九州のオートポリス・サーキットで2021年7月31日~8月1日にスーパー耐久シリーズ第4戦が開催され、豊田章男社長が率いるROOKIEレーシングは富士24時間レースに引き続き、水素内燃エンジンを搭載したカローラで再び参戦した。
ノントラブルで完走
このレースに出場するに当たり、カローラH2コンセプトにはいくつかの改良が加えられている。
まず1.6LのG16E-GTS型エンジン本体は、より水素燃焼に適合するように燃焼改善を行ない、パワー、トルクも富士24時間レースでの初参戦時より向上しており、トルクは15%アップ、加速性能は9%ほどアップしている。
一方で今回のオートポリスでのレースは5時間レースで、富士24時間レースより燃費重視の比率が下がっており、過給圧も高められているということも推測できる。
このエンジンのパワーアップと同時に車体側も軽量化され、初レース時に比べ40kg軽くなっている。また、シャシーもより熟成され、コントロール性が向上し安定した走りができるようになっているという。
もうひとつ、カローラH2コンセプトの弱点である水素補給に関しては、富士24時間レースでは2台の水素補給機を用意し、1回の水素充填のために2台で順番に充填し、約5分~6分間をかけていたが、今回は1台の水素補給機とし、充填用バルブの流速を上げることで充填時間は約3分間としていた。
つまり他のガソリンエンジン車両のガソリン補給に近い時間まで短縮できているが、ガソリン補給とは違って、水素充填作業はピットでは実行できず、ピット裏の広場に設けた専用充填場所で、高圧ガスの取り扱い資格者の手によって充填されるので、ピットからの移動など時間ロスが生じている。
予選は、2分09秒992のタイムを記録し、出場49台中で総合順位で37番手となった。つまり富士24時間レースでは最もパワーの小さいST5クラスと拮抗していたが、今回はST5クラスを上回り、ST4クラスに少し届かないというレベルにまでパフォーマンスは向上していることを実証した。ちなみにST4クラスのトヨタ86のベストタイムは2分06秒574だった。
決勝レースは、雨、濃霧、そして晴れと天候の変化が激しかったが、カローラH2コンセプトはノートラブルで完走することができ、車両のマイナートラブルのが多かった富士24時間レースから信頼性が向上してることがわかる。
周回数は85周で、ベストラップタイプは2分14秒024であった。ST4クラスで出場した3台の周回数は101周~99周で、こちらのベストラップタイプは2分9秒012。またST5クラスの上位グループは97周で、ベストラップタイプは2分14秒480。つまり決勝レースではカローラH2コンセプトはST5クラスより平均1秒ほど速いことを実証した。
カローラH2コンセプトの意義
今回もオートポリス・サーキットではROOKIEレーシングによる事前説明会が開催され、地元の新聞やNHKなどマスメディアが参加していた。
出席したのは豊田章男社長はもちろん、GAZOOレーシング・カンパニーの佐藤恒治プレジデント、トヨタ自動車九州の永田理社長、大林組の蓮輪賢治社長、次戦の鈴鹿レースで水素輸送を担当する川崎重工業の橋本康彦CEOらが列席。
ここでは豊田社長が、カーボンニュートラルに向けて電動化だけではなく内燃エンジンによる可能性を強調しているのは従来通りだ。一方、トヨタ自動車九州の宮田工場では、太陽光発電パネルで発電した電気で製造された水素をフォークリフトの燃料などに使用しており、そこで製造された水素も今回のオートポリスで使用されている。
さらに大林組は大分県九重町で地熱発電を行なっており、その余剰電力で電気分解して得られた水素も今回のレースで使用されている。
大林組のパイロットプラントである地熱発電は、電力網に組み込まれていないため、電力を水素に変換しトヨタ自動車九州の工場に供給していることから、今回の燃料としても使用されることになったのだ。
前回の富士24時間レースでは宮城県浪江町の太陽光発電で得られた電力で電気分解を行なって生成された水素を使用したが、今回は宮田工場、大林組のカーボンフリー水素を使用している。
また次回の鈴鹿で開催されるスーパー耐久第5戦では、大型水素エンジン開発や、水素輸送技術の先頭を走る川崎重工と連携するなど、水素関連企業との連携を民間レベルで盛り上げるということもROOKIEレーシングの意図だということを読み取ることができる。
もちろん、水素の産業用インフラを整備することは国家的な事業であり、化石エネルギーを使用し化学工場や製鉄で算出される大量の副生水素と、再生可能エネルギーで生み出すが高価なカーボンフリー水素の合理的な使用、貯蔵、輸送などはカーボンユートラルを目指す上で極めて重要とされている。だが、現状はまだまだ先が見通しできない状態であり、それに対して一石を投じる役割を豊田社長は担っているということができるだろう。