マニアック評価vol536
久しぶりに心揺さぶられるセダンがデビューした。トヨタ・カムリがフルモデルチェンジして、2017年7月10日から発売されている。試乗の機会があり、フルTNGAの第1弾となる新型カムリについてお伝えしよう。<レポート:高橋 明/Akira Takahashi>
■選んで乗ってもらう新型カムリ
「もっといいクルマをつくろう」をスローガンにTNGAというキーワードで新展開しているトヨタの製品群だが、ミッドサイズセダンのカムリをフルTNGAとして新開発した。プラットフォームはもちろん、パワートレーン、インテリア、エクステリアデザインを一新するとともに、搭載位置やレイアウトなども一からの開発とした。すべてが一新されたトヨタの新しい新世代商品群のトップバッターとして新型カムリは投入されたのだ。
ちなみにプリウスやC-HRではパワートレーンなどの一部が従来からのユニットを使っていることなどから、すべてが新設計の「フルTNGA」になったと言えるのが、このカムリからになる。
カムリは1980年にFRでデビューし82年にはFFになって現在まで継続している息の長いモデル。国内ではそれほど目立たない存在だが、継続販売されているモデルだ。カムリのメインマーケットは北米というグローバルミッドサイズセダンで、100か国で販売され、アメリカでは15年連続販売台数1位という人気の量販モデルでもある。
ただし、台数販売は良い数字ではあるものの、「積極的に選択されているモデルなのか?」という視点からすると、ニックネームが「食パン」や「バニラアイス」といった、選んでおけば間違いない、という選ばれ方だったとトヨタは分析している。もっといいクルマをつくろうのスローガンの元、選んで乗ってもらうモデルにしようというのが、新型カムリの開発目標の大前提なのだ。
■選んでもらうためのデザイン
テーマは二つ。理屈抜きでカッコいいことと、意のままの走りができることという二つ。
新型カムリのデザインへのこだわりが、選んでもらうための重要な要素というわけだ。フルTNGAのデザインはボンネット高を下げ、ドライビングポジションも低くとり、シルエットも低重心になるように新設計している。フロントフェイスはキーンルックを進化させ個性的なデザインとし、ロー&ワイドな印象となるようにデザインしている。
サイドは後席居住性も考慮し、ルーフ後端を延ばし、のびやかなプロポーションを両立させ、サイドウインドウもコンパクトにすることで、スポーティな印象となるようにしている。リヤビューは、リヤショルダーを張り出した安定感のある造形で上級な車格に相応しいスタイルとしている。
インテリアもセンスを感じさせる内容になっている。エンジンフードを下げているため、インスツルメントパネルの厚みを抑え、良い視界を確保。センターコンソールも伝統的なT字型デザインから脱却したS字をモチーフにしたデザインになっている。
加飾部分でも継ぎ目のない金属調和加飾などの部品構成や、宝石のタイガーアイをイメージしたオーナメントパネルなど素材の見せ方や豊かな風合いにこだわったという上質なインテリアだ。
外板色はプラチナホワイトパールマイカ、グラファイトメタリックの新色を含む7色展開をしている。ちなみに、ボディサイズは全長4885mm×全幅1840mm×全高1445mm、ホイールベース2825mmで、価格は税込み329万4000円から419万5800円。
ライバルと位置付けられるモデルも難しいが、アコード、アテンザあたりになるだろうか。そのアコード・ハイブリッドはカムリより全長+60mmの4945mm、全幅は1850mm、全高1465mm、ホイールベース2775mm。価格は税込み385万円から410万円。また、アテンザは全長4865mmでカムリより-20mm、全幅1840mm、全高1450mm、ホイールベース2830mmで、ハイブリッドを持たないアテンザだと、上級グレードのAWDディーゼル・レザーパッケージで400万1400円あたりとの比較になるだろう。
■満足度の高い走行性能の追及
走りのへのこだわりでは、新型のパワートレーンがまず注目だ。国内ではハイブリッドモデルだけの展開で2.5Lのダイナミック・フォースエンジンと名付けられた高効率のガソリンエンジンに第4世代のハイブリッドシステムTHS2が組み合わされている。北米ではこの2.5Lガソリンエンジンに8速ATを組み合わせたモデルもラインアップするが、国内はハイブリッドのみの展開になっている。
ちなみに、この2.5Lのダイナミック・フォースエンジンはA25A-FXS型で圧縮比はハイブリッド用が14.0、自然吸気展開する北米仕様は13.0の違いがあるが、それ以外目立った数字的な違いはない。もちろん、圧縮比が変わればそれに伴う仕様変更はあることは言うまでもないが。そしてハイブリッドモデルは33.4km/Lという、とんでもなく省燃費性能を持ちながらの走りへのこだわりを謳っているわけだ。JC08モードとはいえ、軽自動車、コンパクトカーを超える燃費数値には驚く。
そして走行性能に大きく影響するボディでは、最新のGOAに基づく衝突安全ボディとし、センターピラーにホットスタンプ材、フロントドアベルトラインに高張力鋼板を採用している。そして高強度な環状構造でキャビンのねじれを抑制し、高剛性なボディにしているのも大きなポイントだ。
この高剛性ボディをベースに直接走行性能をつかさどるサスペンションは、フロントが新設計のマクファーソンストラットで、リヤがダブルウイッシュボーン式。また電動パワーステアリングはラック並行軸型を採用し、取り付け剛性を上げステアリング剛性のアップとともに、瞬間的な大トルクにも対応している。
■試乗インプレッション
試乗車はGグレードのレザーパッケージとファブリック仕様のGグレードで、一般道と高速道路を1時間の試乗が2セットのテストドライブだった。ドライバーを低く座らせるということを意識して開発されているだけに、ドラポジには気を使っている。フロントの視界は良く、特にAピラーが細く、ドアミラーの取り付け方にも配慮があり死角が少ない。
走り出しはモーター駆動の影響もあるのだろう、トルク感のある力強い走りを感じる。またCVTの表現に使うラバーバンドフィールは全くと言っていいほど感じない。エンジンの回転と加速フィール、スロットル開度とのリニア感はATと遜色ない。特に感心したのは、中間加速時のラバーバンドフィールが消されていることだ。発進時のフィールは良くなっていても、中間加速ではラバーバンドフィールが残るというのが、CVT車の特徴だが、カムリはそのネガなポイントがなかった。
乗り心地はいい。NVHではハーシュネスもいいと思う。硬いアタリは感じないし、うまいこと丸く収める方向にチューニングできていると感じる。ダンパーはスポーティな印象の締まり方で、上級なインテリアからするとBMWのような方向性のイメージと似ている。北米マーケット用の、決してアメ車的なふわっとした乗り味ではなく、しっかりとした引き締まった印象だ。
それよりも特筆したいのは、滑らかに走ることだ。特に50km/h近辺での巡航時にエンジンが止まりEV走行に切り替わっているときは、じつに滑らかで気持ちがいい。国産車でここまで滑らかに走るミッドサイズセダンはないだろう。それほどライバルには差をつけていると感じる滑らかさだった。
ちなみに、試乗車の装着タイヤはブリヂストンのトゥランザT005Aで235/45-18とミシュラン・プライマシー3の215/55-17のサイズ違いが用意されていた。この17インチ、18インチのサイズ違いがあると乗り心地の点で、どうしてもエアボリュームのある17インチがいいという結果になることが多いのだが、新型カムリでは18インチモデルも遜色なく、見栄えの点からも18インチがベストチョイスだと思う。
操舵では直進の安定感が高く、これも欧州車のような印象だ。操舵は決して重たいほうではないが、直進の座りの良さや、転舵時の手応えなどがしっくりとして馴染む。この辺りはボディの剛性ともリンクしていて、感性評価のバランスが良いと感じた。
試乗コースにはワインディングがなかったため、はっきりとつかめなかったのだが、回頭性は良さそうで、リヤの追従性も良さそうな印象だ。旋回ブレーキをかけてもスピンモードなどのそぶりもなく、また、回頭中のアクセルオン、オフでも舵の方向に動き、近年の欧州車と同じ味付けだと感じた。
トヨタやレクサスに共通する操舵の特徴で、コーナリング時のアクセルオン、オフで車両がアウトにもインにも動かせる特徴があるが、C-HRからは、そうした味付けではなく、舵の方向からズレない方向性になっている。
もう一点特筆すべきポイントで、ブレーキタッチがある。ハイブリッド車は回生ブレーキと油圧ブレーキがあり、ブレーキペダルを踏んでいる最中にバッテリーの充電状況などから、また、停止直前などで油圧ブレーキだけになるタイミングがあり、そのタイミングでブレーキタッチに違和感が出てしまう症状が他社のハイブリッド車に多く見られる。が、トヨタはハイブリッドのパイオニアであり、プリウスで培ったノウハウが存分にあるのだろう、純粋な油圧ブレーキと全く差異がないという、地味で目立たないポイントだが高い技術力を持っていることを感じた。
■気になるダイナミック フォースエンジン
高い走行性能と環境性能を両立させる目的で開発された直列4気筒のガソリンエンジンは、新型カムリに搭載され、TNGAの第1弾「ダイナミック フォースエンジン」と名付けられた。最大熱効率でコンベンショナルな北米用は40%、ハイブリッド用が41%という高効率なエンジンなのだが、ポイントは38%付近の高効率な領域が拡大できたことがポイントなのだ。
走行性能と環境性能の両立という視点でポイントとなるのは、高速燃焼だ。そのために多くの技術が投入されているといわけだ。ボア×ストロークは従来の2AR系の90mm×98mmから87.5mm×103.4mmへとロングストローク化し、バルブ挟角の拡大、高効率吸気ポート、マルチホール直噴インジェクター、高圧縮(コンベ13.0、HEV14.0)などの技術が採用されている。
高速燃焼させるために高ターンブル流を作っている。ちなみにD-4Sシステムはダイレクト噴射とポート噴射を共用し、吸気ポートをできるだけストレートな形状に設計している。そのためバルブ挟角も31度から41度へと拡大し、吸気側のバルブシートにはレーザークラッド工法を用いて形状を成形し、高ターンブル流を発生させている。
そして、その高ターンブル流に噴霧自由度の高いマルチホールの直噴インジェクターを組み合わせることで、燃料と空気のミキシングがマッチングされ、高速燃焼に貢献している。もちろん、高レスポンスのVVT-iEにより高応答の吸気量制御も同時に行っている。また、EGRによる冷却、環境性能を採用しているのはいうまでもないが、高速燃焼を実現すると、ノッキングが起こる前に燃焼してしまうということだ。
そして運転はアトキンソンサイクルとしながらも、ストイキでの燃焼で希薄燃焼はさせていないエンジンだ。その結果、燃焼効率として38%付近のエリアが非常に大きく拡大で、最高熱効率41%という世界でもトップレベルの高効率エンジンというわけだ。
さらにハイブリッドシステムも進化が進められ、4代目プリウスと同じシステム構成だが、出力の高いモーターを組み合わせていることも、このカムリの滑らかな走りとハイブリッドの常識を変えるドライバビリティに貢献している。また、北米仕様のダイナミック・フォースエンジン+8速ATのトランスミッションもアイシンAWとトヨタとの共同開発で、アイシンAW、トヨタ、北米の3か所で生産されている。
この8速ATは1速ギヤを低速に、8速ギヤを高めのオーバードライブにすることで、全体の変速比幅を広げ、また多段化によるドライバビリティに貢献する組み合わせとなっている。
新型カムリは、全体的な感性性能がまとまっている印象で、ハイブリッドながらスポーティセダンに分類できると思う。アクセルレスポンスや力強さ、そして乗り心地やハンドリング性能、ボディ、ステアリングの剛性感もそうだ。さらに、ルックスでもサイドウインドウの小型化やのびやかさを感じさせるサイドビューなど、スポーティ感で統一された心揺さぶられる一台と言える。