トヨタ・シエンタは12年振りのモデルチェンジを受けて登場した。テレビCMも集中的に放映され、今のトヨタのラインアップの中で相当に力の入ったモデルであることがわかる。従来型シエンタはカローラ店で販売されていたが、新型はトヨタ店、トヨペット店、ネッツ店、カローラ店と全チャネルでの販売となっており、Bセグメントのクルマでトヨタ一押しの車種になったのだ。<レポート:松本 晴比古/Haruhiko Matsumoto>
シエンタはトヨタのラインアップの中では、大型ミニバンのアルファード/ヴェルファイア、5ナンバーサイズ・ミニバンのヴォクシー/ノアがあり、その下に3列シートの、つまり最も小さいBセグメント・ミニバン&多用途車(MPV)としてシエンタが位置取っている。
もちろんシエンタは、サブ・コンパクトサイズのミニバンというだけではなく、軽自動車ハイトワゴンにはない3列シートという武器によって軽自動車への流れを食い止め、ミドルクラスのクルマからのダウンサイザーも吸引するといった役割を担うことになる。さらに従来型シエンタのユーザー層の中心は主婦層、シニア層であったが、より若い子育て世代、男性も取り込もうという狙いもある。
商品力の向上という意味では、ハイブリッド車の追加も必須であった。この結果、自然吸気エンジン車は168万円~198万円、ハイブリッド車は220万円~230万円という2段構えの価格帯となり、ハイブリッド車は主にダウンサイザーを引き付ける狙いのようだ。
今回のモデルチェンジで一躍トヨタの重要モデルとなった感があるが、初代シエンタはかなり地味な存在だった。デザイン的にも親しみやすさはあるが平凡で、一見すると主婦層専用車といったイメージだった。
ただ、競合車が少ないことや、3列シートの利便性、多用途性などが評価され、12年間のモデルライフの間にシエンタからシエンタに乗り換えるオーナーもけっこういたそうだ。
また、初代シエンタは登場から7年目の2010年に生産が終了し、後継モデルとしてパッソセッテが登場しているが、販売不振のため9か月後に生産・販売を再開するというちょっと異例の経歴を持つ。
パッソセッテのどこが不評だったのか? 最大の理由はスライドドアをやめて普通のドアに変わったことだという。やはりミニバン/MPVには日本ならではの事情で、リヤのスライドドアは必須の存在なのだ。
もうひとつ、従来型シエンタは特別の販売プロモーションもなしにモデル末期までコンスタントな売れ行きを示しており、すっかりジャンル、ブランドが確立されたクルマとなっている。これは12年間も作り続けた成果と言えるかもしれない。
◆パッケージ
新型シエンタの試乗は、「X」グレード(7人乗り)、「Gグレード」(7人乗り)、「ハイブリッド G」(6人乗り)の3機種を乗り比べた。もちろん、エクステリアのデザインなどはほぼ共通だ。デザインは、初代のイメージを断ち切って、モダンさ、存在感の強調を込め、大胆に変身している。没個性の典型のような初代とは見違えるほどの変貌ぶりだ。また、箱型で画一的になりやすいミニバン的なデザインも排除したことで、新たな価値を与えている。
新型シエンタのプラットフォームはBプラットフォームとなり、アクア、カローラと同系統になっている。全長は3列シートにもかかわらず4235㎜に収め、ヴォクシー/ノアより46㎝も短い。全幅は1695㎜と5ナンバーサイズに収め、これはヴォクシー/ノアと同じだ。全高は1675㎜(4WDは1695㎜)で、ハイトワゴンの部類になっている。ホイールベースは2750㎜と、カローラより長くヴォクシー/ノアより75㎜短い。つまり市街地での取り回し、使い勝手が評価されるのも当然で、最小回転半径も5.2mに抑えられている。
◆使い勝手
シエンタは日常はファミリーでの使用がメインで、年に数度くらい3世代が一緒に乗るという想定だ。そのため、やはりシートのアレンジとその際の扱いやすさが重要になる。3列シート車の場合、もっと大きなサイズのクルマでも3列目への乗り込みがしにくいケースもままある。
その点、シエンタは扱いやすさ、操作性を最重視しており、3列目シートへのアクセスはやりやすい。その方法とは乗り込む側の2列目シートをダイブイン、つまり座面ごと持ち上げるように操作し、同時にシートバックは前方に畳み込まれる…という方式だ。
しかもバネのアシストがついているので操作力は軽く、ワンアクションで前方に折り畳むことができる。もちろん、この方式の場合、3列目シートへの乗り込みを優先し、2列目シートにはその後に乗ることになるが。
さらに日常では3列目シートは折り畳んで、ラゲッジスペースとして使用するが、3列目シートの折畳み収納が、2列目シートのダイブイン式収納と全く同じ操作になっていることは評価できる。
ワンアクションで3列目シートは持ち上がり2列目シートの下に収納される。当然だが、ボディ側面への跳ね上げ式よりすっきりしている。これらの機能性、操作のしやすさは多くの3列シート車の中でもトップレベルと言えよう。
3列目シートを収納した状態では、2列目シートの着座姿勢はアップライトだが、スペースとしては問題がない。3列目シートを使用する場合はそれなりになるが。また2列目シートは3人掛けの7人乗りベンチシートタイプと、左右セパレート型の6人乗りの2タイプがあるが、実用性、使い勝手はあまり差がない気がした。
インテリアのトリム、インスツルメントパネルはすべて樹脂製だが、インスツルメントパネルなどはまるで見た目はソフトパッド付きでオレンジのステッチ入りという凝った仕上げになっている。プラスチック素材が丸出しという感じのアクアなどに比べ、こうした点で大きく進化している。<次ページに>
◆ドライビング
ドライビングポジションは、かなりアップライトなスタイルになるのは納得できるとして、ステアリングコラムがずいぶん下側から生えているのが少し違和感を感じた。もう少し上方に移したほうが自然な気がする。
ハンドリングはギヤ比が相当にスローで穏やかな設定になっている。かなり速めにステアリングを切っても、車体はゆっくり反応するというイメージで、安定性を重視したセッティングといえる。
乗り心地は、滑らかでフラットな路面では良好だが、舗装が荒れた路面や凹凸のある路面で、ストローク量が大きくなるとバタつく印象となった。もうひとつ、ブレーキをかけた時の初期のピッチングが体感できた。前列シートの乗員はそれほど気にならないだろうが、後ろに乗る乗員はちょっと気になるだろう。
なお、ブレーキのペダルタッチはエンジン車とハイブリッド車ではかなり違う。エンジン車は一般的なペダルタッチだが、ハイブリッド車は特有のグニャッとしたタッチになっている。
エンジンは、FFモデルが最新の2NR-FKE型1.5Lで、4WDモデルは従来型を継承した1NZ-FE型1.5Lだ。今回はFFモデルのみの試乗となった。この2NR-FKE型はすでにカローラ系に搭載された新世代高効率エンジンで燃費性能をアピールしている。
しかしCVTとの組み合わせで燃費重視のセッティングになっていることもあって、アクセル開度に応じたリニアな加速感が得にくいと感じた。緩やかな加速での発進ではそう問題はないが、走行中での追い越し加速といったシーンで加速応答にタイムラグがあり、意のままの加速感がない。
シエンタの車両重量は1320㎏前後だが、乗員が4名で総重量が1500㎏となり、上り坂といった条件を考えると139Nmのトルクでは力不足感があり、エンジン回転数も高い領域を使わざるを得ない。こうした多目的車ので乗員数が多かったり、積載荷物が重い場合は、動力性能的には相当な割り切りも必要ということになる。
一方、ハイブリッドは発進トルクはエンジン車よりかなり強力に感じるが、やはり追い越し加速や、高速道路での合流といった場面を考えると動力性能には不満があり、力強さはない。またエンジンががんばる時のエンジン音も少し苦しげに聞こえる。
ガソリンエンジン車を選ぶか、ハイブリッド車を選ぶかは悩ましいところだが、コスト・パフォーマンスで考えればエンジン車に落ち着くと思う。
シエンタのような多用途性を持ったコンパクトサイズのクルマは、もう一方でユニバーサル設計であることも重要だ。
実際、車イスでのスロープを使用する乗り込みができる可変車高のエアサス仕様、ストレッチャーの積載を考慮したウエルキャブ仕様も設定されている。
しかし、それ以上に、若い世代からシニア世代まで、乗りやすい、積みやすい、使いやすいという点が本物のユニバーサルカーと言える。その点でいえばレーザーレーダー、単眼カメラを組み合わせたトヨタ セーフティセンスCをオプション設定し、シートアレンジの扱いやすさ、積載スペースを自在に調整できる積みやすさなどは文句なしだが、乗りやすいという点で、特に動力性能面でもうひと踏ん張りしてほしいというのが正直なところだ。