トヨタは2023年5月10日、組織改正と幹部職の担当変更を5月15日付けで実施すると発表した。その狙いはEV開発の専任組織として、新たな車両カンパニーとして「BEVファクトリー」を新設するというものだ。
トヨタは、これまではFCEV(燃料電池車)とEVの開発を担当していたのは「ZEVファクトリー」という組織であった。FCEV、EVともに少量生産モデルであり、開発組織も通常のモデルとは異なるコンパクトな部署であった。実際にFCEVのMIRAIはハンドメイドに近い生産体制であり、bZ4X/ソルテラもMIRAIと同じ元町工場第1ラインで製造されていた。
2021年12月に当時の豊田章男社長は、2030年までにEVを30車種投入し、目標販売台数を350万台へと引き上げると発表し、EVの量産、ラインアップ拡大の方向に舵を切ったかに見えたが、実際にはその開発体制、生産体制はほとんど整えられていなかったのだ。
その背景には、EVを量産するために使用するモノのコストや時間、トータルのコスト・収益の不安があり、開発、生産体制の構築などもブレーキがかかっていたわけだ。
そのため、トヨタ・スバルで共同開発したbZ4X/ソルテラはZEVファクトリーが主担当となり、e-TNGAプラットフォームを採用したとされているが、既存の技術を流用するなどの理由で、ピュアなEVプラットフォームとはならず、生産体制もMIRAIと共通の小規模生産ラインで行なわれている。またEVとしての性能も平凡といわざるを得なかった。
このように実際のEV戦略は混乱しており、収益性を確保できる見通しもなかった。こうした状況は社内でも大きな課題となっていたはずである。
そして、今回ようやく「ZEVファクトリー」を廃止し、「BEVファクトリー」を新設し、テスラに対抗できるような開発力、EV商品力の獲得と、収益を確保できる生産体制の構築に向け動き始めたということができる。
BEVファクトリーは、ワンリーダーの下で、「開発・生産・事業」全てのプロセスを一気通貫で行なうことで、スピーディーな意思決定と実行を実現すること、海外、ウーブン・バイ・トヨタ、仕入先と一体となる横断的な組織体制によって、アジャイルな開発を加速させるとしている。
海外(北米・中国・欧州など)については、EV普及地域の顧客ニーズと市場動向の取り込み、ウーブン・バイ・トヨタとの協業は電子プラットフォーム「アリーン」を始め、知能化の最新技術を捉えた開発、そしてEVに特化した新技術・新工法を用いた新たなモノづくりの体制を作り出すとしている。
生産体制では、EV向けに従来の半分の組立ラインにする、そのためには部品のモジュール化の徹底、コンポーネンツの一体化などが考えられ、テスラのような前後のシャシー・コンポーネンツの一体成型化などが念頭にあると想定される。
また、今回の「上海モーターショー・ショック」で明らかになったように、中国のEVメーカーの開発速度の速さ、オーナー向けの付加価値の高いソフトウエアの普及などソフトウエア・ディファインド・ビークル(SDV)の予想以上の加速などをキャッチアップし、追い付くためにはSDVを前提とした電子プラットフォーム「アリーン」の早期開発、さらにそのプラットフォームに付加されるサードパーティを含めたソフトウエア、アプリの開発も喫緊の課題となっている。
なお新たにBEVファクトリー(カンパニー)のプレジデントに就任したのは加藤武郎氏で、これまで中国で中国向けEVの開発を担当した経歴を持ち、最新のEVトレンドを熟知していることで起用されたという。
そしてBEVファクトリーから生み出される次世代EVは2026年に投入される計画で、今秋のモビリティショーでそのコンセプト・モデルが出展されることになっている。