トヨタ 水素社会は来るか? 燃料電池車 ミライの現在 価格は723.6万円

トヨタ ミライ 発表会
加藤光久副社長(左)とミライの開発責任者の田中主査

2014年11月18日、トヨタは、セダンタイプの燃料電池自動車(FCV)「MIRAI(ミライ)」を開発し、12月15日から発売すると発表した。注目の価格は723万6000円。政府による補助金が202万円の想定で、実質価格は520万円となる。

発表会で加藤光久副社長は、6月に行なわれたFCV説明会後に、トヨタ本社、販売店で約200台の受注決定を得ていると語った。もちろん購入者は官公庁・自治体、または法人だ。生産台数は年間400台を見込んでいるというから、実質的にはハンドメイド体制だ。人手による作り込み、検査などに工数をかけるという。

トヨタ ミライ
ツートーン・ピュアブルーメタリック
トヨタ ミライ
センターメーターを採用したインスツルメントパネル

また販売体制も、現実的には水素ステーションがある地域の販売店に限定される。さらに販売店のサービス体制も、FCVは新たな専門知識を必要とするため、今後は販売担当店はサービス技術の教育も行なわれる。そもそもなぜ、このタイミングで世界に先駆けて発売したのか? というと、そのベースになっているのは、政府の施策が影響しているからだ。

2011年1月に、経済産業省の新エネルギー政策、エネルギーセキュリティの向上政策の一環として、国内の自動車会社とエネルギー事業者13社に対し、「FCVを2015年に投入すること、4大都市圏を中心に水素ステーションを整備すること」について、共同声明を発表しているからだ。

その内容として、水素供給・利用技術研究組合(HySUT)は、事業目的として「2015年のFCVの一般ユーザーへの普及開始を目指した、水素供給インフラの社会的受容性と事業成立性の課題検証・解決のための実証研究の実施。水素タウンにおける水素パイプラインによる純水素型燃料電池等への水素供給実証研究の実施」というものである。

FCVと水素ステーション政策

つまり2015年度内に燃料電池車を市場投入することは政府との約束だったわけである。しかしそれは同時に実証実験的な意味合いが強いことも事実だ。トヨタを筆頭に、ホンダも2015年後半にFCVを市場投入するとしている。一方、FCVの燃料となる水素に関しては、エネルギー会社を中心に全国で水素ステーションを100カ所程度設置することを目標に、経済産業省も予算を投入して補助金政策を採用している。

しかし、FCVのための高額な費用を要する水素ステーションが急速に、そして大幅に拡大することは期待できず、その点では電気自動車の急速充電設備の拡充ベースを短期間で上回ることは難しい。FCVは航続距離が600~700kmと内燃エンジン車なみだが、水素ステーションの数が少なければ、そうした航続距離のメリットを得ることはできない。実際のところ、FCVの燃料用の水素だけではなく、産業用エネルギーとして水素が位置付けられないと将来的な展望は見えてこないだろう。

水素ステーション設置場所

また、水素の供給元である岩谷産業のFCV用の水素ステーションでの販売価格は、1100円/kg としている。もちろん他の水素供給メーカーは別価格になることも予想されるが、現時点ではハイブリッド車が使用する燃料代と同等か、それをやや下回るというレベルを想定しているようだ。言い換えれば、バツグンに燃料代が安いというわけではない。

もうひとつ、現在の水素は石油や天然ガスなど化石燃料から精製されており、Well to Wheel(原料産出から最終消費まで)の観点で見ると、必ずしもCO2量が少ないとは言えず、燃料電池車は「水しか排出しない究極のエコカー」と断言できるわけではないのだ。CO2を提言させるためにはクリーンエネルギーや再生エネルギー源から水素を得る必要があり、このあたりも将来的な課題となっている。しかし発表会では「究極のエコカー」としており、興味深い発言でもある。万人に分かり易い表現を用いることで、水素社会へ向けての気運の高まりを、世間から盛り上げていこうという、プロパガンダ的意味合いがあるのかもしれない。

トヨタ ミライ 3面図

ミライはトヨタがコア技術と位置付けるハイブリッド用電動パワートレーンの技術と、自社開発した新型トヨタFCスタック(発電装置)、高圧水素タンクなどで構成する燃料電池技術の融合により生まれている。貴金属を触媒として使用するFCスタックはきわめて高価であったが、貴金属量を低減してローコスト化し、さらに高出力・小型化を実現している。

トヨタ ミライ

またトヨタは、自社内でFCV専用の樹脂、カーボン繊維、ガラス繊維による水素ガス貯蔵用の700気圧という高圧水素タンクを製造している。このような超高圧タンクには厳しい規制があり、完成後も官庁の立会検査が必要であったが、トヨタはFCV用高圧水素タンク製造業として認可を受け、立会検査は不必要としている。こうした高圧タンクの規制は厳しく、衝突時の安全性の確保はもちろん、万一の高温化や高圧化の場合には水素を放出する安全弁、熱溶解式リリーフバルブも備えている。

トヨタ ミライトヨタ ミライ FCスタック

トヨタ ミライ 寒冷地始動性

ミライは、全長4890mm、全幅1815mm、ホイールベース2780mmとかなり大型で、トヨタとしてはクラウンと同等サイズとしている。つまり価格に見合った、セダンサイズで、4人乗りとしている。

トヨタ ミライ パッケージ

最大出力114kW(155ps)のFCスタックから得られた電力は、プリウスと同様の電力制御により650Vに昇圧され、最高出力154ps/335Nm。モーターにより前輪を駆動するシステムだ。なおバッテリーもプリウス用とおなじユニットを使用しておりニッケル水素式となっている。最高速度は175km/hで、加速性能も従来のトヨタ・ハイブリッド車より優れているという。

トヨタ ミライ 水素タンクトヨタ ミライ 水素タンク

▲リヤアクスルの前(左)とリヤアクスル上(右)に水素タンクを搭載。右の上はニッケル水素電池

なおミライはミリ波レーダー方式のプリクラッシュブレーキ、道路上の車線をカメラで認識し、車線逸脱を警告する「レーンディパーチャーアラート(LDA)」、シフト操作時に急発進・急加速を抑制する「ドライブスタートコントロール」、隣の車線を走る車両をレーダーで検知し、車線変更時の後方確認をアシストする「ブラインドスポットモニター(BSM)」を標準装備している。

また販売店オプションのナビにSIMカードを搭載した「T-Connect DCMパッケージ」を接続することで、専用Apps(アプリ)を使用して水素ステーション情報などサポート機能を得られるようになっている。

トヨタ ミライ  外部給電

FCスタックの発電能力を利用して、約60kWhの大容量、最大9kWの電力供給能力を持ち、直流から交流に変換する別売の給電器に接続することにより外部給電機能も備えている。家庭への電源供給、災害時の施設への給電も可能だ。

デザインは、空気と水の流れを表現し、同時に未来感を表現しており、かなり奇抜な印象を受ける。このミライは販売店の店頭で見ることは難しいが、2015年初頭には大都市部でみかけることができるかもしれない。

トヨタ公式サイト

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