【解説】トヨタ 大きく舵を切った新たな電気自動車戦略

トヨタは2021年12月14日、MEGA WEBでバッテリーEV戦略に関する説明会を開催した。

トヨタは従来から、電動化戦略に関しては地域、国情に合わせハイブリッド、PHEV、FCV、BEVを並行して展開する全方位戦略を提唱してきた。今回の説明会でもその基本的な戦略は変更しないことが明言されているが、一方で純電気自動車(BEV)の商品戦略は、すでに発表しているBEV専用プラットフォームを初採用した、「bZ4X」を2022年夏頃に投入することのみで、BEVに関しては慎重な姿勢を見せてきた。

今回公開されたコンセプトカー15車種と「bZ4X」

バッテリーEV戦略に関する説明会の背景

豊田章男社長は、BEVだけがすべてではない、内燃エンジンを生かすソリューションもある、内燃エンジンに関わる裾野企業の550万人の雇用を守るという発言を続けてきた。

しかし、トヨタも認めるように、世界、社会の変化のスピードは誰もが想定していた予測より、はるかに早くなってきている。

ヨーロッパにおけるグリーン・ニューディール政策では内燃エンジン搭載車の販売にブレーキを掛ける政策が進められており、アメリカではバイデン大統領は2030年には新車販売の50%をゼロエミッション車にする目標を示している。もちろん世界最大市場である中国でも新エネルギー車政策は進行している。

このため、トヨタ・ヨーロッパのマット・ハリソン社長は、2035年までに西ヨーロッパでCO2をゼロにするための戦略を本社より先に発表し、2030年までに少なくとも50%をゼロエミッション車にすることや、水素利用を推進し2035年にはカーボンニュートラルを実現することを公表している。

このような背景から、トヨタ本社としてもゼロエミッション、CO2排出ゼロのBEVに対するより明確で積極的な取り組みを公表する必要に迫られたということができる。

また同時に、幅広い車種でBEVを展開するためには、どれだけの投資が必要かということや他数の車種をラインアップして事業としての収益が確保できるか、そのためには「原単位(一定量を生産するために使用する、または排出するモノのコストや時間)」を確定し、トータルのコスト予測、サプライヤーの確保、生産体制の構築なども想定する必要がある。

したがってトヨタは今回のバッテリーEV戦略に関する説明会のために、現時点で想定できる最大のBEVの製造、販売のための経営的な評価を行ない、2030年までにBEVを30車種投入し、目標販売台数を従来の200万台から350万台へと引き上げ、それに相当する総コストなどを算出したと考えられる。

レクサスはBEVブランドに

豊田社長は、数的な目標として2030年までにBEVを30車種投入すると発表し、これまでに発表したbZ4X以外の15車種のコンセプトカーを公開した。また2030年までにグローバルで350万台を販売することを目標としている。

そしてこの電動化戦略とBEV戦略に合わせ、2020年~2030年の9年間の研究開発への投資、設備投資は合計8兆円で、特にBEVには4兆円(この内2兆円はバッテリーへの投資)、ハイブリッド、PHEV、FCVへの投資が4兆円としている。

ただ、これはあくまでも投資計画で、特にBEVに関しては、生産規模などに合わせて適宜調整される。

BEVの開発は、高効率な開発体制、開発期間の短縮などこれまでに蓄積してきたTNGA体制を、BEV専用プラットフォーム(e-TNGA)でさらに加速させるとしている。

そして、今後のBEV攻勢を牽引するのがレクサス ブランドで、レクサスのモデルはすべてBEVにすることが目標となっている。

これは、グローバルでラグジュアリー ブランドのオーナー層は電気駆動化に関心が高く、積極的に受け入れるトレンドになっているというのが理由だ。

レクサスは2030年までにバッテリーEVでフルラインアップを実現し、ヨーロッパ、北米、中国では100%バッテリーEVモデルとし、グローバルで100万台の販売を目指す。さらに2035年にはグローバルでもバッテリーEV100%を目指すとしており、これは2021年初頭に公表した「Lexus Electrified:レクサス電動化」のビジョンを、今回はより明確に目に見える形にしたわけだ。

このように、トヨタはグローバルではBEVに集中せず、ハイブリッド、PHEVなども幅広く展開する全方位戦略の原則を維持するとしながらも、明らかにこれまでよりBEVの比率を高め、今後BEVを重点的に開発する方針としていることがわかる。

下山テストコースを走るレクサスRZのプロトタイプ。このモデルがレクサスEVの先頭を切る

レクサスのプレジデント兼トヨタのブランド担当責任者の佐藤恒治執行役員は、今後のレクサスのBEV化については、モーターが生み出すリニアな加減フィール、低重心を生かした気持ちのよいハンドリング性能を組み合わせることで、ドライビングプレジャーが感じられるレクサスらしいBEVを目指すとしている。

そして次世代のBEVスポーツカーでは、0-100km/h加速タイムは2秒台前半、航続距離700kmオーバー、そして全固体電池の搭載も想定した、ポルシェ・タイカン並の超高性能スポーツカーも実現させることを想定。今回のコンセプトカーにもその姿を垣間見ることができる。

これからの課題

トヨタは今後のBEVを大量に展開する目標を明らかにしたが、それを実現するための課題もまだまだ多く存在している。

レクサスのBEV化、今後30車種の新規開発、バッテリーの開発などを考えると、現在のトヨタのBEV、FCVの開発部門であるZEVファクトリーは比較的小規模な開発部署の規模拡大は必須となると考えられる。

今後のbZシリーズのベースとなるBEV専用のe-TNGAプラットフォーム

2022年夏頃にデビューする初のe-TNGA採用モデル「bZ4X」、スバル「ソルテラ」は共同開発という形で生み出され、トヨタの元町工場で生産される。今後登場する30車種のBEVの多くはスバル、マツダ、スズキなどとの共同開発という形になることが想定され、それにより開発費を低減させることが可能だ。しかし、本格量産を行なうための生産体制はまだこれから整備する必要がある。

また、BEVの大量生産やコスト低減の最も大きな課題はバッテリーの確保にある。BEVを世界の各工場で生産するためには、その工場に隣接したバッテリー供給工場が必要になる。バッテリーは重く、かさばるため海外輸送には適していないため、BEVの車両組立工場の近くにバッテリー生産、アッセンブリー工場を新設する地産地消が原則だ。

トヨタの試算では、2030年を想定するとバッテリーの必要量は280GWhとされている。これに対しトヨタは自社、あるいは合弁会社からのバッテリー調達を前提にしている。日本においてはパナソニックとの合弁会社である「プライム プラネット エナジー&ソリューションズ(PPES)」が基幹工場となる。

また12月9日には豊田通商との合弁でアメリカ・ノースカロライナ州に新バッテリー工場を建設することが発表されている。中国ではすでに現地のCATLと合弁でバッテリーを確保する。

これに対してヨーロッパでのバッテリー調達は白紙状態だ。現時点ではっきりしていることは、トヨタは他の自動車メーカーのように大規模なバッテリー調達体制を構築するのでではなく、BEVの生産量に合わせた規模で、フレキシブルにバッテリーへの投資、供給体制を築こうという方針である。

ただ、リチウムイオン バッテリーの原料であるリチウムなどは、2030年時点での必要量を豊田通商が確保済みであるとしている。

トヨタはこれからの9年間、2030年に向けての戦略や投資を明確にした。つまり、やや出遅れたものの舵は切られたのである。

今回披露されたBEVコンセプトカー

今回登場したコンセプトカーの大半はフレキシブルなe-TNGAをベースにしたBEVだ。ただレクサスの高性能な未来モデルは、新たなBEV専用高性能プラットフォームも想定されている。

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