なぜカローラでスポーツカーを?「GRカローラ」開発の裏側に迫る!

2022年6月1日に発表されたトヨタGRの新型車「GRカローラ RZ」には、社長の豊田章男肝入りモデルでもある「GRカローラ モリゾウエディション」も同時に披露されている。そのGRカローラについて、開発の裏側を知る機会があったのでお伝えしよう。

「GRカローラ RZ」

「GRカローラ RZ」がそのモデル名だが、現在量販されているカローラスポーツ(ハッチバック)をベースにさまざまな部分を改良し、スポーツカーに仕立てたモデルだ。「なぜカローラで?」という単純な疑問はある。つまりカローラといえば大衆車の代表的なモデルだと思うが、トヨタとしては、また豊田章男社長にとっては量販モデル以外にも特別な想いがあるという。

「GRカローラ モリゾウエディション」

ちなみにGRカローラ RZは4ドアの5人乗りのスポーツカーで、モリゾウエディションは4ドアで2シーターとなっている。これまでのGRモデルは、GRヤリス、GRスープラ、GR86はいずれも2ドアで、今回のGRカローラが初めて4ドア5名乗りモデルとしてリリースされたことになる。

カローラへの想い

さて1966年に初代カローラが発売され、現行モデルで12代目になるが、モータースポーツの世界でトヨタが初めてWRCで優勝したのがカローラで1973年だった。今でこそ量産車ベースのレースカーは数多く存在するが、その元祖とも言えるものだという。

そうした想いを背景に12代目のカローラではスポーティさを取り戻すことを狙いに開発したモデルになったわけだ。さらに豊田章男氏は自身のお金で初めて購入したクルマがカローラ1600GTだったということもあり、カローラへの想いは心の奥底に存在していたという。

カローラ1600GT(右奥)

そのカローラをGRがスポーツカーとして開発したのがGRカローラ RZで、詳細は既報している。開発にはレーシングドライバー石浦宏明、ラリードライバー勝田範彦も加わっている。しかも、通常レーシングドライバーが開発に関わる時は、仕上げ段階レベルが多いというが、このカローラでは、商品企画の段階から関わっていたというのだ。

左からエンジン担当の山成健司氏、レーシングドライバーの石浦宏明、開発責任者の坂本尚之氏

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つまり、スポーツカーとして必要な素材の見直し、厳選をする段階から参画し煮詰める作業まで関わっているということだ。その理由として開発責任者の坂本尚之氏は「車両開発をテストコースで走らせますが、車両の限界性能を超えた時の挙動、コントロール性が素性の良さだと考えています」と話す。

なるほど合点のいくことで、実はGR86とBRZの違いをどう理解するか本音の部分では迷いがあったが、その話で納得できたのだ。というのはGR86はBRZと比較しリヤがナーバスに感じられ、ドリフトもしやすい。だからレーシングドライバー系のジャーナリストからはGR86の評価が高かったわけだ。

坂本氏は「限界の外の評価ができるレーシングドライバーだと、その時の外でのコントロール性を重視していて、素がいいか悪いかがわかります。また人がコントロールできるというのは、機械でも制御しやすいということなので、自動運転の制御がしやすくなったり、また素性がいいと安心して乗っていられるということも言えると思います」

開発意識の変化

一方で坂本氏はGRカローラ開発において、クルマを作ることに対して大きく観点が変わったことを経験したという。

「ラリーで例えるとサービス時間(ピットイン)が決められた中で、勝つための仕様変更は関わる全員のコミットメント(約束、承諾)が必要になる。これにより一丸となって取り組む必要が生まれ、目標達成という共通の意識がはっきりします。自分の役割、担当部位の機能を守ればよいということではなく、お互いが助け合いながらクルマを仕立てる」

「しかし時間は決められている、でも仕事はできない。では仕事のやり方を変える。という正のサイクルが回るというのを経験し、それを量販車の開発に活かしたらどうなるか? セクショナリズム(担当領域)だったり、決め事だからこれ以上はできない、となるとクルマ全体が良くならない。自分の担当領域は守ろうとするので、負のサイクルが回る」

「これは車両開発だけでなく、会社組織としては往々にあると思います。モータースポーツのアジャイルな開発の中では、それはオールドファッション(旧態然としたこと)なところもあり、そぐわないです。実は同じベクトルを向いてタスクを達成することは非常に勉強になる場所です」ということをコメントしている。

「野性味が足りない」

こうした意識改革も開発に伴うエンジニア集団に、モリゾウからGRカローラに対して「野生味が足りない」というアドバイスがあったという。

そこで責任者の坂本氏はエンジン出力を上げることをエンジン担当の山成健司氏に相談したという。実はGRカローラにはGRヤリスのG16E型のエンジンを搭載することが開発初期で決まっており、そのパワーアップをして野生味を作り出そうというわけだ。

山成氏は「1.6Lターボで、すでに272ps出しているのだから、従来のトヨタであれば『ごめん坂本さん、これ以上はできない、このまま出そうよ』と言っていたと思います」と話す。

それを今回RZはG16E型から304ps/370Nm、モリゾウエディションは300ps/400Nmの出力アップに成功しているのだ。このことについて山成氏は「今回やれた理由として、2020年にモリゾウとS耐にGRヤリスで参戦していました。その時『日々改善をして性能を上げていきなさい、性能を上げていくとどういうことが起きるのか、それを繰り返し、そして直していくことが良いクルマづくりにつながるから』と言われていました」

「ですのでGRヤリスは304ps/400Nmを達成できました。それに対して今回はスポーツモデルの量産車なので、どの部品が壊れるかという対策が必要でしたが、実はそのポイントはすでに把握できていました。それもGRヤリスで開発していたからわかっていたことなんです。その対策をした試作エンジンを搭載して坂本さんに評価をしてもらいました」と。ここでも開発意識の変化とG16E型の開発の裏側が見えてくる。

実はこの時レース用の排気系なので市販量産にするにはどうするか?検討が必要で、3本出しのテールパイプになり、結果的にはGRカローラ RZのアイキャッチにもなっている。

水素エンジンと並行して開発

一方で水素カローラも同じG16E型を搭載し、水素を直接噴射して走行している。当初の目標はガソリン車と同等の出力を目指していたが、それが達成された2021年は304psを出す方向にシフトしていたという。そこではパーツの信頼性、ノウハウをフィードバックし、表向きは水素エンジンの開発だったが、実はG16E型カローラの開発も同時並行していたというわけだ。

その2021年の第3戦鈴鹿ではまだ272ps/370Nmだったそうだが、岡山のレースでは304ps/400Nmを達成していたという。

具体的にはGRヤリスの出力をさらに高出力化することに対してパーツとしてはピストン、EXカムシャフトの軸受の変更、それとインジェクターを高圧噴射タイプに変更し、オイルクーラーの冷却性能を20%向上という違いがあるという。

さらにRZに搭載するに際し、つまり量産化するためにAIを使ったばらつきの「最適バランス化」をおこなっているという。工業製品には避けられない製品公差があり、プラスマイナスゼロを目指す最適バランスで組み付けを行なう。そのための選別・組み合わせにAIを使い、そこからライン生産へとながしているという。ちなみに製造工場は下山工場で、エンジンには「匠」ステッカーが貼られている。また車体製造は元町工場の中の匠工房での製造となっている。

「SHIMOYOMA」の文字が刻まれた匠ステッカー

こうして作られたG16E型の高出力バージョンは、量産のRZと特別なモリゾウエディションに搭載されるが、実は304psで共通なもののトルクはRZが370Nmでモリゾウエディションは400Nmと過給圧を変更して差別化をしている。

このモリゾウエディションはGRカローラの象徴的存在のために製造するもので、台数限定で発売される。台数はいまのところ未発表だが、かなり少ない台数が予想される。

またGRカローラRZは北米、日本、オーストラリアをメインマーケットに位置付け、グローバルで販売される予定だ。<レポート:高橋アキラ/Takahashi Akira>

COTY
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