トヨタは2020年12月9日、燃料電池で発電しモーターで走行するFCVの2代目となる新型「ミライ」を発売しました。
ラインアップは、標準グレードのG、上級グレードのZという2グレードとし、さらに後席を優先する「エグゼクティブパッケージ」を設定。Gには自動駐車システムを装備した「Aパッケージ」も設定しています。さらに2021年にはレベル2の高度運転支援システムを搭載する「アドバンスド チームメイト システム」搭載モデルも発売予定です。
コンセプトとパッケージング
新型ミライの開発コンセプトは、「感性に訴えるデザイン、唯一無二の走り、一歩先を行くあふれる先進性、安心の航続距離を備えたクルマ」となっています。つまり、燃料電池システムを搭載したゼロエミッションのクルマというだけではなく、走りの性能やデザイン、質感などクルマの本質を磨き上げたクルマとされ、価格に見合った高級車であることを目指しています。
そのため、新たにTNGA-Lプラットフォームを採用し、初代ミライがFF駆動であったのに対し、FR駆動方式に変更。前後荷重配分50:50を実現。燃料電池スタックをフロントに、水素タンクを車体中央のセンタートンネル部とリヤアクスル前後に合計3本を配置し、リヤアクスル上にリチウムイオン バッテリーを置くレイアウトにより、5人乗りキャビンのスペースを十分に確保しています。
またデザイン的にはロングノーズのFRプロポーションで、ワイド&ローを強調した大型セダンらしいボディフォルムとしています。
ボディサイズは、全長4975mm、全幅1885mm、全高1470mm、ホイールベース2920mmで従来型より一回り大きくなりEセグメントのセダンサイズとなっています。
インテリアは、シートやトリム類の質感を高めると同時に、12.3インチの大型センターディスプレイを採用し、8インチサイズの液晶メーター部と一体感のあるデザインとしています。
さらに大型カラーヘッドアップディスプレイ(Zエグゼクティブパッケージ/Zに標準装備)も採用。
シートは、肩、腰、脚部を温めるシートヒーターを前席と後席左右部のシートバック・シートクッションに採用。さらにシートクッションとシートバックからシート表皮の熱気を吸い込むシートベンチレーション機能を前席および後席左右席(シートバックのみ)に設定しています。
Eセグメントのクルマにふさわしい静粛性を実現するため、キャビンまわりに発泡材やスポンジによる吸音材・遮音材を配置。車外騒音、室内へのロードノイズの侵入を低減させています。
さらにモーターギアのノイズ低減のため、モーター直上部にサイレンサーを配置し、厚いダッシュインナーサイレンサーは3層構造にしています。また振動を低減し、乗り心地の向上を図るためフロアパネルの板厚をアップし、フロア全面にわたり制振材を塗布するなど、徹底的に静かな室内空間を実現しています。
最新FCVシステム
新型ミライのFCVシステムは、これまで床下と前部に分散していた各パワーユニットを小型・高性能化した新しい燃料電池ユニットに統合して進化させています。燃料電池スタックのほかFC昇圧コンバーター、パワーコントロールユニットなどをまとめた小型の高性能ユニットをフロントにまとめて搭載しています。
新型燃料電池スタックは出力密度5.4kW/L、最高出力174psと、従来より出力性能を向上させています。またFC昇圧コンバーターは次世代の半導体材料と呼ばれるシリコンカーバイド(SiC)を用いた新パワーMOSトランジスターをトヨタ車として初採用し、高出力化に貢献。
さらに2次バッテリーは、従来のニッケル水素バッテリーからリチウムイオン バッテリーに変更され、ブレーキによる回生性能も向上されています。
駆動用モーターはリヤアクスルに搭載し、最高出力182ps/6940rpm、最大トルク300Nm/0-3267rpmを発生します。モーター出力のアップにより動力性能が向上すると同時に、燃費も約10%向上。そして3本で141L(水素重量で4.6kg→5.6kg/70MGP)と約20%容量を増大させた高圧水素タンクにより、航続距離750km~850km(WLTCモード)と従来より延長されています。
また燃料電池スタックは、清浄な空気で発電するという原理、つまり走行時に大量の空気を取り入れ、エアクリーナーエレメント(ダストフィルター)でPM2.5レベルの細かい粒子まで捕捉。ケミカルフィルターで有害な化学物質を除去し、外気より清浄な空気を排出する「マイナスエミッション」を実現しています。
この他に、ドライビングの楽しさを演出するため、ドライバーのアクセル操作に応じたサウンドを専用スピーカーから出力するアクティブ・サウンド・コントロールや、排出される水を好きなタイミングで排水するウォーターリリーススイッチも搭載しています。
なおナビ連動排水機能を使用するとスイッチを押さなくてもナビと連動して自宅に到着する前に排水できるようになっています。
シャシーと先進安全装備
ボディ骨格は軽量化を図るため、主要骨格部材にアルミ材、超高張力鋼板(ホットスタンプ材)を採用。フロントサスペンションタワー部をアルミダイキャスト化しています。またボディの結合にはレーザースクリュー溶接、接着剤なども採用し、剛性向上を図っています。
サスペンションはフロントがハイマウント式マルチリンク、リヤはローマウント式マルチを採用。操縦安定性を高めるために、アクティブ コーナリング アシスト(ブレーキ トルクベクタリング)、高速旋回時にアクセルオフのタックインによるオーバーステアを回避するためのフィードフォワードタックイン抑制制御、強風の横風を受けた時にはブレーキ制動力により、アンチヨーモーメントを発生させる、横風安定性制御などの先進シャシー技術も装備しています。
先進安全装備は最新のトヨタ セーフティセンスを搭載。プリクラッシュセーフティ、レーントレーシングアシスト、レーダークルーズコントロール(全車速追従機能付)、アダプティブハイビームシステム、ロードサインアシスト、急アクセル時加速抑制などの機能をフル装備。
また運転無操作を継続しているかどうかを判定する、ドライバー異常時対応システムも新たに搭載しています。
その他にITSシステムとして、ITSコネクト、路上のインフラと接続できるDSSS、車両同士で車車間通信できるCVSSシステム、そして緊急時の非常通信「ヘルプネット」接続も可能になっています。
ステアリングやアクセル、ブレーキだけでなくシフト操作も車両が制御するアドバンスドパーク システムも新設定。
この他に、2021年には高速道路では手放し運転も可能な、レベル2の高度運転支援システム「アドバンスド チームメイト システム」搭載モデルも発売予定です。
新型ミライの開発にあたり、燃焼電池システムの生産能力は従来の10倍に強化されるなど、従来のほぼ手作りの燃料電池スタック製造から、少量ながら一定レベルの量産体制が作られていいます。
またもうひとつの特長は、この燃料電池システムはミライだけではなく、商用車や他の産業分野のパワーユニットとして、転用可能なフレキシビリティが与えられていることも特筆すべきポイントになっています。
しかし、いずれにしても新型ミライは究極のゼロエミッションカーであるものの、水素ステーションのさらなる展開など、社会インフラ(水素充填スタンド)の拡充に依存している課題は残されています。