【ニュース読み解き】米国でのEVビジネスを成功させるためのトヨタの戦略

トヨタは2023年6月1日、アメリカ市場でのバッテリーEVの供給に向け、アメリカにおけるEV車の生産工場決定と、電池工場への追加投資を発表した。

建設中のトヨタ・バッテリー・マニュファクチャリング・ノースカロライナ工場

■ アメリカで初のEV生産工場
2025年からToyota Motor Manufacturing Kentucky, Inc.(TMMK)で、新型EVの3列シートSUVを生産開始することを決定したが、トヨタが米国でEV車を生産するのはこれが初となる。そしてこのモデルには、Toyota Battery Manufacturing, North Carolina(TBMNC)で生産するバッテリーを搭載する予定としている。

トヨタはなぜEV車を日本からの輸出ではなく、また電池を現地生産する工場へ追加投資したのか。この背景には、アメリカのIRA法の存在があるのだ。

アメリカは2022年8月に「インフレ抑制法(歳出・歳入法):通称IRA(Inflation Reduction Act法)」が、米上・下院で可決されている。

インフレ抑止法案(IRA)は、急激な物価の上昇を抑制すると同時に、エネルギー安全保障や気候変動対策を迅速に進めることを目的とした法案だが、特にEVや太陽光パネルの設置など環境に配慮した設備投資に関する減税や補助金なども盛り込まれている。その一方で、一部増税や課税強化の内容も盛り込まれている法案である。

また、EV、PHEVの市場導入を加速させるため、購入者に対する補助金(税額控除)や、再生エネルギー事業への補助には、太陽光パネルはアメリカ製であること、EVではバッテリーも車体も米国生産であることが求められ、特にバッテリーに至っては、バッテリーセルに使用する材料も中国産材料が一定以上含まれていないことが求められている。つまり反中国策が盛り込まれているのだ。

これまで市場に流通しているリチウムイオン電池は、生産量、シェア共に中国製が世界ナンバーワンであり、そのため、当初はGMやフォード製のEVでさえ、自社が投資した北米(アメリカ、カナダ、メキシコ)生産のバッテリー原材料が中国製であるため、補助金が受けられないのではと注目されたのだ。

後に、さすがにこの点は緩和されたが、EV購入者が約100万円の補助金(税額控除)を受けるのは、アメリカ生産の車両、バッテリーであることが求められているのだ。

その結果、北米生産のフォルクスワーゲンiD.4を除いて、日本、ドイツのEV車が軒並み補助金対象外となっているのだ。

したがって、せっかく輸出を開始したトヨタ・プリウスPHEV、RAV4 PHEV、bZ4X、ソルテラは補助金の対象外になっているのだ。

この徹底したアメリカ最優先主義のIRA法に対応するためには、アメリカでのEV車生産、バッテリー生産の体制を早急に構築する必要に迫られ、今回のトヨタの発表はその対応策なのである。

■ 電池工場への追加投資
トヨタの北米統括会社であるToyota Motor North America, Inc.(TMNA)と豊田通商は、今後の電池の需要増を見据え、現在建設中のTBMNCに21億ドルを追加投資し、インフラ整備を進めることを決定している。

今回の発表で、TBMNCへの総投資額は59億ドルに達し、拡大する電動車の需要に必要なリチウムイオン電池を生産・供給することになるわけだ。

TMNA 小川哲男CEOのコメント

「カーボンニュートラルの実現に向けできる限り早く、できる限り多くのCO2排出量を削減することを目指してまいります。この目標を達成するためには、お客様のニーズを満たす電動車のラインナップを提供する必要があります。米国初のトヨタ単独の車両生産拠点であるTMMKと、最新の工場であるTBMNCが、電動車のラインナップを拡げるため、BEVとバッテリーの生産を開始し、未来に向け走り出すことを楽しみにしております」

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