR SPORTは1.5Lの自然吸気エンジンに7速シーケンシャルをイメージさせるCVTを搭載。サスペンションとボディがしっかり引き締められた印象で、ノーマルよりはるかにスポーティだと感じるチューニングレベルだ。これがGRになるとブレーキやタイヤサイズもアップされるので、エンジンパワーはノーマルと変わらないものの、パワーを使い切る余裕が生まれてくる。
サーキットのような環境であれば、もっとパワーが欲しくなるレベルのチューニングだ。こちらは10速シーケンシャルCVTと5速MTがあり、マニュアルミッションのほうが存分に楽しめることは間違いない。
GRMNは1.8Lのスーパーチャージャーで出力は212ps/249Nmという、とてもヴィッツのスペックとは思えないほどパワーアップしている。ボディ剛性も高くブレーキタッチの安心感もあり、サーキット走行が楽しくなるモデルだ。操舵応答がはっきりしていて、タイヤをダイレクトに持ってコーナリングしているような錯覚になるほどリニアなフィーリングに仕上がっている。
ヴィッツGRMNはハイパワーのFFモデルになるが、スーパーチャージャーは低速からのトルクがしっかりあり、NAエンジンと同じように扱える。過給の立ち上がりによってトルクステアがでるようなこともなく、これは本当にFFか?と思わせるほど、素直な挙動のハイパフォーマンスモデルだ。
■86GR試乗インプレッション
もう一台は86をベースにしたGR(プロトタイプ)だ。86自体がそもそもスポーティなクルマだけに、ボディ剛性を上げ、サスペンション&ブレーキのチューニングがされたGRは、相当な高いレベルの走りが楽しめる一台だ。特に秀逸だと感じるのはサスペンションの動きだ。
逆バンクのような荷重がかかりにくいコーナーでも、イン側の前後タイヤの接地感がはっきり伝わってくるし、コーナリング姿勢そのものが違うくらいに、ストロークのあるコーナリングができる。ノーマルより明らかに安定感が増し、安心感があるのでアクセルを踏み込みやすく、よりアグレッシブに攻めることができる。
だから86GRは、ドライビングテクニックがあればあるほど、高い次元のコントロールが可能になる魅力たっぷりのモデルという印象だった。