【トヨタ 新型シエンタ 試乗記】みんなに優しいBEST OF ユーテリティプレイヤー

トヨタのコンパクトミニバン「シエンタ」が3代目にフルモデルチェンジをし、実用的なスモールミニバンを求めているユーザーにピッタリなモデルとして登場した。日常生活の中で便利に、そしてユーティリティも高く、しかも低燃費なモデルはないか?という人にお勧めのモデルだ。

新型シエンタ Z(ハイブリッド・7人乗り)

アクアやヤリスと同等のコンパクトBセグメントサイズで、全長4260mm、全幅1695mm、全高1695mm、ホイールベース2750mmという大きさ。エンジンは1.5Lの自然吸気+CVTと、同じく1.5Lのハイブリッドで、ハイブリッド車にはE-Fourの4WDも設定されている。価格は195万円から310万8000円とお手頃価格に設定されている。

新型シエンタ Z(ガソリン・5人乗り)

プラットフォームはTNGA-Bで、フロント周りはヤリスなどと共通なものの、リヤにかけてはシートレイアウトの違いやホイールベースの違いなどから新設したプラットフォームになっている。

先代よりサイドプロテクションモールが大型化され、ラフに使えるツール感を演出している。

パワフルさと低燃費を実現したハイブリッド

さて、試乗してきたのは都内の一般道でNAエンジンとハイブリッドの両方に試乗した。特にハイブリッドのFFモデルでは予想以上に力強くパワフルに走るのに驚き、実用車のファミリーカーとしては期待以上のパフォーマンスに感じた。

ハイブリッドはシリーズ・パラレル式だが、シリーズ式の比重が高いため、エンジンは発電機的な使い方を中心としてモーター走行をさせるが、フロントモーターは59kW/141Nmとそれほど大きくなく、またニッケル水素バッテリーも6.5AhでEV走行距離を稼げるというレベルにはない大きさだ。

ハイブリッドは1.5Lダイナミックフォースエンジン+59kW/141Nmを発生するモーター。

だから40km/h程度まではEV走行するもののすぐにエンジンは作動し、バッテリー残量次第だが、パラレル方式にも切り替わる。またわずかながらエンジントルクも駆動力と充電の双方に分配するスプレッド式にもなる進化型THSになっている。

近年のハイブリッドモデルの多くがシリーズ式にシフトしており、その際エンジンの存在をわからなくするという工夫をしているモデルが多い中、シエンタはそこまでではなく、エンジンがうるさくないような制御というイメージだ。だから、走行中にエンジンが作動すればすぐにわかるのだ。

そのハイブリッドはヤリスハイブリッドをベースにシエンタ用に仕様変更し、先代のシエンタハイブリッドより25%の燃費改善がされWLTCモードで28.2km/Lという低燃費を実現させている。いわば街中ベストなモデルという言い方が似合うモデルだ。

5ナンバーサイズで広々空間

ターゲットユーザーは若い夫婦に子供がいる世帯で、平日はママが日常の買い物や送り迎えなどに使用し、休日はパパが使うといったシチュエーションが当てはまる。たまに祖父、祖母を乗せることも時々あるので7人乗りが便利といった環境だ。

「ママ友+子どもたち」といったシーンでも7人乗りは重宝されるだろう。

したがって3列シートの7人乗りはアピールポイントではあるものの、日常は、3列目を収納し荷室や2列目を広く使えるような設計にしてあるのも推しポイントだ。つまり常時3列シートが必要なユーザーであれば、ノア・ボクシーサイズを選択するということだ。

その3列目の収納方法では、左右への跳ね上げ式では荷室の広さをスポイルしてしまうし、床下格納にするとオーバーハングが大きくなりボディサイズが大きくなってしまう。そこで2列目の下に格納できる設計にしているのがシエンタのポイントだ。これは先代も同様のレイアウトなのだが、2列目の広さはこの3代目で拡大されている。

3列目はスッポリと2列目の下に格納。さらに2列目を畳めば27インチ相当の自転車も積載可能だ。

特に前後の距離は+80mmとなり1mの距離が取れるので、足元が広くなり、子供の足がフロントシートバックに届かない距離まで広くしている。またスライドドア開口部の高さを1200mmにまで拡大し先代比+60mmとし、またバックドア開口部も高さを15mm拡大、荷室高+20mmとしており、広々とした室内になっている。それでいて5ナンバーサイズを維持するこだわりがある。

近年、コロナ禍ではキャンプの人気が高まり、そのニーズでシエンタ人気も上がっているデータもあるという。これまでは前述の若い夫婦像と、子育てを終えたシニア世代のダウンサイザーのニーズが多いモデルだったが、サイズ感、使い勝手、実用性などからターゲットの拡大もあるようだ。

木目調のラゲージマットやハンガーを掛けられるバーなどアウトドアニーズに応えるアイテムも設定。

車両感覚が掴みやすいボンネット形状

運転をしてみるとハンドルの操作感は軽く、動かしやすい。またボンネットの左右の端を膨らませるデザインとしたことで、運転席から左右の膨らみが見え、ボディサイズが掴みやすくしているのも3代目の特徴だろう。運転席からの視界においてボンネットが見えない方がいいという考え方がある一方で、運転を得意としない人には、車両の大きさを掴みやすくするためには、ボンネットの先端や左右が見えた方が安心するという意見もあるのだ。

そしてエンジンが作動していない時、あるいは市街地の走行時の静粛性にはこだわったという。ルーフには振動を吸収する減衰接着剤を採用するなど、構造接着剤によって剛性を高めるだけでなく、静粛性、制振材としても活用し、上質な乗り味につなげる工夫がされていた。エンジニアによればルーフに当たる雨落ち音は大きな違いがあるというので、オーナーであれば一目瞭然の違いとして感じられるだろう。

愛着のわくデザインで福祉車両のラインアップも拡大

インテリアでは「シカクマル」をモチーフにしたデザインを採用し、愛嬌のある親しみやすいデザインでまとめている。フィアット・パンダでも同様のマル・シカクデザインがモチーフになっているが、優しさ、親しみやすさなどのデータにしにくい感性に響くデザインということだろう。

インテリアはシンプルながらユーザーの声に基づいて設定された収納スペースが多く使い勝手が良い。

また1400人ほどのユーザーアンケートも実施しており、室内に何を置きたいか、何が欲しいかなどの意見を取り入れ、四角い紙パック飲料が入るドリンクホルダーや運転席シートバックにUSB端子とスマホ格納ポケットを設置するなどに反映していた。

エクステリアデザインでも個性的なかわいらしさにこだわり、また男性でも抵抗なく乗れるようなデザインを目指したという。初代のシエンタでは小さく見せるために四隅の角を落とすデザインにしてコンパクト・ミニバンをアピールした。そして2代目ではスタイリッシュにすることを目指し「これミニバンなの?」という狙いに挑戦したという。そして3代目は成熟した市場なので、埋没しない個性を持たせつつ、見た瞬間に使い勝手がわかり、運転がしやすそうと思えるデザインが必要という。

こうした使い勝手の良さ、天井の高さなどから福祉車両への対応もある。従来型の長いスロープのタイプⅠ、タイプⅡも継続して設定しているものの、車椅子の固定に8工程かかっていたものを3工程に減らせる工夫を取り入れている。

タイプⅡは①フロントフック取付 ②リヤフック取付 ③固定スイッチの3ステップで車椅子を固定可能

そしてタイプⅢとしてスロープの短いタイプを新設している。これは車椅子をウイリーさせて乗せる必要があるものの、クルマの背後のスペースが不要になるため、雨中での乗降や後続車にスペースを塞がれてしまうなどの課題も解決できるタイプとして新設定している。

車椅子から離れることなくバックドアを開けられ、操作がシンプルなので乗降時間も短縮される。

これらの福祉車両はトヨタディーラー全店で対応可能で、カスタマイズや常設車両展示などはトヨタハートフルプラザで対応可能という体制でニーズに応えるようにしている。

このように、実用領域でのベストを探求したミニバンで、低燃費、運転のしやすさ、個性的なデザイン、車両価格など総合的に見ても魅力たっぷりなミニ・ミニバンだ。

ポッドキャスト

新型シエンタをフィーチャーしたラジオ番組 FMヨコハマ「THE MOTOR WEEKLY」はポッドキャストからもお聴き頂けます。

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