2015年10月にクラウン・シリーズのマイナーチェンジが行なわれたが、このマイナーチェンジには見えない部分に手が加えられ、しかもコンセプト・シフトも行なわれていた。驚いたことに、ターゲットライバルとして浮かびあがったのは、ドイツプレミアムセダンだったのだ。「本当に?」という疑問はクラウンをよく知る人であれば、当然そう思うだろう。そこで、何がどう変わったのかに触れてみよう。<レポート:松本 晴比古/Haruhiko Matsumoto>
今回のマイナーチェンジでは、エクステリア、インテリアのデザインの変更、高級セダンとしての走りに関係する基本性能の向上、世界初のITSコネクト(ITS専用周波数を使用した車車間通信、路車間通信:DSSS)の採用というポイントがある。そして新グレードとしてアスリート・シリーズに最新の8AR-FTS型2.0Lターボ搭載グレードの追加設定が行なわれている。
この中で目で見えにくいのが、基本性能の向上という部分だ。その詳細を追ってみると、まずボディ骨格でフロント・アッパーカウル、Aピラー付け根、Bピラー根元、サイドシル接合部などにスポット溶接の増し打ちを行ない、リヤ・バルクヘッド周囲には構造用接着剤を使用して結合剛性を高めている。
今回はマイナーチェンジなので製造工場におけるボディ組み立て工程などを大幅変更することはできない。そのため、ボディ剛性を上げるために要点を絞って、スポット溶接の打点ピッチをmm単位で詰め、90点の打点追加をしているのだ。また構造用接着剤の採用で、剛性と減衰性の向上を図っている。
サスペンションでは、フロントはダンパーのアッパーサポートの補強材追加、ダンパー減衰力の変更、バンプラバーのリニアなばね特性の追求、前後サスペンション・リンクのブッシュの全面見直し、リヤダンパーの減衰力、ばね定数の変更などが行なわれている。サスペンションに関しても、本格的なジオメトリー変更などはできないので、こうしたブッシュ類やダンパー減衰力の変更という限られた中で追及されている。
ブッシュの大幅な見直しは、路面からの前後方向のショックを低減すること、ボディのピッチングを抑えフラット感を向上させること、ヨー方向の応答性の向上とステアリングの効きの向上、より粘りの感じられるロール、そしてリヤのコンプライアンスステア、つまりゴムブッシュのたわみによるトーイン変化の増大などが目的だ。これらを達成するため、従来より柔らかくしたブッシュと、硬度をアップしたブッシュを場所により使い分けている。
◆アスリート・ターボモデルが目指したライバル
さらに、新機種のアスリート・2.0Lターボモデルのパワーステアリングの特性を専用設定し、ステアリングの手応え、応答感を向上させている。アスリート・ターボは、上級モデルにふさわしい基本性能の高い走りを目指しているモデルだ。そしてこのクルマはこれまでのクラウン・シリーズの殻を突き破る、クラウンのこれからの目指す方向を体現した先駆モデルという役割を担っているのだ。
今回のマイナーチェンジでのボディ、シャシーの大幅な見直しは、実はクラウン・マジェスタ、ロイヤル・シリーズ、アスリートシリーズ共通の変更なのだが、アスリート・ターボの登場により、さまざまなクラウンの作り分けという点でも、各モデルシリーズのベクトルがより明確になったと言えるかもしれない。
トヨタのトップレンジ・セダンであり、実質的に日本専用車種であるクラウン・シリーズは長い歴史を持ち、トヨタのブランド・イメージの象徴ともなっているクルマだ。そして現在では、高級ラグジュアリーセダンのマジェスタ、法人所有がメインと位置付けられるロイヤル・シリーズ、そしてパーソナル・オーナー向けのアスリート・シリーズという3本柱がラインアップされている。
さらに搭載エンジンもベースグレードのV6 型2.5Lと3.5L、4気筒2.5Lハイブリッド、そして新しい4気筒2.0Lターボもラインアップしている。だから、それぞれの作り分けがとても大事なのだが、難しい点でもあるわけだ。
これまでのクラウンは日本専用モデルという、ちょっと特殊な位置付けからこのアスリート・ターボはメルセデス・ベンツCクラス、BMW 3シリーズと正面から対抗しようというコンセプトに変更され、特に走りの面では大幅なレベルアップを図っているのだ。が、そのハードルは高いはずだが・・・。
アスリート・ターボへ新たに搭載された8AR-FTS型2.0Lたーボエンジンは、レクサスNX用に横置きで搭載されてデビューしたが、クラウン用はもちろん縦置きで、8速ATと組み合わされる。
このエンジンの出力は235ps/350Nm。ちなみにBMW 3シリーズ、5シリーズなどに搭載するの2.0Lターボは184ps/270Nmや245ps/350Nmがあり、メルセデスC、Eクラスに搭載する2.0Lターボは184ps/300Nm、211ps/350Nmというスペックなので、8AR-FTS型の出力は3シリーズ、Eクラスと同レベルで相当にハイレベルに仕上げられているということになる。
また、この2.0L・4気筒の直噴/ポート噴射併用ツインスクロール・ターボはクラウンに搭載される他のパワーユニットより軽量で、アスリート・ターボのみが前後荷重配分が50:50を実現することができている点も注目したい。
というわけで、実際のドライブフィールでは、本当にBMWやメルセデス・ベンツがライバルとなったのか?レポートを待ってほしい。