MIRAIの登場はフィルムのカメラからデジタルに変わった時のようだ。フィルムという媒介から記録メディアに変わったが、写真そのものは変わらない。MIRAIは燃料がガソリンから水素に変わったが、クルマであることには変わりない、ということである。<レポート:松本 晴比古/Haruhiko Matsumoto>
水素を燃料として走るクルマ、MIRAIはどんな感じで走るのか?レポートしよう。試乗は2015年4月横浜の市街地をベースに行なわれ、途中水素ステーションで充填の体験をするというものだった。
燃料電池車MIRAIの構造は水素を使って発電し、その電気で走るEV車である。ボディサイズは全長4890mm×全幅1815mm×全高1535mmでホイールベースは2780mmとクラウンとほぼ同サイズのゆったりめのセダンで、駆動方式は前輪駆動になっている。ちなみに、クラウンは4895mm×1800mm×1460mm、ホイールベース2850mmとなっている。
リヤシートは2人乗りで、左右がセパレートしたシートになっている。その着座姿勢はフロントシートのそれより少しアップライトになるが、VIP用のリヤシートとして、ゆったりとしたスペースといえる。
エクステリア、インテリアともに未来を思わせるようなSFちっくなデザインに感じさせ、次世代自動車であることを感じさせる。起動スイッチを入れるとメーターパネルやセンターコンソールのモニターが点灯し、READYとなる。
Dモードに入れ、アクセルを踏むと音もなく動き出す。モーター特有のトルクフルな加速はするのだろうか? 足に力を入れペダルを踏み込むと、シートに押し付けられるような強い加速力で速度を上げる。最高出力は114kw、最高速度175km/hで航続距離も600kmから700kmもあり、ガソリン車と比較してもそん色ない。そして最初に感じるのはボディ剛性の高さだった。2トンを超える重量級のMIRAIは、これまでのトヨタ車では感じたことのない、しっかりとした剛性感があり、包まれ感と安心感があり好ましい。
エンジンを搭載していないから、静粛性には有利に働く。反面ロードノイズが気になった。フロアパネルから侵入する走行音はエンジン音でかき消すことがないため、目立つ結果になるのだろう。風切り音は特に感じることはなく、首都高速湾岸線の横風のある高速でも気にならなかった。
2014年の11月にプロトタイプに試乗する機会があり、その時の印象と比較すれば、アクセル開度に同調するように聞こえてきたエアポンプの音はすっかり消されていて、静かになっている。また、乗り心地の点でも改善され、ゴツゴツとしたアタリもなく、また、後席の乗り心地も良くなっている。プロトタイプではフリクションの大きさを感じる場面も多くあったが、市販に間に合ったようだ。
操安性では重量物のFCスタックや水素タンクをボディセンター付近に搭載し、バランスを取ったレイアウトで、コーナリングへの影響を考慮している。実際のハンドリングでは、穏やかなステアフィールとなるように設定していると感じた。またプロトタイプよりセンターの座りを若干強調する方向にし、安心感をより高めている。ただ、電動のパワーステアリングの微妙なイナーシャが残っているのが少し気になったので、高級車であるし、細部まで拘った仕上がりが欲しい。
MIRAIの実車は、こんな感じのクルマであり、水素ステーションさえあればすぐにでも日常的に使え、ガソリン車の代替モビリティと言えるレベルだ。ただ、燃料電池、水素社会はクルマだけで解決できる次世代エネルギーではなく、日本、いやグローバルで議論され新技術も投入されていかなければならない。その第一歩を踏み出したのがクルマであり、そしてトヨタのMIRAIであるわけで、クルマの完成度について議論、評価をするよりもっと先の世界を追いかけてみたいと思った。
未来の水素社会とは? そして幕開けしたのだろうか?そのつづきはこちらの記事「ミライは水素社会のトビラを開けたか?」へどうぞ。