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2018年8月3日、トヨタは2019年3月期 第1四半期の決算説明会を東京本社で開催した。第1四半期の売上高は前年同期比3151億円(4.5%)増の7兆3627億円、営業利益は前年同期比1083億円(18.9%)増の6826億円、営業利益率は前年同期の8.1%から9.3%へと向上。連結販売台数は2万1000台増の223万6000台であることを発表した。
販売台数が日本市場で3万4000台の減少となった以外、海外市場では好調に推移し、原価改善、営業努力、諸経費の低減などにより、営業利益は前年同期より1000億円増加した。
TNGAの役割
この決算発表会で、コーポレート戦略部ミッドサイズ・ビークルカンパニー(プレジデント)・MSボデー設計部(部長兼務)の吉田守孝副社長の「トヨタのもっといいクルマづくり~『愛車』をつくり続けるために~」というテーマのプレゼンテーションが行なわれた。
このプレゼンテーションにより、豊田章男社長が提唱する「もっといいクルマ」の具体像や、その代名詞ともなっている新世代プラットフォーム「TNGA」はどのように展開されるのか、という戦略が初めて明らかになった。
TNGA(トヨタ・ニューグローバル・アーキテクチャー)は、完全モジュラー・プラットフォームの意味で、単にボディの土台であるプラットフォーム(車台)を意味するだけでなく、車内の配線や搭載する電子機器のモジュラー化=電子プラットフォーム、モジュラー設計を徹底したエンジン、トランスミッションの新採用、その他主要なユニット部品のモジュラー化、世界各国にある生産工場での生産関連技術の共通化などを含む、幅広いモジュラー化の概念を指している。
吉田副社長は、トヨタのもっといいクルマづくりはTNGAとカンパニー制(社内のバーチャル・カンパニー制度)を両輪として進めていると語る。クルマのポテンシャルを大幅に高めた上で、賢く共用化するのがTNGAの目指すところで、車種ごとにこだわりを持って「愛車づくり」を実行するのがカンパニー制だという。
まずTNGAは、クルマの基本となる基本要素、コンポーネンツをすべて一新し、ひと目見てかっこいいと感じられる特徴的で魅力あるデザインや、一度乗ったらずっと乗っていたいと感じる気持ちの良い走り、安全、燃費など、愛車づくりの基本となる基本性能や商品力を大幅に向上させることを目的としている。
そしてTNGAは、多くの車種に適用できるようにグループ分けを行ないつつ、共用化や効率化、そして原価低減に繋げるように企画されている。クルマの基本性能を決める機能部品がTMGAと位置付けられている。その結果、車両の原価の60%~70%をTNGAコンポーネンツが占めているという。
カンパニー制の役割
各カンパニーは、TNGAで基本性能を大幅に高めた基本骨格をもとに、それぞれがこだわりを持って愛車づくりを行なうシステムがカンパニー制と位置付けられている。現在の社内カンパニーの展開は、レクサス、ミッドサイズ、コマーシャル(商用車)、コンパクト、ガズーレーシング(GR)の5つのカンパニーと、完全子会社のダイハツが担当するAセグメント+新興国向け車両カンパニーの合計6つのカンパニーが展開されている。
ミッドサイズ・ビークルカンパニーはレクサスブランドをつくり、高級感にこだわり、より多くのユーザーがハンドルを握った時に笑顔が生まれるクルマづくりを目指している。また、コンパクト・ビークルカンパニーはコンパクトで低価格にこだわり、そしてGRカンパニーは気持ちの良い走りにこだわるという役割だ。
これら各カンパニーは、総責任者のプレジデントがトップダウンで意思を決定し、企画、設計、生産技術、製造現場の各部門が一体となって、より速いスピードで効率的にクルマつくりを行なうようにしており、その成果が最新のクルマに反映されつつある。
TNGA-C(Cセグメント)では、プリウス/プリウスPHV、SUVのC-HR、グローバル・ハッチバックのカローラ スポーツはいずれも共通化されたプラットフォームを使用し、ハイブリッド、SUV、ハッチバック、さらには今後登場するステーションワゴンなど多様な商品展開を実現。いずれもが開発、生産ともにしやすくなっている。
TNGA-Cのトップバッターとなったプリウスは、燃費に特化したクルマで、ダイナミック性能はそれほど鮮明ではなかったが、その後のC-HR、カローラ スポーツの展開によって、TNGA-Cの高い性能はより明確になってきた。
特にグローバルCセグメントのハッチバックとして造られたカローラ スポーツは、強豪ライバル車がひしめくマーケットの中で、トップレベルの走りの質感を達成できるところまできたのはTNGAとカンパニー制のメリットが最大限生かされたといえる。
また、レクサスLC、レクサスLSで開発されたTNGA-L(縦置きエンジンの大型FR用プラットフォーム)は新型クラウンにも採用され、クラウンの運動性能を飛躍的に向上させている。単にプラットフォームを共用化しただけではなく、その走りの質を一挙にグローバル基準で高いレベルに飛躍させることができたのは、プラットフォームのポテンシャルの高さと、ミッドサイズ・カンパニーの新たな走りを目指すという取り組みの成果といえるのだ。
新たな課題と今後の展開
現時点で、TNGAのコンセプトのもとで7車種が登場し、それぞれが成功作となっているが、その一方で課題もクローズアップされてきている。吉田副社長は、「お客様からいいクルマになったが、価格が少し高くなったという指摘も受けている」と語っている。
大幅な性能向上、先進安全装備などを採用したことなど、装備の向上、商品力のアップを行なった結果ではあるのだが、一方でユーザー側の視点では高価格化と捉えられているのだ。
もうひとつは、今後のさらに厳しくなる燃費、排ガス規制に対する対応、コネクテッド化、クルマの知能化、電動化などを想定すると、トヨタが生き残るためには、より開発のスピードアップや開発のフレキシビリティ、商品競争力の強化も求められている。
そのため、先行開発や商品企画の強化、コストダウン、開発現場でのムダの排除やジャストインタイムの導入などTNGAコンセプトをより進化させる必要があるとしている。また、これらを実現できる人やチームの育成も同時並行的に進めるという。
こうしたTNGAの成長を進めながら、2020年頃には世界約30の生産工場でTNGA車両の生産を行ない、全トヨタ車の約半数をTNGAモデルとする計画だ。
トヨタはTNGAの導入以来、はっきりと目に見えるほどクルマづくりが変わり、個別の最適化された作り方から、グローバルで通用するよりシンプルで運動性能が高いクルマにシフトしている。これは「もっといいクルマ」の具体像と考えられるが、果たして日本市場でこの運動性能の高さがユーザー層に認知されるのだろうか?
また、トヨタのTNGAコンセプト、もっといいクルマつくりは、言い換えれば「コンペティティブ」(競争力)向上であり、その総責任者(チーフ・コンペティティブ・オフィサー)はディディエ・ルロワ副社長(ルノー出身)だ。
日産は、チーフ・コンペティティブ・オフィサー兼製品開発担当として山内康裕執行役員が就任している。こうしたグローバル規模での商品競争力の向上という発想は、他の日本の自動車メーカーにも波及すると予想される。