マニアック評価vol571
2015年1月にデビューしたアルファード/ヴェルファイアは3年が経ち、マイナーチェンジを行なった。ポイントになるのは「基本価値の充実」を掲げ、高級ミニバンに相応しい先進安全装備の充実と、デザインの大幅な進化ということに集約される。<レポート:高橋明/Akira Takahashi>
■アルファード/ヴェルファイアのユーザー層
ラージ・ミディアムキャブ・ワゴン市場では2017年時点で75%のシェアを持つアルファード/ヴェルファイア。独占市場とも言える比率だ。特に2015年に投入した「エグゼクティブラウンジ」グレードは法人や高級志向層からの支持を受け、2012年比で月平均2倍の販売台数となる伸びを示している。
そうした支持層に向けた戦略として今回のマイナーチェンジでは、モデル全体の基本性能向上を掲げ、アルファード/ヴェルファイアのエアロボディにもエグゼクティブラウンジのグレードを新設定、快適装備の空調シート、ハイブリッドのエアロボディにはエントリーグレードの追加、また、コンパクトからの上級移行層向けに内装質感の向上など、マーケットからの声に応える変更も充実させている。
さて、基本性能の向上という内容は、先進安全装備の全車標準装備とデザインの大幅変更の2点だ。トヨタではトヨタセーフティセンスPとCという2種類の安全装備があったが、このアルファード/ヴェルファイア以降から「トヨタセーフティセンス」という名称で統一していく。
■先進安全装備の全車標準装備化
このアルファード/ヴェルファイアに標準装備されていたセーフティセンスPが機能を向上させトヨタセーフティセンスという呼称になる。第2世代の新開発のセンサー、カメラになり、左右、上下方向の視野角が広がったことが特徴で、より精度が高まっている。
従来は検知対象とならなかった、夜間の歩行者、自転車を検知対象としたり、レーダークルーズコントロールの作動時に、車線を維持する「レーントレーシングアシスト(LTA)」を新たに搭載している。車線中央を走行する精度とシステムの起動性にこだわった開発ということだ。
また、このLTAはトヨタからのメッセ―ジとして、ユーザーの運転をサポートする機能で、ユーザー自身が運転することが重要だということを言っている。自動運転技術ではないというメッセージだと理解できる。
もうひとつ、「ロードサインアシスト」は制限速度や進入禁止などの標識をディスプレイ表示する機能で、さらに先行車発進告知機能も追加されている。
■デザインの大幅進化
アルファードは「勇壮」をキーワードに、ダイナミックでアグレッシブな方向のデザインとし、ヘッドランプから繋がるメッキ加飾と、立て基調の立体大型グリルにより堂々さを表現している。また、リヤビューでは、ガーニッシュを拡大し腰高感を払拭、ワイド感と力強さを表現している。アルファードのエアロボディはバンパーコーナーをより立体的にし、スポーティさとダイナミックさを演出するデザインへと変更された。
ヴェルファイアは、「大胆不敵」をキーワードにして、クールでモダンなテイストを強調。ヴェルファイアの特徴である上下2段の立体構成をさらに明解にし、塊感を強調した。リヤはガーニッシュをベルトラインからの連続した形状としてワイド感を強調し、リヤビューも2段構成としてヴェルファイアらしい記号性を実現している。
また、エアロボディはバンパーコーナーからボディサイドに抜ける大型のサイドポンツーンでボディ下まわりをよりダイナミックにしワイド&ローを強調している。
さて、700万円以上の高価格帯にもかかわらずアルファード/ヴェルファイアの人気を支えるのがエグゼクティブラウンジ・モデルだ。これまでエアロボディには設定されていなかったが、今回のマイナーチェンジでエグゼクティブラウンジを設定することで、さらに人気が高まることだろう。
■新開発のV6型3.5Lエンジン
高級志向層のニーズである、「ゆとりのある走りが欲しい」という声にも応える形で、新開発のトヨタブランドとしては国内初となる2GR-FKSを搭載し、8速ATと組み合わせている。従来型の2GR-FEの280psから301psへと向上し、トルクも344Nmから361Nmへとアップしている。
同じ2GR系ということで、まったくの新規開発とは想像しにくく、FEからFKSへと変更されているので、トヨタからは新規開発と説明されているが、マイナーチェンジというレベルではないだろうか。トヨタではレクサスLSに搭載する新規のV6型エンジンV35A-FTSがあり、最先端の高効率エンジンのダイナミックフォース・エンジンもある。アルファード/ヴェルファイアへの搭載は、次のフルモデルチェンジのタイミングと想像できる。
■試乗レポート
今回のマイナーチェンジでは、乗り心地と操縦安定性の向上のために構造接着剤の使用範囲を拡大し、高速走行時の横揺れの低減と乗り心地の両立を目指している。また、ショックアブソーバーのバルブ変更を行なっており、トヨタの資料によれば、乗り心地が0.25、操縦安定性も0.25向上というデータを提示された。だが、単位が不明でデータ詳細は分からない。
ミニバンでこうした高級なモデルはライバルがなく、比較することができない。そのためライバル不在とも言われている。日産・エルグランド、メルセデス・ベンツのVクラスあたりになるのだろうが、75%のシェアを見てもライバルと呼ぶには差があるということだろう。
さて、先進安全装備の中で、テスト走行において試せたのがLTA(レーントレーシングアシスト)だ。同一車線内で車線中央を走行することにこだわったと第1先進安全開発部 第12開発室の勝田寛人氏は説明している。従来、車線中央維持はカメラからの情報で白線を認識し、中央からのズレをステアリングトルクで修正する方法を使ってきたが、今回は舵角修正も取り入れていると説明する。
つまり、パワーステアリングへの修正舵信号で、白線から何センチのズレを修正するのに、ステアリングを何度切るか?という信号に変更するということだ。この修正方法の違いにより、車線内での惰行がなくなるということになるのだ。
こうした制御変更は、理論的には惰行しないはずだが、実際の走行では、多少の惰行はあった。また、路面の傾斜によって中央維持が難しくなる場面もある。さらに、隣の車線が防音壁や大型パネルトラックが走行していても、車線中央のままなので、ドライバー心理としては、トラックからは少し離れた場所で走行して欲しいという心理も働く。
ただし、前述のように、この機能は自動運転技術ではなく、あくまでも運転者のサポート機能であるので、こうした要求自体が的外れな指摘ということかもしれない。
ちなみに、サプライヤーに関しては勝田氏からは公表できないと言われたが、「変更はない」という言質がとれているので、デンソー製のカメラを採用している。