マニアック評価vol647
トヨタ「スープラ」がいよいよデビューする。2019年1月のデトロイトモーターショーでワールドプラミアされるが、ひと足先にプロトタイプを千葉県袖ケ浦フォレストレースウェイで試乗できたので、お伝えしよう。
試乗はサーキットで雨というコンディション。現在分かっている範囲では、直列6気筒+ターボで8速ATのパワートレーン。ディメンジョンはFRの2シータースポーツカーというあたりだ。
開発スローガンは「numbers are one thing Feeling is what matters」で意味するところは、タイムや数値を求めるのではなくドライバーが車両と一体となって、ドライビングを楽しめるか?という感性性能を重視したということだ。ポジションとしてはトヨタ86より、ずっと高いレベルの性能に位置する。
開発初期のパッケージは、スポーツカーとして究極のハンドリング性能を目指し、そのためにショートホイールベース、重心高、ワイドトレッドを重要視して検討したという。プロトタイプのホイールベースは、86より100mm短い2470mmだ。重心高は直6でありながら水平対向エンジンのトヨタ86より低いという。また、直6のFRがスープラのDNAでもあるという。
そして、前後重量配分は50:50を達成し、ボディ剛性はアルミとスチール材でトヨタ86の2.5倍、カーボンボディのLFAを上回るねじり剛性を実現しているという。
ちなみに、BMW Z4の公開されているスペックを見ると全長4324mm、全幅1864mmでホイールベースは2470mm、トレッドはフロント1594mm、リヤ1589m。エンジンは3.0Lツインパワーターボで8速ステップトロニックスポーツ(AT)のトランスミッション。出力は250kW/340hpで5000rpm-6500rpm、トルクは500Nm/1600rpm-4500rpm。0-100km/h加速は4.5秒。というのが「BMW Z4 M40i」のスペックだ。
AVS(アダプティブ バリアブル サスペンション)は状況に応じで減衰を瞬時に変え、走り、乗り心地を考慮。ポイントになるパーツとして、アクティブデファレンシャルがある。LSDのロック率を0-100%までシームレスに可変することができ、状況に応じたロック率となるため、ニュートラルなハンドリングを目指している。
ドライビングモードにはノーマルとスポーツがあり、スポーツモードでは、エンジン、ミッション、ステアリング、サスペンション、LSD、サウンドが変更される。また、VSC(ヴィークルスタビリティコントロール=横滑り防止姿勢安定制御)には、トラクションを加え、少しVSCの介入をカットする機能を持たせている。開発責任者の多田氏によれば、作動には、スピード、舵角、ヨーレートでセンシングし、場合によってヨーレートも作れるデフだとし、さらに、ショートホイールベースでありながら、高速直進安定性を作るためにもこのアクディブデフの存在は大きいのだという。
NEXT:BMWとの共同開発
BMWとの共同開発
さて、5代目となるスープラは北米を中心に復活の熱烈コールがあり、復活を遂げるわけだが、開発はBMWとの協業によって開発されている。ご存知のように、新型「Z4」の開発とともに行なわれていて、共通部分が多数ある。
エンジンはそのBMW Z4、先ごろ2018年パリモーターショーで発表された3シリーズ、そしてスープラで共有される直列6気筒ターボエンジンであり、トランスミッションはZFの8速ATを搭載する。そして、アクティブデフはBMWのMモデルに搭載されているものと同じものが採用され、トヨタが制御チューニングを行なっている。
開発はドイツの公道での走り込みを中心に行ない、通常はテストコースの走り込み、仕上げに公道テストというパターンを変え、開発初期から公道テストを繰り返し、そしてテストコースでも走り込むことをしている。開発ドライバーはトヨタのトップガンだった故.成瀬氏の愛弟子、ヘルヴィッヒ・ダーネンス氏が操安すべての責任を持って開発したという。
そして、生産はオーストリアにあるマグナ・シュタイヤー社のグラーツ工場で製造される。多田氏によれば、この生産体制においても「トヨタ品質」を確保することが、スープラの開発でもっとも苦労したことだという。つまり、トヨタ品質へのこだわりを確保して日本に上陸してくることになる。しかし、新型スープラは「GRカンパニー」初の量産モデルという位置づけでもあり、トヨタ量産モデルとは違うポジションかもしれない。
試乗インプレッション
見てのとおり、ボディはカモフラージュされた状態のプロトタイプで、ここまで説明してきたこと以外の情報はほぼない。外観から分かることとして、装着していたタイヤは、フロントが235/35-19、リヤが275/35-19でミシュランのパイロットスーパースポーツ。また、BMWの指定☆マークも刻印されたタイヤだった。
インテリアにも黒い布がかけられデザインチェックはできない。だが、ZF製の8速ATは独特のシフト動作をするため、説明はないもののZF製であることは間違いない。しかし、シフトノブの意匠デザインはZ4とは共通ではないということで、そうした意匠デザインに関しては8割、9割トヨタオリジナルのデザインで構成されているという。
シートポジションは低い。ドライバーズシートからの景色は、ボンネットが見えロングノーズを感じる。フロントウインドウは狭く、スポーティな印象だ。
さて、ピットロードを出てすぐに感じるのは、滑らかに動くサスペンションとリニアなステアフィールだ。これまでのトヨタ車とは異なるフィーリングで、レクサスの「F SPORT」やGRシリーズにあるスポーティモデルとはまた別のフィーリングだ。擦れるようなザラツキが一切なくクルマの動きが滑らかで気持ちいい。そしてエンジンも滑らかに吹け上げる。が、サウンドとの兼ね合いなのかBMWのシルキーシックスという感じでもない。
ステアフィールはちょうど良い印象で、近年BMWもクイックな方向の味付けに変わってきているので、このスープラぐらいのステアフィールがしっくりくる。
NEXT:様子を見ながらスロットルを開けて…
様子を見ながらスロットルを開けて走りだす。ドライブモードはノーマル。路面はヘビーウェットだ。しなやかに動くサスペンションとステアフィールを感じながら速度を徐々に上げ、タイヤに荷重をかけてコーナリングをしていく。グリップを確かめながらさらに速度を上げていくと、VSCの介入は素早く、滑り出す前に姿勢制御され安定してコーナーを抜けていく。このあたりはアクティブデフの影響もあると思う。
ヘビーウェットにもかかわらず直線も高い直進性を感じる。ストレートでは170km/hが一杯だったが余裕のある安定感だ。そのままブレーキングし1コーナーへアプローチして滑らかにコーナーを脱出する。モードをスポーツモードに切り替えるとサウンドが変化する。スロットルを抜いた瞬間にバックファイヤーのような「ボボボボッ」と音を響かせる。
VSCの介入は遅くなるモードとは言うものの、意外にも介入は早めだと感じる。このままスライドしても大丈夫だと感じていてもある程度のスライド量?時間?になるとVSCが介入し姿勢制御される。また旋回におけるアクティブデフの作動影響だが、タイヤのグリップ内で走行していると、素晴らしく回頭性が高く、また安定しているので安心感が高い。が、スライドしたような状況ではVSCの介入もあり判断が付かない。
そこで完全にVSCをオフにして試してみたところ、大きく暴れ必死にコントロールすることになる。正直、アクティブデフの効果を感じ、思考する余裕を持つことはできなかった。スライドコントロールの上手な人であれば、この時のアクティブデフの介入が邪魔なのか、あるいはサポートなのか、そして好みもあるだろうが機能、性能をジャッジできるだろう。開発責任者の多田氏も「最終的な制御はこの先も変更がある」と言うので、タイヤのグリップ限界付近から先のチューニングは進行中ということなのだろう。
2019年1月14日、デトロイトモーターショーでワールドプレミアされ、その詳細が明かされる。国内導入時期など不明だが、期待は高まるばかりだ。<レポート:高橋明/Akira Takahashi>